憂い顔の吸血鬼『デイブレーカー』

吸血鬼のお約束といえば
・食事は人血。コウモリ由来。太陽光がダメで太陽光を浴びると人体発火。人間の腕力より全然怪力。ネコや犬などの動物には敵視される。といった基本から
・銀NG。十字架NG。ニンニクNG。鏡に映らない。目が(赤系の色に)光る。という映画やシチュエーションによって適用されるローカルルールまでいろいろなお約束があります。
基本のルールは観客側にも大体共有されていると思うけど、つどつどでローカルルールがどのように適用されるか、が映画やドラマの成立にはポイントになる。先日TVでやっていた『トワイライト』では、曇り空なら外に出てもOKというローカルルールがありました(学校での気になるあいつ《そんな彼は実はヴァンパイア☆》との出会いや、野球大会のシーンくらいしかみなかったのですが…)。
SFとか近未来もの、ディストピアものって、映画の世界内ルールをいかに観客が共有できるか、っていうのが大事なので、ローカルルールをいかに説明っぽくなく納得させるか、っていうのを製作者サイドはかなり考えるでしょうね。
『デイブレーカー』は2019年が舞台となっていて、あるとき起こった感染?パンデミック?以来吸血鬼がどんどん増えて、人類は絶滅危惧種。世に栄えた吸血鬼たちはまるで人類社会のような社会(ちゃんと会社勤めして通勤電車乗って、郊外の家を持って)を律儀に形成していて、貨幣が流通しているらしく貧富の差が生じている。このあたりはすごく面白くて、コーヒースタンドで人血入りコーヒーを売ってて、とか吸血鬼世界のニュース番組の映像とか、車の日光遮断モードとか小道具とか設定の凝り具合で映画内世界にノっていけました。もうひとつ前半で秀逸だったのが、貧しい階層の吸血鬼たちが人血不足(+人血を吸えないので自分の血を吸う)ことによって、モンスター=サブサイダーと呼ばれる存在に変異すること。こいつが主人公の家に現れるんですが、老人+激やせ(あばら浮き彫り)+コウモリ(ただし肌色)っていう力の入りまくった造形でした。こいつが腕ひろげてコウモリの羽っぽいのがひろがったときには戦慄しました。この発想はなかったよ!っていう。そう、サブサイダーの存在っていうのはこの映画内ローカルルールなんですが、これは結構すんなりのれました。
あと、イーサン・ホークがいいんですよね。先月くらいにみた『クロッシング』でも苦悩する警官を演じていたイーサン・ホークですが、今回も苦悩しています。彼はなんとも憂い顔が似合うので、額にしわが寄るほど、いいね!本領発揮!と思ってしまいます。冒頭、吸血鬼少女が遺書を書いて、日の出の光をあびて自殺=人体発火するのがプロローグとしてあるのですが、これは「心臓が止まって、年老いることのない、生きていない生なんて“生”じゃない」というテーマで、イーサン・ホーク演じる主人公も少女と同じ思いを抱いて憂いている。年も取らず、人血なしではいられない呪われた自分って存在って、と哲学者ぽい憂い顔。アニキお誕生日おめでとう!人血100%だぜ!と弟が瓶詰め人血持ってきても、ヤダっつって捨てちゃう。主人公はどこかに自殺願望(っていうかもう死んでるけど)があるんですよね。わが身の置き場がないっていう。
この後、いかにしてこの主人公が、“吸血鬼”である自分の死んだ“生”を“治療”するか、っていうところにお話が進むのですが、このあたりから映画内ローカルルールが炸裂して、そんなルール作っちゃうって、なんでもアリになっちゃうんじゃね?というご都合主義も若干感じるかな。ただ、最後に多人数のわいわいするシーンがあって、そこは結構盛り上がるし、ラストも、ありがち、かなぁという感じはしましたが、イーサン・ホークが生気のある顔をしていたからよかったですよ、とはいえやっぱり憂い顔なんですけどね。
と、つらつら書いてきましたが、映画観ながらずーっと思ってたことがあるんです。『デイブレーカー』世界での食糧危機は
・人類を一定数確保して、きちんと生殖させる。そんで、殺しちゃうんじゃなくてちょっとずつ血液抜く。
で一挙解決じゃね?とずーっと思ってました。トキとかコウノトリの繁殖みたいにさ。
ともあれ、死なないってツライと思う。「不死」というテーマは昔見た土曜ワイド劇場で池波志乃氏(中尾彬のヨメ)が何百年か何千年か生きてる妖怪、死ねない美しい妖怪、みたいなの演じてるのをみて、美しい?という若干の疑問は抱きつつも、「死なないって不幸!」って思いました、こどもながらも。土曜ワイド劇場といえば昔、再放送でみた、鱶女(ふかおんな→サメおんな)っていうのもあったな。むかしの土ワイって冒険してて、すごかったのかも(全部うろおぼえにつき、不確かですが)。とりとめがなくなったこんなところで、〆。

『デイブレーカー』スピエリッグ兄弟監督 イーサン・ホーク主演
※昨日109シネマズ神戸でみました。観客10人くらいでした。
http://www.kinejun.jp/cinema/id/41360
憂い顔のイーサン

憂い顔といえば、憂い顔の騎士(全然関係ないケド)
ドン・キホーテセルバンテス
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