ヒットガールの痛々しさがとまらない『キック・アス』

もはや説明不要の『キック・アス』を観てまいりました。映画を観るのが好き、という人への求心力やオーラ/評判をまとった作品で*1、日を追うごとに口コミとか“日本公開があやうい”とか“ボンクラにはたまらない要素満載”“映画秘宝祭りで上映!”とかで諸々の熱が加わって、観る側はある種の構えができちゃってることもあるかも・・・というのは自分のことです。昨日も『キックアス』が神戸に来るまでの時間のかかりっぷり=地方における映画格差について日記に書きましたけど、観るまえの期待値ハードルは相当なものでした。そうして観た映画の感想を書いてみます。
1 アーロン・ジョンソンについて。 彼がジョン・レノンを演じた『ノーウェア・ボーイ』を先に見ていたので、相当なハンサム君ということがわかっていたのですが、そんなハンサム先入観で見ても堂に入ったナード演技っぷりでした*2。あと、声。自信なさげな掠れ声がナードっぽさを際立たせていた。『ノーウェア・ボーイ』ではイギリス英語の不良をかっこよく、またナイーブに演じてたんで・・・つまり演技が上手いんですね。キックアス君のくるくるナチュラルパーマヘアーは、ナードのステレオタイプな造形なんですかね?黒人の女性もストレートな髪がgood hairらしいし、ティム・ガンのファッションチェックでもストレートパーマで美しく大変身!ってやってたからまっすぐな髪が美しいことになってるんでしょうか>現代アメリカ。
2 クロエ・グレース・モレッツについて。 バタフライナイフの扱い、アクションシーン、襲撃シーンの表情(特に口元)、クロエちゃんの存在の際立ちっぷりがこの映画の放つオーラの重要な一翼を担ってることは、もう明らかで。
3 ニコラス・ケイジ。 いい仕事っぷり。『バッド・ルーテナント』のケイジ炸裂!には劣るけど、そりゃ、これは助演だから。
4 衣装や小道具。 いちいちかっこいい。ヒットガールのチェックのスカートとかたまらんですね。
5 ストーリー 悪者と良い者がぱきっと分けられてて、ヤク取引の元締めボスを倒せばあがり!、って、そういうお話。だけど、勧善懲悪上等!爽快!最高!気持ちいい!ということだけでは心がいっぱいになりきらなかったのです。それは戦い方=人の殺し方を仕込まれたヒットガールの存在がひっかかったから。彼女は父の復讐を成就させるために、父からいわば殺人兵器として仕込まれる。や、父は娘を心底愛していて、娘も父を心底愛している、けど、愛してるこどもを自分の復讐のための道具*3にする?・・ヒットガールって『ジョニー・マッド・ドッグ』や『ブラッド・ダイヤモンド』の少年兵とどこか通じるように思ってしまってね。少年兵も自分を認めて欲しい!大人に認めて欲しい!役に立つと思われればそれが叶うかも、という認証欲求、世界(=親とか親がわりの存在)から存在を許容されている実感を得るために殺人を行うようになっていったと思うのです。ヒットガールも父親に認められたい、誉めれたい!って欲求から技を磨いたんだろうな、と思うと、その想いが痛々しくて。ヒットガールは父の死によりビッグダディの呪縛から逃れても、彼に施された教育の呪縛からは逃れられないかもしれないわけで・・・。また、レッドミストも痛々しくて。あんなしもぶくれ顔のバカぼっちゃんも父から認められたい欲があるのな。それが終盤あれよあれよと運命が転がってああいうラストを迎えると・・・きっとレッドミストもビッグ・ダディと同じような無間地獄に落ちるよな、まさに連鎖だよな、と感じました。
あぁ、でもこういう苦さ:繰り返す復讐ループ、コミックの中のヒーロー像に憧れて現実世界でそれをやっちゃったらどうよ、等も製作者陣が含ませたものなのな、きっと。アクションシーンはすばらしいし、真っ暗な中の銃撃戦も最高にかっこよい!しょぼしょぼしたナードのキックアス君もイニシエーションを経て成長したし、エンディングもハッピー、音楽使いもすばらしく適切。でも、アメコミの復讐譚やヒーロー像にいれこんだビッグ・ダディの妄想がヒットガールとして結実しちゃっている様を諸手をあげて完全同意しきれなかった。けど、あのアクションシーンをまた観たい!と思う自分もいて・・・この二つの感情は自分の中では矛盾していないのです。だって『キック・アス』は“現実”ではなく“映画”だからさ。
(参考)
『なにさま映画評』http://karasmoker.exblog.jp/12691006/
『スキルズ・トゥ・ペイ・ザ・¥』http://d.hatena.ne.jp/Dirk_Diggler/20101223/p1
『THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE』http://d.hatena.ne.jp/doy/20101230#p1

キック・アス』(2010/アメリカ・イギリス)マシュー・ヴォーン:監督 アーロン・ジョンソン主演
http://www.kick-ass.jp/index.html
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=337482


※買ったパンを忘れて帰りかけるほど夢中になってみてたんですけどね、結局のところは。取りに戻ってカウンターで「パン忘れました」っていったら半笑いで「パン?」と聞きなおされた屈辱の思い出。@ミント神戸

*1:つまり、TVCMでその映画の存在を知ったり、新聞をきちんと定期購読していてその新聞広告の“全米No1ヒット”とか“全米が泣いた”というキャッチに惹かれて観にいってみるか、と思う層にはそんなに知られてないかも、ということ

*2:とはいえ、やっぱりハンサム。友達役のぽっちゃりのほうがナード全開でございました

*3:うーん、いいすぎかも、でも適切な言葉がおもいつかない