『冷たい熱帯魚』先行上映&園監督ティーチインに行ってきた@シネリーブル梅田

まったく、昨夜は興奮していつまででも起きてしまいそうなくらい気持ちが昂ぶってしまってました。それは園子温監督の『冷たい熱帯魚』を観たため。卑小で、尊大で、笑えて、いびつで、怖くて、悲しくて、滑稽…って様々の矛盾や熱を抱えた人間という存在が描きこまれているのを目の当たりにして、その熱に感染した感じでした。
いわずと知れた“ボディーを透明にする”でおなじみの埼玉愛犬家連続殺人事件をベースにした物語です。実際の事件ではブリーダーでしたが、映画ではそれが熱帯魚ということで、静岡を舞台にお話が進んでいきます。不思議に人を自分のペースに巻き込むキャラクターの村田(でんでん)と巻き込まれる社本(吹越満)、そして村田の若い妻(黒沢あすか)、社本の妻(神楽坂恵)、娘(梶原ひかり)。村田の後ろ盾となる弁護士(渡辺哲)らを巡るお話ですが、とにかく村田の求心力がハンパじゃない。ニコニコしながら人の心にズカズカ入ってくる、でもそれが陽性のパーソナリティゆえ、相手に警戒心を抱かせない(セクハラ発言&行為も、圧倒的下品さで相手を寄り切ってしまう)・・・という“親戚のおじさんキャラ”なんですよ。つまらないダジャレや脱力おやじギャグを連発してニコニコしてたと思ったら、豹変する、しかしその豹変っぷりは、意外じゃない。一瞬、虚は突かれますが、こういうダークサイドも当然この人の中にあるわな、と凄く納得させられる。いるじゃん、皆がいるところではニコニコ仲良くしといて、とある人が席を外した瞬間「や、あの人って実は〜」みたいに本音の悪口とか噂/憶測を小声でぶちまける人。この映画は、そんな矛盾やいびつさを抱えた人間がその未整理なまんま出ているのが、素晴らしい。
村田が連発する“ビジネスパートーナー”って語のいかがわしさ。村田の熱帯魚店で働くフーターズギャルっぽい衣装の女性従業員のカタギじゃない感じ(外国人とか訳ありっぽい)、「アマゾンゴールド」の広告デザイン、なまってるのを無理に標準語にしようとしているようなちょっと危うい村田の発音とそのくぐもった感じ(おやじっぽさ全開)、ボディを“ボデー”と発音してしまう村田・・・と、村田とそれを取り巻くすべての造形が完璧。村田の存在がとにかくおかしくて、この映画を観ながら笑いました、声だして。最近観た中では『デュー・デート』の次に笑った。
吹越さん演じる社本については終盤の展開が素晴らしい。村田は、恫喝して教化するタイプの人で、これは“宗教”や“企業の人材研修”とかでも応用されているやり口ですよね。いったん人の人間性をめっためたに否定する。そこから生まれ変わるあたらしい自分を掴ませるっていうような*1。村田はこの恫喝教化/啓発を社本の妻にもやるし、社本にも施す。・・・いやいや、このルーツは村田自身にあるはず。村田は父から自分を全否定されたが、そこから生まれ変わって、今の村田に成り上がったという強い自意識がある。だから他人をもそれでコントロールできるし、コントロールすればいいんだ、と思っている。
社本は村田からなされた全否定により、彼が拠って生きてきたタガが壊されてしまった結果、破綻に向かうしかなかった。簡単に生まれ変わることなんざできないよ、社本は(ひいては人間は)っていうコトか。人間の生はいかに卑小でじたばたしてみっともないか・・・生きるのは痛い、その痛みからは逃れられない。プラネタリウムで見た数億の宇宙の歴史からしたら、人の営みのいかに卑小でじたばたしたものか、と思うけど、これこそが「この素晴らしき世界」*2なのですよ。素晴らしく猥雑な豊穣さを湛えた“人物が描けている”*3映画でした!
※大阪での上映は5日からなのですが、3日は先行上映会ということで、上映終了後に園監督のティーチインがありました。メモもなにも取ってないのでうろおぼえですが、ちょっと書き留めます。

・でんでんさんを主演にしたのは?また、外の役者さんもどうキャスティングされましたか?
「以前に自分の作品に出てもらったことがあって、この人が悪人をやったらいいだろうな、と思っていた。また、スターを使わなくていい、といわれていたので、このキャスティングができた。黒沢あすかは、オーディションのときの本気度がすごかった、育てたいと思った。彼女じゃなければもっと甘いものになったかもしれない。次の映画にも出てもらっているが、さらにすごい演技をしている。」(スターを使わねばならない、っていうのが日本の最近の悪しき習慣といってました)
・山小屋に磔にされたキリスト像やマリア像がでてくるのは?
「僕は、キリストファン、マリアファンなんですよ。けど共同脚本の高橋ヨシキは厳格なキリスト教の家で育てられて、サタニストになってるんですよね。」「村田の父が自分で創造した宗教(キリスト教的モチーフの)で狂信的になって、こどもである村田をあの家で抑圧していた、という設定があります。」*4
・影響を受けた日本の監督は?
「大好きだったのは黒澤明川島雄三とか、影響うけてるかどうかわからないけど。…あ、そうだ、深作欣ニに影響を受けました。あの手持ちカメラとか。世界でもたくさんの人が影響を受けていると思う」
・ヤン イクチュンさんと対談されるようですが、交友は?
「飲み友達でオーストラリアで意気投合しました。そのときは映画監督ってことしかしらなかった。日本で『息もできない』を半分くらいまで観て、ああ、これ、主役のヤツがあいつだ、と気づいた。彼にはシンパシーを抱いています」
・醤油をかけるのはなぜですか?
「映画では周りに人家がないし、醤油かけるのいるかな、と現場でも言ったんですが、高橋ヨシキが、かけないと、と。実際の事件では人家が近くにあったので、醤油でバーベキューのにおいとごまかすためにやったらしいです」
・この映画の脚本は歌舞伎町のウィークリーマンションで書かれたそうですが?
「フィアンセ的な人がいたんですが、ある日突然、家財道具とともにいなくなって、どん底の気持ちで、転々として行き着いたのが歌舞伎町って環境で、ああ、ここが今の自分にフィットしているな、と思ってシナリオ書きました。」
・『愛のむきだし』ではゆらゆら帝国の音楽が使われていましたが、今回はマーラーですね。どうしてマーラーなのですか?
「欝の時期にマーラーウォークマンでずっと聴いてたことがあった。そのときの感じを思い出して、マーラーにしました」

記載内容はうろおぼえなので正確さは欠くかもしれませんがご容赦を…。とてもよい雰囲気で、途切れなく質問もあったティーチインでした。次回作『恋の罪』の予告も冒頭流れたのですが、ものすごく楽しみ。今興味があることは?との問いには、「今年はたくさん映画を撮ってやろうと思ってる」といっておられました。4〜5本くらいやってはるのかな?とにかく期待大です、園監督の新作を待っていられる嬉しさ!その前に旧作も観なきゃな、と。リバイバル上映してほしいな、ナナゲイあたりで。
冷たい熱帯魚』 (2010/日本)園子温:監督 吹越満、でんでん:出演
http://www.coldfish.jp/menu.html
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=336898
でんでん力ハンパない

女優陣がエロすごかった。この映画におけるエロ、血、暴力の食い合わせのよさったら。しかし愛子ってば異様な存在だよなー、つくづくと。村田以上に異様かもしれない。
《この日記を書いたあとに読んだエントリ》
深町秋生のベテラン日記 http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20101206
THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE http://d.hatena.ne.jp/doy/20110201#p1
スキルズ・トゥ・ペイ・ザ・¥ http://d.hatena.ne.jp/Dirk_Diggler/20110201/p1
三角絞めでつかまえて http://ameblo.jp/kamiyamaz/entry-10782923999.html

*1:下記参考エントリでも言及されていますが、たしかにこれって『ファイトクラブ』っぽい!

*2:冷たい熱帯魚』のコピー

*3:映画批評でつかっちゃいけないクリシェですがあえて使いたい

*4:(※たしかに映画内でそのようなセリフが。また、村田のラストのあたりの「お父さん…許して・・・」というセリフも…!)