労働と人生『マイレージ・マイライフ』

1週間に5日働いています。通勤は片道1時間。残業しなくても、一日のほぼ半分は仕事のことで時間がすぎていきます。
学生の頃に抱いていた労働イメージは、“お金を得るための手段”。氷河期だったくせに、まだ理想的というかぼんやりした、というか、労働なめていたというか・・・《いや、現在の就活世代は本当に大変ですね、下手すれば大学生活の半分近くが就活に費やされるって》
就職活動で、性格もよく、まじめでしっかりした友人が、受けても受けても内定がもらえない就職の現実の厳しさを目の当たりにして、大学受験が苦しくて先が見えなくて辛かった、というのとはレベルの違う厳しさにおののきました。
入試は、“学力”なり“偏差値”というレベルのはなし。就職は自分という“人間”に対する“評価”というレベルのはなし。会社から“不採用”といわれると、人間性が評価されなかったということ、そして社会から必要とされていない、という感覚にさいなまれて“自分の居場所はどこにもない”とまで思いつめるとこまで行ってしまいそう。そうして働き始めると、仕事は“お金を得るための手段”から“自分という人間の評価の一部”又は、“社会的立場・居場所”へとその意味付けや重みがかわっていく。仕事は人生の一部どころかほとんどになり、学生の頃には「仕事のために自殺ってなに?自殺するならやめりゃいいじゃん」と思っていたのが、「追い詰められると、そういう選択肢しか残ってなかったのかも」なんて思ったりする。仕事は自分の一部になり、仕事を果たすことが自尊心を満たしたり、自己表現の手段となったりする。
マイレージ・マイライフ』は今年シネフェニックスにて鑑賞しました。この主人公も仕事と彼の実人生がかなり一体化した状態で登場します。アウトソーシングされたリストラを宣告する仕事を引き受けて、全米を飛び回る主人公は、死の天使ですね。でも、そのいわば社会的生命をいったん断つような宣告を、自分はスムーズに且つ痛みが少ないようにできるんだ、という自負が強烈にある。仕事に関するプライドは絶対です。だからそれ以外のプライベートへの執着は極めて薄くって、肉親との関係についても恋愛についても深入りしない。
しかし、リストラ宣告機能をセンター化して、スカイプ的なもので相手にリストラ宣告するコストカット案により、主人公はこれまでの仕事のやり方を刷新されて、彼の居場所はふわふわと不安定になる。不安定になった彼は、拠って立つ場所を“わたくし”に求め始めて、ガールフレンドとの関係をより親密にしようとしたりしても、うまくいかない。そんな、うまくいかない主人公の“わたくし”ステージでもひとつ上手くいったことがありました。妹のフィアンセ(見るからに不安定そうな危うさがある)が、結婚式直前にドタキャンしそうになる。「やっぱ自信ねーわー。それに家族に縛られるのヤだ」みたいなこといって。こどもっぽいなーこいつ、妹、やめとけよこんな男、と観ながら思ったものですが、ここで主人公のジョージ・クルーニーが上手いことその男をなだめるんですよね。傷つけないように、やらかくすこうし支えて持ち上げて、結婚という次のステージに移れるようになだめすかして。
で、ここで素晴らしいタイミングで、会社から「やっぱ新しい案ダメだわ、旧来の方式に戻すから戻ってきてよ」と、主人公に招集がかかる。up in the air。最初は全米を飛行機で飛び回って物理的に宙に浮かんでた主人公は、一度地上のフィールドに足をつけたものの、ふたたび今度は運命に呼ばれて地上を蹴ってふわふわと浮かんで死の天使となる。今度は使命を帯びて。calling⇒missionですね、まさしく。主人公にそなわった能力、彼がうまくできること。社会の一部に必要なコマの一つで彼が担うべき役割。
さて、自分には『マイレージ・マイライフ』の主人公のような秀でた能力もないし、仕事においてオリジナルな創作をしているわけでもないし、代替可能な仕事しかしていない、と思う。でも、社会の大部分は代替可能ななにかで構成されていないと、うまく働きませんよね。かけがえのない一回性のみで構成されたシステムはもろい。あっという間に崩れる。代替可能な自分のお仕事ではありますが、任されているからには責任が生じる、その責任は全うしないとな、と思っています。名前も残らないけど、歯車だけど、歯車だって鍛錬されてちょっといい歯車になることもあると思う。ただ歯車を回す日々だけど、毎日は決して同じではないし、そんな日々を生きることが生活するってことだわーとぼんやり思う。仕事は人生の大きな一部。でも当然のことだけど人生は仕事だけじゃない。社会は仕事だけで成り立ってるわけじゃないですから(あたりまえだけど)、文化的ななにかだったり、人とのつながりのなにかだったり…仕事外の部分を大事にしないとなーというのも、最近とみに感じるのです。
なんだかセンチメンタルな感じになってしまいましたが、今日という日の日記は、まあこんな感じで。

マイレージ・マイライフ』ジェイソン・ライトマン監督 ジョージ・クルーニー主演
http://www.kinejun.jp/cinema/id/40726

ハート・ロッカー』論争 町山智浩さん×宇多丸さん 2010年3月28日
http://www.tbsradio.jp/utamaru/2010/03/dapart_1_1.html
http://www.tbsradio.jp/utamaru/2010/03/dapart_2_1.html
http://www.tbsradio.jp/utamaru/2010/03/dapart_3_1.html
※『マイレージ・マイライフ』についてもかなり触れています。