フットボールで自己啓発『エリックを探して』

今日観た『ソーシャル・ネットワーク』凄くよかった。感想書きたい。でも、その前にどうしても『エリックを探して』について書いておきたいのです。『ソーシャル〜』に圧倒されながらも、ほんわり温かい『エリック』を思い出して、今日のざわついた気持ちをおさめてみる。
昨日はシネリーブルが誰でも1000円デーでした(ラッキー)。会員カードのポイントが貯まったのでもらったドリンク+ポップコーンを手に座席に座ると、程よく空いて程よく埋まっている感じでした。あれくらいの人の入りが好きだ。
マンチェスター・ユナイテッドの伝説的プレーヤー「エリック・カントナ」についてはフットボール者でない自分はよく知らなかったけど、彼に関する知識なしに行っても全然面白いんだから、プレミアリーグのファンなら、もう終始ゾクゾク/ワクワクしてたまらないと思う。映画の主人公エリック(notカントナ)は、イギリスの標準的おやじ同様、頭の大部分がフットボール要素で占められている郵便配達員。これが“しょぼくれ”を人のカタチにしたらこうなった、みたいな容貌のオヤジで、その上、声まで程よく掠れてる、“パーフェクトしょぼくれ”。そんなオヤジが離婚暦があって、再婚相手にも逃げられたのに、その彼女の連れ子を育ててる・・・。このオヤジの何が最高って、その部屋ですよ。小さい部屋にベッドがあって、ヒーローであるエリック・カントナの等身大ポスターをドーンと貼って、でっかいトランクに苦い過去の思い出がよみがえる写真とかグッズを捨てることはできなくって、放り込んで封印してて・・・って、でっかいこどもじゃん!
そのしょぼくれエリックを心配する郵便配達員の仲間が最高、最高。何度でも言えます、最高。ルックスもすばらしいオヤジぶりだし、また、みんなイギリスの標準的オヤジだからフットボールが大好き。1人なにかっていうと本(とりわけ自己啓発本)の知識に頼ろうとするオヤジがいて、都度つど映画のストーリィ上ポイントになる本を万引きしてくる。おぅ、おまえまた万引きしてきたのかよー、ってその辺のやりとりが彼らの日常のお約束感も感じさせて自然でいいんだな。パブにたまってフットボール観戦したり(で、マンUサポとFCユナイテッドサポが言い合いa.k.a.じゃれあいになったり)、困ったことが起こったら、パブに集合して相談して作戦練ったり。イギリスの地元のいきつけパブ文化のこの光景、たまらん。イギリス行きたいわー。
内容は、“できる方のエリック”(以下カントナ)が“しょぼくれた方のエリック”(以下エリック)を導いていく、というもの。タイトルの『エリックを探して』はカントナを探す意味も薄くあるけど、それよりエリックが“ほんとうの自分”を掴むための過程を描くもの。あぁ、“ほんとうの自分”てヤな表現。持ってるポテンシャルを引き出す、っていうほうがいいかもしれない。で、最初に、しょぼくれエリックをどうにかしてやろう、って自己啓発本を万引きしてきた仲間が本に書かれているイメージトレーニングみたいなのをする場面があって、そこでエリックが尊敬する人物としてカントナをイメージする、という伏線がある。その上でカントナが突然エリックの前に登場する。カントナは他の人物には見えてないっていう、つまり妖精みたいな存在で。おじさんの妖精・・・(って、showbiz countodownでちらっと見た日本未公開のザ・ロックが歯の妖精を演じるって映画を思い出した)はたまた守護天使。カントナはフランス人なので、キザったらしくフランス語で格言を言ったりする。このあたりイギリス人のフランス憧れの屈折した感じがおもしろかった(『リトル・ランボーズ』でもこういう感覚がうまく描かれていた)。格言って、日本でも経営者のおじさんとかやたら好きだけど、まぁ、紋切り型。でも、それを発する人物や、シチュエーションで重みが違うっていうか響くのはあるでしょうね。ただ、そんな格言は観てる自分にはそう伝わってこない(エリックに対して響くのは分かるけど)。この映画の中で、自分にとって一番気持ちいい場面は、エリックがカントナにベストプレーはあれだろ?ベストゴールはあれ?ベストのパスはあれ?って畳み掛けるようにカントナの名プレーを実況し、当時の映像が流れるとこ。ここです。心酔してる相手に対して、自分の愛やその素敵すぎる夢のようなプレーを追体験するように語る場面のすばらしさったら。ココ、フットボール好きなら滂沱の涙でしょうな!
途中からストーリィが急激にシリアス方向へ舵を切って、重りを足されたみたいになるけれど、ラストのちょっとトンデモな展開はもうひたすら愉快で爽快。ラストにいたってわかるのは、この映画は自己啓発っていうよりも、既に持っているのに、その色が失われ灰色がかった世界になってしまったかのように思って、あきらめてしまったもの:家族、仲間をもう一回自分の中で色鮮やかなものとして自分の中で引き上げるお話なんだな。そのきっかけは自分のヒーロー「エリック・カントナ」のめいっぱいのプレースタイルをカントナに接して語り合うことでまざまざと思い出せたから、じゃないかな。自分も既にある環境でめいっぱいやらねば、と。だから映画を観終わっても、カントナのフランス語のいかにも自己啓発っぽい格言は残らなくって、カントナの生き生きとしたプレーや、彼のやんちゃな発言や、フットボール愛といい仲間の姿だけが残ってる。あ、でもカントナの言葉でひとつ覚えてる。“周りを驚かせるには、まず自分を驚かせろ”なるほど!笑って泣いて、いい映画でしたよ。

エリックを探して』(2009)ケン・ローチ:監督 スティーブ・エヴェッツ、エリック・カントナ出演
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=337641
http://www.kingeric.jp/

カントナのカンフーキックがジャケ
その他追記
※しょぼくれたエリックがのろのろと郵便仕分けをしてるのを見た仲間が「仕分け作業をダンスに変えたあの男と同じとは思えない」(うろおぼえ)って。
ケン・ローチ監督いわく「これは友情についての話であり、自分自身とどう折り合いをつけるかという話だ。反個人主義の映画なんだ。ひとりより、誰かと一緒のほうが強くなれる。ちょっと大げさかもしれないが、これは友人と団結をする話なんだ。」
※若いころのエリックと郵便局員のエリック、ルックスちがいすぎじゃね?
※イギリス人サポのあの合唱する感じいいなー。日本的応援と違うのな。