クール至上主義!虚実皮膜『ソーシャル・ネットワーク』

1月16日(日)にミント神戸に『ソーシャル・ネットワーク』を観にいきました。16日はOSデー(1000円で観られる)、かつ公開2日目ということもあって結構混んでいましたが、2日前からネット予約してド真ん中の席で臨みました。
Facebookが普及しきっているアメリカでこの映画が観られた時に観客が抱く体感/感想は日本とは違うところがありそうです。04年に始まりあっという間に爆発的に普及する魅力を持ったサービスを作り上げたマーク・ザッカーバーグは億万長者で若者で、ちょっと世間の成功者像とずれたセレブリティ。この映画を観る際、アメリカ人にとってはそんな人物へのワイドショー的興味(パリス・ヒルトンに対するみたいなレベルでの)も少なからず影響すると思う。でも、この映画においては、そんなワイドショー/タブロイド紙的興味と重なりつつもどこか現実をベースにした“異なる位相”のドラマが展開しているからこそ、高評価を得たのでは、と思いました。観た者は“『ソーシャル・ネットワーク』という映画内に存在するマーク・ザッカーバーグ”のドラマに引きこまれるのだと思います。極めて興味深い実在の人物の最近の過去を描くっていう題材の妙もあるけれど、この映画を観てすごい、と思ったのは、脚本と映像と編集と演技・・・ってきわめてベーシックな点でした。それは“現実”や“事実”をそのままちょっと脚色した程度では得られないレベルのもの。そういう意味で虚実皮膜*1のきわめて成功した作品だと思うのです。
既にたくさんの人々が指摘しているように、マークのアスペルガー的側面を強調した造形にしており、その彼の他人への共感性のなさ、コミュニケーション能力の欠如と、自分を特別な存在と認めさせたいという強い欲求を持っている点を冒頭のガールフレンドとの会話で示唆する。彼女にふられて帰宅したのち、怒りにまかせて悪趣味なサイトをあっという間に作り上げるシークエンスで、彼のコンピュータやプログラミングの天才的能力を描く。・・・冒頭のこのテンションのままずっと走って、ものすごい情報量が詰め込まれておりながらも、役者の素晴らしい演技と映像の力で映画としてきちんと成立されていて、終始圧倒されました。では、どこがよかったのか箇条書きにして整理してみる。
1、映像がきれい。 冒頭、ガールフレンドにふられて寮に帰るまでの夜の街の暗さを観て、夜の暗さと街の明かりの映り方がきれいだな、と思いました。その後もずっと目に痛いくらいクリアすぎるわけじゃない、適度にやさしい、透明で精彩な画面が観ていて気持ちよかったです。また、テムズ河のボートレースのシーン!本城 直季さんのミニチュア風の写真みたような、日常を異化するミニチュア的映像と音楽の相乗効果。一切のセリフもないあのシークエンスであの兄弟を卑小に見せる効果とか、ボートレースのダイナミズムとか、色のコントラストの非現実感とかあらゆる要素が凝縮されていて・・・とにかく観ながら口開きっぱなしでした。
2、演技がいい。 マーク・ザッカーバーグを演じたジェシー・アイゼンバーグがすごかった。下唇をぎゅっと引き絞ってるような人っているよなー、なにかに固執するタイプを人相的に表してるような気もする。そしてあのセリフまわし。ナチュラルに自分のものにしていた、というか映画の中のマーク・ザッカバーグに完全になってた。ジャスティン・ティンバーレイク演じるうさんくさいナップスター創立者もよかったですね。イケメン双子もあの低音の声質といいルックスといい嵌っていました。ルックスも家柄も完璧なハーヴァードの上流階級に属する彼らが自分のアイディアを盗られたことに異様なまでに執着する滑稽さはあの“顔”だから説得力があったのかな(CG合成だけど!)と思います。ちなみに、ハーヴァードの学長がイケメン双子の小理屈を切って捨てるところは映画内でちょっと気持ちいい場面ですね。
3、細部がいい。 日本の映画やドラマのPC演出ってダサい。先日TVでやってた『デスノート』もだけど、警視庁特設サイトみたいな機密性の高い機関のサイトデザインがフォントといいフレームといいとにかくダサい。また、ウィンドウが開いたり、新たなページに進むたびに変な“みょん”とか”ぷぉん”とか効果音つけたりして、まったくもってクールじゃない。実際のサイトなんて、特に公開してない内部の実務サイトなんてシンプルに決まってるじゃん。動作のたびに音なんて鳴るわけないじゃん。万一鳴るにしても仕事PCの音量なんてゼロにしてるよ。また、タイプする指とかも結構適当にぱたぱたやってるだけのことが多いけど、『ソーシャル・ネットワーク』のマークは物凄い高速タイプながら、ちゃんと叩いてるのが観客に伝わった。ハッカーならば当たり前の高速かつ的確なタイピング。そこの演出をちゃんとしてるから映画内リアリティが担保されてる。
4、編集がいい。 素人ながらも脚本および編集がすごいな、と思いました。とにかく物凄い情報量が詰まっている。説明セリフもほとんどない。自然な会話やシーンの断片などで全てを観客に理解させるために、裁判の調停の場面や大学の場面、寮の場面、新たな人材を発掘するためのオーディション、ビル・ゲイツの講演会、NY・・・など行ったりきたりしながら巧みに状況を理解させ、それぞれの人物の性格を理解させていく。あれだけの情報量なら3時間超えてもおかしくないと思うのに、すっきり120分っていうのもすごい。きっとムダを削いで、削いで、エッセンスの塊にした結果でしょう。クール!
5、ストーリィがいい。 マークの行動は“自分を認めて欲しい、そして認めさせるための自分の仕事はあくまで「クール」でなければならない”という原理に基づいていると思いました。自分の感情を上手く表出できず、他人の感情も上手く掴みきれないことを彼はわかっている。だからこそ、自分の卓越した才能を十分に発揮して見せ付けられる仕事を成し遂げることでしか、自分を認めさせることはできないであろう、と仕事に邁進する。だからこそ自分の仕事は絶対にクールじゃなければならない(広告なんてクールじゃない!)。自分の分身ともいえるFacebookを拡大させるために必要なものは取り入れ、不必要なものは切り捨てる・・・そんなことしてたら、実生活では彼の周りには真の友人は消える、というアイロニカルな帰結に当たり前のように至る。でも、観客はマークを憎みきれないと思うのです。あぁ徹底的にイヤなヤツだ、と切って捨てられたら簡単、悪党を主人公にした映画もよくあるし。でもマークは、極めて陳腐な表現ですが、本当に“不器用なヤツ”で、だから冒頭でふられたエリカのFacebookのページを何度も何度もリロードする・・・と、これは冒頭のシーンとラストが繋がるきれいな収まり方の古典的ともいえるラストですね。
思い返しても、大事件が勃発するわけでもなく、ひたすら人間関係を追う映画でIT業界が舞台のようで、ものすごく古典的枠組みだな、と思います。それを場面設定、人物、セリフ、編集、音楽、映像でクールに纏め上げている点がすごいな、と思いました。とにかく、クールであること。それが重要なのですよ。

ソーシャル・ネットワーク』(2010/アメリカ)デヴィッド・フィンシャー:監督 アーロン・ソーキン:脚本 ジェシー・アイゼンバーグ:主演
http://eiga.com/movie/55273/
http://www.socialnetwork-movie.jp/

※なぜか『ODELAY!』の頃のBECKぽいヴィジュアルと思った。ローファイな感じのルックスも若き天才の象徴?あとハンパ袖トレーナーとシャツの重ね着はちょっといいな、と思った。
http://blog.goo.ne.jp/resando/e/0d046e23a1fd43972998f7bf2a23c9c5
↑実際のマーク・ザッカーバーグ&彼女の画像があります
本城 直季さんの写真集 『small planet』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4898151728/

*1:近松門左衛門の演劇理論で、真にすばらしい演劇を作るのに、ウソ(虚)とホント(実)の間にこそ、美味しいところがある、という論理。虚(うそ)にして虚にあらず、実にして実にあらず、この間に慰(なぐさみ)が有るもの也:はてなキーワード