『モンガに散る』

1月29日の土曜日に『モンガに散る』(@シネフェニックス)を観にいってきました。東京で12月18日に公開が始まりやっと神戸へやってきたのでこの機会をのがしてはならん、とでかけました。台湾で2010年の最高動員を記録したというこの映画は、いじめられっこだった「モスキート」が転校してきた高校でその地域を押さえている組織の親分の長男率いる不良グループに誘われて入る。生まれて初めて仲間を得た彼は、自然な流れで台湾黒社会に入っていくことになるのだが・・・、というおはなし。
舞台は80年代で、携帯電話はなく、固定電話やポケットベルが登場する。昔ながらのみかじめ料を集金するタイプのヤクザで、武器はあくまでも刃物で、銃はダメ。そこにもっと大きな商売をやろうとする“大陸”からの勢力がやってくることで、モスキートがせっかく得た仲間:義兄弟がその結束を揺るがされることになる。あぁ、“大陸の大きな商売”“血をもってなす義兄弟の契り”・・・ジョニー・トーの『エレクション』2部作にもあった要素だ。あれは香港だったけれど、台湾もやっぱり似た感じなのだな、と思いました。
父親とまったく似てない(母親似設定か)不良グループの表リーダー:ドラゴンがジャンボカットの後ろ髪をなびかせてるのが、80年代の不良感をかもしだしてました。ちなみにドラゴンは伊藤英明激似。あと、裏リーダーが見た目そのまんま和尚(モンク)っていう呼称で、彼は頭もキレるし、忠実だし、というよくある裏リーダー設定。あと二人おまけがいて、モスキート。この5人が、学校の不良の延長上で楽しく暴れていたところが、段々と黒社会の現実を知っていく。親分に挨拶にいったら、制裁のために詰めさせた指を親分が箸でころころ転がしながら新聞を読む場面がすごくよかった。指を包んできた新聞紙を開いて読みはじめ、指がジャマになったら、箸でころころと移動させるっていう、どこかコミカルで、でもそんな風景が当たり前という冷酷な黒社会に足を踏み入れてしまった感じがよく表されていました。親分のルックスも篠山紀信的というかあぁいうもじゃもじゃした人で、それがリアリティあったですよ。
黒社会や台湾の路地の描写などもよかったのですが、そんなノワール側面とともに印象的だったのはモンクのドラゴンへの思いの描き方。それは、完全に恋でした。ドラゴンが彼女と一緒にいたら、ぶすっと不機嫌になるモンク。でもその彼女が宮川大輔に似たチンピラにヤラれちゃったことを知った怒れるドラゴンに指示されたとおりに、宮川大輔に酷い報復をするモンク。それもこれもドラゴンのため!・・・モンクは終盤、組織を裏切る立場に自分の身を置くことになるのですが、やっぱりそれもドラゴンのためなんですよね。ドラゴンへの思いをどうすることもできず、ドラゴンから自分を切り離すために捨て身の行動に出る。彼は決して成り上がりたかったわけじゃなく、自分の中に生じた“恋”で身がよじれるような思いのなかにあっても、理性的であろうとして、自分を納得させる理屈をつけて行動してただけ。
ホモソーシャルな関係と、黒社会。よくあるっちゃある設定かもしれないのですが、モンクがじっとドラゴンを見つめる様(これって、恋?)が、なんかせつなさに満ちすぎやろ!っていうのが印象的だったです。あと、80年代のダサ時代から90年代への変化は、黒社会のビジネスの有り様、コミュニケーションの有り様(固定電話⇒携帯)、武器の有り様(刃物⇒銃)の一大転換ポイントだったのでしょうかね。80年代ヤクザファッションもダサい、けど観る者に沁みてくる(『息もできない』ファッションも想起)。そうした現代黒社会へ転換する一歩手前の時代へのノスタルジー要素からして、80年代ってあまりにも映画にしやすい時代かもしれないから、現代におけるヤクザ描写にこだわる北野武監督は、やっぱりエライのかな、ということで『アウトレイジ2』も期待したいな、という変な結論の今日の日記。

『モンガに散る』(2010/台湾)ニウ・チェンザー:監督  イーサン・ルアン:主演
http://www.monga-chiru.com/
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=337941
ドラゴン&モンク
補足1 サクラの花、紅過ぎ(あくまで空想のサクラだからだろうけど・・・)。
補足2 エンドロールの男のキャッキャした感じ、楽しそう過ぎ。
補足3 フラグがはっきりし過ぎ(生きて帰ったら・・・とか、絵ハガキとか・・・)
補足4 もうちょっと短くてもよいかもね。でもトータルの印象は、フラグをカチっと立てて、伏線をカッチリ回収していく安定した感じや、役者陣の顔、演技含めよかったですよ。