made in China『スプリング・フィーバー』

ブログをはじめてからは観た映画について書くことにしています。観てからしばらく経つのに越年手前まで持ち越している映画の感想を書いてみます。
12月18日に観ながらも、いままで感想が書けなかった『スプリング・フィーバー』:ここまで書けなかったのは、観た印象が、時間が経ってもなかなか落ち着かなくて。映画を観た直後は映画内の様々な情報が鮮やかすぎてイメージの奔流に浸されてしまって、印象を言葉にしようにもぼんやりもやもやして、まとまらないのですが、時間経過とともに段々クリアになったり印象的なところだけが思い出されるようになり、自分内の印象が定まる面があるのですが、『スプリング・フィーバー』は、未だに霧が漂っていて印象の核が見えてこないような感じなのです。でも、いつまで経ってもこの映画は靄がかかったままだと思いますので、越年する前に書こうと思いました。
ストーリィは、中国の南京を舞台に繰り広げられる、愛や恋のお話。登場人物は5人。3人は男で2人は女。一組の夫婦と一組の恋人と一組のゲイのカップル。じゃ、6人いなきゃいけないはずなのに、5人なのは、男一人は、夫婦の片割れ(夫)でありながら、ゲイのパートーナーとも恋仲であるから。この人物設定で起こるべくして起こる出来事を軸に進んでいくお話。
まずその画面の質感が独特。あとで調べてみたら、デジタルビデオカメラで撮影されたとのことで、それゆえかな、と思ったのはその画面から感じられる親密な感じでした。対象との距離が近い。そして、画面が暗い。白昼の明るさというより曇り空の下、ほの蒼い明け方、夕方、もしくは、夜。自然光下での撮影ゆえの暗さが、6人の登場人物が日常に生きる人たち、中国の南京に生きる人々の情景をふと切り取ったような感じを抱かせる。きっとこのリアリティをものすごく重要視して撮ったんだろうな。風景や空気の質感みたいなのが、自分にも親密な感じがして。それが映画館の大画面に映し出されているのが不思議にうつくしかった。
あと、ゲイの肉体的な関係をかなりあからさまに描いているのが、ひとつの話題みたいで。うん、たしかに。そこまで具体的な肉体的接触の手触りまでも描写しなきゃ、登場人物の一人が“関係”の破綻により自ら手首を切るに至るほどの“恋”の感情に囚われていたってことが伝わらないかもな、と思いました。“恋”の感情を前に理性ではどうしようもなくじたばたして翻弄される人たちが画面にいる。でも、女性については、1人は恩義のある工場長とのエピソード、もう1人は彼女の職業である先生業などもちょこっと描かれるので、社会とのつながりとか体面を考えるあたりとか・・・そういう面が見え隠れする。仕事があって、あとパートナーの男性の存在もあって、両方大切。一方男どもは恋に感情が振り回されじたばたしたりふらふらしたり、仕事についても、本屋の主人だったり、自称だかなんだかの探偵業だったり、仕事をあっさり辞めちゃったり、どうにも地に足がついてないというか、不安定。そういった男の弱さとか情けなさ、自分の存在が十全に満たされていないさみしさみたいなものを描いてるような感じがして、そういうのも中国では映画で描くには好ましくない題材かも、だから同性愛描写も含めて、中国には認められないタブーにあえて挑戦しているのかな、とふと思う。
主人公の心の動きが掴まえられそうなところもあるけれど、するっとすり抜けるようなとらえがたさもあって、そこが靄がかってる原因のひとつかなぁ。映像の妙なクリアさ、ゲリラ撮影の手ブレ、はっきり語られない言葉、織り込まれる中国の詩人の詩の文字の大写し、これは久々に「芸術的」な映画に接したな、と思いました。もやもやする、そんなにガツンと衝撃はない、でも気になる存在、という映画でした、自分にとっては。いつかもっと時間が経てば、印象がうまく言葉で語れるようになるのかなー。うーん。
この映画で白眉だと思ったのは夜のクラブの場面。クラブの暗い空間でのライトが雰囲気ありげに光るさまって、映画でうまく撮れてるのをそんなに観た経験がありません。ノリノリの人々がやけに明るい照明で映されてちゃってドッチラケ、みたいに見えるっていうか。それが、かなり雰囲気ありげに撮れているのにすっごい感心してしまった。あと中国語のパンク。どこにだってパンクスは存在するのだね。made in Chinaのこの映画は中国国内では上映されないだろうけど、punk's not dead 精神でがんばれ、なんて、やっぱりまとまりのない感想。
スプリング・フィーバーロウ・イエ監督 ※劇中の女の子が掘北真希ちゃん激似!その彼氏は阪神林威助選手に似てたような。ちなみに劇中の男優方はストレート(思わず確認した)。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=337353
http://www.uplink.co.jp/springfever/


※この映画を観た元町映画館、『スプリング・フィーバー』は興行的に苦戦してるみたいで館主さんの悲痛な訴えが・・・
http://omo463.blog91.fc2.com/blog-entry-77.html