『インファナル・アフェア』をⅡ⇒Ⅰ⇒Ⅲの順で観た日

先日、『トレインスポッティング』ほか2本をパルシネマで観たことを書いたのですが、今日は、12/22〜12/29までパルシネマ40周年記念特集上映その2として、いわずと知れた香港ノワールの傑作『インファナル・アフェア』3部作一挙上映を25日土曜日に観にいったことについて書いてみます。
実際は、マフィア側から警察に潜入した者と、警察側からマフィアに潜入した者、どっちが先にバレるのか、というスリリングな展開と黒社会を描く映像や演出が素晴らしい『無間道』がまず公開され、次に、エピソード1的な『無間序曲』、最後に『無間道』の後日および裏側譚を描いた『終極無間』で完結、という順番で公開されました。が、今回の特集上映では公開順ではなく、映画内時系列順で上映されました。
というわけで、まず『無間序曲』。これは『無間道』の前日譚なので、『無間道』本編で主役オーラを放ちまくるトニー・レオンアンディ・ラウは出てきません。代わりに若き日の彼らを演じるショーン・ユーエディソン・チャンが運命に翻弄され、交錯する様が描かれるのですが、『序曲』で一番存在感を漂わせていたのは、組織の大ボスであるクワンがエディソン演じるラウ《後のアンディ・ラウ》に殺害された後、クワンの跡を継ぐ次男ハウを演じたフランシス・ンでした。クワン(一瞬しか映らないけど)にしても、ハウにしても、組織のトップの人間は一見穏やかで落ち着いていて、ものっすごいクレバーです。その穏健なたたずまいの一方、背後に苛烈さを漂わせる演技は圧巻でした。たとえば、クワン亡き後、上納金をバックれようとする小ボスを順番に電話の一通話で落としていくクレバーな遣り口。かと思えば、クワンが亡くなってよかった、という言葉を警察から投げかけられて、一瞬で怒りの沸点に達することでうかがい知れる心に秘めた父への尊敬の念と仇への根深い恨み。警察の犬を容赦なく射殺する場面。利用してきた人間を順番に容赦なく始末していく様・・・ハウの存在感で物語が締まっていると思います。あとは、一番お人よしそうで、いいように使い捨てられそうな小太りのサム《エリック・ツァン》の存在。冒頭に登場し、ボスにあくまで忠実で、コミカルな狂言回しにしか見えない彼が、ラストではハウ亡き後、中国に返還され、新たな局面に入った香港で成り上がったところで終わる構成。時代も政治的状況も、組織の仕事の仕方も新たなフェーズに入り大きな転換がなされたことがリンクし、『無間道』へのお膳立てができるところで終わる。シリーズではなく単体で観るならば、これが一番纏まっているな、と思いました。あんなに冷静なハウがどこまでも執拗に父の仇を討とうとするところも、アジア的な粘着、血の縁の縛りの強さを感じてよかったです。あと、迷わず射殺したり、車で轢いたり、火だるまにしたり、マッサージ中にビニール袋で窒息させたり・・・というシーンもドラスティックになりすぎず、冷淡な、粛々と実行される感じでよかったです。
続く『無間道』。冒頭からトニー・レオン演じるヤンとアンディ・ラウ演じるラウが登場。ヤンは警察学校を退学し、異母兄のハウの組織に潜入、現在ではサムの組織で潜入捜査を継続中。ラウはサムの手下だったが、現在は警察に潜入し情報をサムに流している。ただ、どちらの組織も互いに潜入させている人間がいることに気づいて“犬”の存在を探し始める・・・。『無間道』はストーリーもスリリングで面白い!けど自分的には、トニーとアンディという2大“スター”の放つ華やかな存在感にヤラれました。また、撮影のアングルやらカットがいちいちかっこいい。有名なビルの屋上でのシーンなんて、震えました。ビルの屋上の配管やらがボコボコと無骨にある風景と空の配分と二人の立ち位置、すべてが完璧でかっこよすぎる。あとは、潜入捜査に疲弊しきっていながらも自分の生きる“よすが”である「自分は警官なんだ」というアイデンティティをギリギリ保って職務を全うするトニー・レオン。また、昔の女とか女医さんとかの前で見せるチャーミングすぎるとしか言いようの無い表情を浮かべるトニー・レオン。そんなトニー・レオンって、もう反則のレベルに達してる、と思いましたよ(なにに対して反則かはよくわからないけど)。もちろん、アンソニー・ウォンの死にっぷりも最高でした。あれも完璧なタイミングと死に様でした。
ラスト『終極無限』。これは、安心して観られたんですよ。なぜかっていうと、主たる物語の結末は『無間道』で描かれてるから。『終極無限』はヤンが亡くなる数ヶ月前と、亡くなった後の物語が交錯して、ラウの生き様に決着がつけられる、タイトルの示す“無間地獄”に囚われた男の末路。この作品では公安のエリートを演じるレオン・ライがよかったなー。“なにか”裏にありそうな匂う感じの演技をソツなくこなす彼の存在感をすごく感じました(今書きながら『黒く濁る村』の検事さんにちょっと似てたような気もするし向井理に似ていたような気もする:ちなみにメガネ)。主人公について言うと、妻にも去られ、組織とも縁を断つも、警察での自分の立場が危うくなるリスクと隣り合わせであり、且つヤンを死なせた自責の念などで完全にアイデンティティクライシスに陥ったラウが、自分をヤンの姿と幻視しはじめる倒錯した描写はよかったよ。時間軸行ったりきたりがなかなか上手く捌けてない感じはあったけど、ラストで『無間道』の冒頭に帰還するところはぞわぞわと背筋が騒ぐような、シリーズの醍醐味を感じました。
映画内時系列順の上映によって、一連のストーリーとして順番に理解できる、という利点はあるのですが、『無間道』のあとで『無間序曲』が作られている関係で、ちょっと辻褄が完全に合ってない、というか若干不自然な箇所があったんで、できれば、Ⅰ→Ⅱ→Ⅲの公開順で観たかったかな、という気も。いやいや、3部作一挙上映を見られただけでもよかったな、うん。
テーマは映画の中で何度も語られたセリフ。「運命は人を変えるが、人は運命を変えられない。」に象徴されている。血や運命の女との出会いなどで変容を余儀なくされた運命。でもそんな運命縛りの中でもがく人間のいとおしさったら無いや。それを運命と名づけるのか、運命と捉えるのか、それも人間次第だしね。
※この場面!トニー・レオン最高!

インファナル・アフェア 無間道』http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=242071

インファナル・アフェアⅡ 無間序曲http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=320389

インファナル・アフェアⅢ 終極無間http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=321231