IラブNY精神『人生万歳!』

大晦日に2本観たうちの一本については昨日書きましたので、残り一本ウッディ・アレンの『人生万歳!』について書いてみます。これは、お正月期間中に書くのが気分的にも内容的にもぴったりだと思いますので。
ウッディ・アレンについてはそんなに知識はなくて、何本か観ていますが監督の作家性などの理解ははなはだ薄いです。ユダヤ人である、とか、アイロニカル表現多めである、とか、妻の養子と恋愛関係になってえらい修羅場があって結局養女の人と後日結婚したとか、NYが拠点、くらいの知識しかありません。でも、この『人生万歳!』って映画は、それくらいの薄い理解でも、彼らしい作品だと思えたし、彼が大切に思っていることのエッセンシャルな部分が結構分かりやすく描かれているな、と思いました。
ラリー・デヴィッド演じる偏屈じいさんボリスが主人公。エヴァン・レイチェル・ウッド演じる家出娘のメロディーが「おなかへったよぉ、おじさん食べ物ちょうだい」とたまたま通りかかったボリスに泣きついて、家に入れてもらってから住み着く→結婚→メロディの母やってくる→やがてメロディの父もやってきて・・・と人が現れるごとにビリヤードの玉がはじかれるみたいに、影響しあってどんどん状況が変化してストーリィが進んでいく。この映画の原題って『Whatever Works』いうのですね。物事はどう働くか分からないけど、結局は適当なところに落ち着く感じ。いろいろあって、いろんな人登場して、波乱もあるけど、収まるところに最後は収まる。
最初にボリスがスクリーンのこっち側にむかって話かけるところから、枠組み提示されてる。あなた達にみせるお話をこれから始めるよ・・・シチュエーション・コメディ(お客を入れてライブでやるTVのコメディドラマみたいな)みたいな枠組で、ボリスだけはその枠組みの両側を知ってるホストのような役目。シット・コム的シチュエーションだから、メロディがひょんなことからボリスの家に住み着くのも、メロディの母や父が何の手がかりもなく急に彼女の家にたどり着けるのも、いいんです。吉本新喜劇でも、みんな舞台となってる定食屋にふらりと現れるし、この映画では“定食屋”が“NY”なんですよ(あくまで私見)。
偏屈で心配性且つ潔癖症で気分にムラがあり、手洗いの際にHAPPY BIRTHDAYを自分の名前を織り込んで2回歌う、そんな主人公ボリスには、観ている側としては、感情移入しにくい。でも、そんな感情移入なんて不要で、観客は全体に登場人物がどんな風に影響しあっていくのかを全体を俯瞰して観る感じなのです。まず、ボリスとメロディの関係。ちょっとお勉強できないっぽいメロディが、いかにも知識人階層に属しているっぽいボリスにどんどん惹かれて影響されまくって、耳学問の半端きわまりない片言の専門用語を他人との会話に織り交ぜるところか、なんかほほえましい。自分の知らないこと知ってる人に惹かれることってあるしなぁ。で、次はメロディの母とNYって新世界との出会い。南部の宗教的にも倫理的にも保守的な環境からNYにやってきた母が、お、アートの才能あるんじゃね?と指摘され、「あー、そういえば昔から写真とか好きだったし、あ、潜在的に自分すごかったかも」と一挙に開花してファッションもNYのアーティスト風に一変し、二人のステディな仲の男性と同居するという変化っぷりが極端すぎて気持ちいい。次はメロディの父とNYの出会いで起こる変化、うん、これもいいよ、ふはは・・・。メロディとボリスにもまた変化が生じる。世の中には不変なものはないから、いろいろな変化があって、でも最後になんとなく落ち着くべきところに落ち着く。最後は、登場人物全員が一堂に会して、それぞれの最愛の人と一緒に年越しして、いろいろあった一年の終わりを迎え新たな一年の始まりを祝う。
偏屈じいさんでも、保守的価値観に囚われた人でも、出会った人々や環境からの影響を経てそれぞれのあり方を追求した果てに、自分の感情や思いにちょっと素直になったとき、物事はうまく運び出す。人生ってそんなに悪くないんじゃない?というテーマが伝わってきたように思いました。でも、最後に、スクリーンのこっち側とあっち側の両方に足をかけたボリスさんが、“こんなご都合主義ってぽいハッピーエンドも、フィクションだからだけど”、ってな感じで観客に語りかけるのがウッディ・アレン印かな、と。また、人はどんな厭世家でも他愛ない話をする他人を物凄く欲してて、そんな繋がりをNYを舞台に描くのも、ウッディ・アレン印かな、と。それが大阪なら、新喜劇の定番セット“定食屋”か“うどん屋”になるのかも。ていうかウッディ・アレン吉本新喜劇を同列で語るなって?

『人生万歳!』ウッディ・アレン監督
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=337820
http://jinsei-banzai.com/pc/

その他追記
※ウィークエンドシャフッルの宇多丸さんのシネマハスラー『人生万歳!』もよかったです。
※メロディが最初に登場したときの、スタジャンのフード、久々見たわー、シッパーを閉めたらフードになるやつ!南部娘っぽい。
※メロディ母がNYやアートにすっかり感染して、日本映画を観にいったりするのが興味深かった。やっぱジョン・レノンの昔から、オリエンタリズムへのアコガレがNYの知識階層のステレオタイプなイメージとしてあるのかなー
※ボリスの屁理屈、知識の立て板に水っぷりは近くにはいてほしくないけどスクリーンで見る分にはおもしろい。