アメリカ版御柱祭り?『アンストッパブル』

ずぅっと気になっている『ソーシャル・ネットワーク』の感想を書く前段に、同じ日に観た『アンストッパブル』について書いてみます。実際には『ソーシャル〜』⇒『アンストッパブル』、という順だったのですが、緻密な一級品映画『ソーシャル〜』と正反対の非知性派×肉体派でありながらも2作品には似てるところがあったのです。それは、ノンストップ感!始まると終わりまでテンションを張り詰めてひっぱる、まるでわんこそばのお碗があくと、すぐに横から次のそばが投入され続けるかのように、次々と緊張要素を投入し息をつかせる暇を与えない(わんこそばたとえが適切かどうかは、問わない)。
こじれた夫婦関係を引きずった男と、最愛のふたりの娘(うちひとりは今日誕生日だったことをうっかり忘れてた、帰ったらちゃんとお祝い言わなきゃフラグが立っている)を持つ男。新人とリストラ対象になったベテラン。あぁ、もうフラグ立ちまくりですね。そのあたりのドラマはちゃんとお約束どおりになればいいレベル。この映画は、暴走列車があらゆるものをなぎ倒して進む様を描くことこそが大切なんですから。人間が御せるものと思ってたものが暴走し、手に負えなくなる、ってそれだけでドラマですよ。たとえば『ブルー・ベルベット』の冒頭で、水道ホースがねじれて水がスムーズに流れないことで暴れだすとこ、とか。あんな身近なモノでもね。
そんなドラマティックさが担保された素材をどう演出し、どう撮るかで作品の成否が決まるも同然。さあ、どう撮ってるかな、と注目すると、ひたすら列車をデカくて、力持ちで、まるで人間のコントロール下に入ることを拒否する意思を持っているかのように不気味に撮ることに専心。うん、いい感じ。ゆっくりと動きだす列車のスローゆえの不気味さとすぐに人間の足で追いつけなくなる微妙な加速具合。なんていう方法かよくわからないけど、カメラのパンのスピードをびゅーんと早くして、対象に近づくと急にゆっくりにしたり静止させる方法とか、手持ちカメラ感を出して一瞬対象から外して数センチ単位でまた対象にピントを合わせたりする演出はあまり好きではないけれど、このノンストップアクションなら、そう気にならないし、かえっていいじゃん、と気持ちが乗る。ひとつ課題がクリアされると、また新たな危機。会社の体面やコストを優先する上司が最後しっぺ返しくらうとこ。現場主義を優先するナイス上司とガッチリ分かり合う。そりの合わなかった男ふたりに気持ちの交流が生まれる・・・はい、人間ドラマはいいです。列車列車、列車が大事。
ニュースショーの場面がやたら組み込まれていて、それがアメリカっぽいなーと思いました。アメリカでは、瞬時に当事者の顔写真や名前をゲットして報道するのかー、それもありそう!と『アンビリーバボー』『ベストハウス123』『世界仰天ニュース』なんかで、あんなニュース映像ありそうじゃん、と思う《アンビリーバボーとか、ほとんど見ないけれどイメージで》。ドラマっぽい脚本にするならニュースショーのリポーター連中がなんらかのジャマをする、とかその報道の加熱ぶりがメディアスクラム現象を起こして、男のヨメや娘になにか影響を及ぼす、なんてことを織り込んでも不思議じゃないのに、なんせ列車フェチだから、そのへんは、うっちゃってる。
脱線装置もなにもかもなぎ倒しスピードをあげて、このまま行くとこまで行っちゃえ、という鉄の塊を必死に止めにかかる男ども、なんかに似てるよ、ああ、御柱祭りだ、すごい質量とスピードで動くものを御そうとする男でも。男だらけの男世界。汗、負傷、血、友情、死と隣り合わせの危険、エロスとタナトス?・・・画面に映ってもひたすら辛気臭いヨメ(これはほんとに飾り程度でしたね)、フーターズでバイトする娘達(これはなかなかステキ)なんて、添え物ですよ。パセリです。でも、男だらけの世界で暴走するモノを制圧し、秩序を回復したら、女性からの贈り物をゲットできるんでよね(ロザリオ・ドーソンのキスは“ご褒美”でしょ)。馬の鼻先のニンジンと同義?や、結局、男だけじゃ世界は成り立たない、ってことで。なんか、神話世界にまでリンクしてきた。大画面(@ミント神戸OSシネマ:1000円DAY)で観てよかったですよ。でも公開2週目なのに、『ソーシャル〜』より大きいスクリーンだったんですよね。あぁ、そうかあ、って思いました。『ソーシャル〜』はそんなには入らないだろうなぁ、って。そんな感慨も持った『アンストッパブル』鑑賞でした。

アンストッパブル』(アメリカ/2010)トニー・スコット:監督 デンゼル・ワシントンクリス・パイン主演
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=337734
http://movies.foxjapan.com/unstoppable/

クリス・パインて、『スタートレック』の人かぁ、そういわれれば、そうだ。