いまそこにある夫婦の危機『さざなみ』

先日『さざなみ』を観たんですがね、これがすばらしかった。無邪気(悪くいうとアホ)な夫の言動に対する、妻本人すら意識していないレベルで心の奥底の心情なり本音が、ふと表情にあらわれる瞬間(その素の表情の恐ろしさったら、ない)をとらえまくった真に恐ろしいすばらしい映画なのです。監督インタビュー記事

『さざなみ』ヘイ監督「ゲイの僕が“誰かと繋がりたい心”を理解する際の問題を描いた」|結婚45年の夫婦の危機をアカデミー賞ノミネートのシャーロット・ランプリングが演じる - 骰子の眼 - webDICE

『さざなみ』:愛の深さは歳月で測れるのかアンドリュー・ヘイ監督インタビュー|ANTENNA -Culture-|.fatale|fatale.honeyee.com

をみても、「ホラー」という単語が出てきた。まさにこの映画はホラーといってもいいくらいじわじわと見る者にせまって、こちらの感情を揺さぶる。シャーロット・ランプリングが名演すぎてこわかったです。ラストも、これはこうなるよな、と納得がいく。それまでの積み重ねがあるからね。

なにげない会話に含まれた意図。会話において、嘘をついてくれてもいいから、うわべだけでもいいから、とこちらが期待した答えを裏切るような答えが無邪気なまでに無頓着に返ってきたときに感じる断絶というかちいさな絶望。その積み重ねがどんどん追い詰めていく。妻の心は不審と闇に覆われていく~もうランプリングのライフはゼロよ!それまで45年の積み重ねがあろうと、砂上の楼閣のごとくガラガラと崩れ果て、遺跡のように残った土台にもはや新たな関係を築くことなんてムリムリ不可能。その詳細はぜひ映画本編を観て味わってほしいところです。

こういうホラーとしかいいようのない夫婦関係の危機映画といえば、昨年観た『フレンチアルプスで起きたこと』もそうでした。夫婦以外の第三者が入るシーンや全く関係なさそうなシーンもすべてが夫婦関係の危機を感じさせるというのがよくできてるなぁと感銘をうける映画の特徴ですね。最も人間に影響をあたえるだろう”家族関係の土台がゆらぐようなこと”は、他の関係なさそうな日常にも物凄く影響を与えるものなので。あと夫が不都合なことは認めない、自分はあくまで悪くない、とかたくなになるところも共通してるな。

どちらの映画にもいえるのは「夫は自分のなにが悪かったか(妻に対して良くなかった、不誠実だったか)が分かってないし、これからもきっとわからない」ということです。口では謝っても、心底はわかってねぇなぁ、ということが妻にはバレバレなのだ。だから絶望する。これまでのすべて、しあわせだったことすら反転する。『さざなみ』の夫婦も、『フレンチアルプスで起きたこと』の夫婦もこの先どうなったんだろう、というエンディングの余韻がずっと後を引く。こういう「観終わっていろいろ考えちゃったり、あのあとの物語はどうなったんだろうな、とか考えちゃう」映画はいいですね。それにしてもあのダンナ本当救いがたいな。


アカデミー賞主演女優賞ノミネート!『さざなみ』予告編

 

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