HR/HMファンにまじって『極悪レミー』を観た(アンヴィルもちょっと思い出した)

昨日は神戸アートヴィレッジセンターに映画を観に行ってきました。KAVCにはたまに行くんですが、昨日の客層はいつも見かける層と違った。革ジャン的な、長髪的な、全体に黒っぽかったりするルックス。これはまさしくHR/HMの魂を持った人々…!正直お客の入りは良くないだろうと思って行った(すみません)のに、案外いるじゃん!と思ったのはそういう魂を持った人々がレイトでもちょっと不便でもちゃんとやってきていたからなのです。普段とちょっと違う雰囲気の中に混じらせてもらって観ることに、ちょっとワクワクしました。
映画が始まると、まずモーターヘッドのライブにきていたオーディエンスの「レミー最高!」コメントが出てくるのですが、この客の感じがいいなーと思わずにやにやしてしまった。もっさりした髪と黒Tシャツで男の3人組くらいでライブに来てて、「ヘッドバンギングしたくなるんだよ!」とか興奮してる様がよくって。みんな夢中、レミーに、モーターヘッドに、音楽に。
音楽ドキュメントというと一昨年観た『アンヴィル!』が思い出されたんですが、二者は同じようなフィールド(HR/HM)で長年やり続けてきたっていう共通点がありながら、全然違う。『アンヴィル!』はとにかく大のオトナ、っていうかもうオッサンの域に達した親友でもありバンド仲間でもある二人の絆に焦点が当てられていて、この二人は音楽的成功という面では極めてパッとしないまま、でも夢を諦めきれずに、大好きな音楽を続けてる。ぱっとしないため経済的な不便等で家族を巻き込んでしまっている。いまや時代のメインストリームではないジャンルの音楽であることが更に夢の実現不可能性を感じさせる。どこか時代とギャップがある…その現実を分かってるから、彼らは迷いがあるし困窮もあるし挫折落胆喜び希望また落胆…という感じで。十分すぎるオトナが、次のプロデューサーは大物でいけるかも!とちょっと浮き足立ったり、音楽性を巡って言い争って、あぁやっぱゴメンって泣きながら抱き合って和解して。そのみっともないほどの愚直さが観る者の胸を打つ。
一方のレミーは迷いがない。オレ道を歩んできた。そして彼を支持するフォロワーがたくさんいる。彼は結婚はせず、自分の好きなモノを収集して、ゲームして、音楽やって、酒飲んでる。彼の音楽はあるジャンルを切り開き、押し広げたわけなのですね。その開拓者であるレミーの影響力や、レミーの“人間力”を描くのがこのドキュメントのキモなのでした。たしかにその破天荒ぶりがおもしろい!超短パンの半ケツでゲームに熱中するレミーとか、スロットに超はまって何時間もやってるレミーとか、息子が寝たのと同じ女の子とレミーも寝るとか、タンクに乗ってきゃっきゃする姿とか、ヘロインはダメだけどスピードはいいよ、とか。ジミ・ヘンドリックスのローディをやってたとか、ビートルズのデビュー前にリヴァプールでライブを見たとか、レミーの息子を生んだ女性は、昔ジョン・レノンと付き合ってたとか、本当?というくらいすごいエピソード満載。
しかもレミーについて証言するアーティストの数がアンヴィルの何倍やねん、というくらい多い。中でも驚いたのは、ピーター・フック(ニューオーダーは解散なのかい?)。レミーはもともとイギリス出身なのですね、というわけで。ピーター・フックはモーターヘッド以前にレミーが在籍したホークウィンドのライブを見て影響されたとか(ニューオーダーのテンプテイションがその影響下でできたってほんと?)。オジー・オズボーン*1とかトゥステッド・シスターのvoとか、ニッキー・シックス*2とかスラッシュ*3、ダムド、メタリカ、ジョーン・ジェット(若々しい!)、アンスラックス、ほかほかほか…。音楽に詳しくない自分でも名前くらいは知ってたりする人が結構でてきましたよ。レミーは、その彼らの証言からしても、ものすごくリスペクトされ、愛されている。全然極悪じゃないよ。ファンにはものすごく優しいし、写真やサインにも気軽に応じる。ドラッグとセックスとロックンロールに満ちた彼の人生だけど、60歳を過ぎて一巡りして、些事にこだわらない鷹揚さが人並み以上に身についてはるのかな、とちょっと思った。だからその大きい存在感で人を惹きつけてつつんでしまうっていう。若い頃の彼は、たしかに危険人物な香りがしていただろうな。
一方、剣とか、フィギュアとか、ミリタリーグッズ等を収集しまくって部屋をそれで埋め尽くしている様は完全に子ども。ブーツのデコレーションのデザインも自分で描く、自分の好みに仕上げてもらうため。好きなものは好き。好きなことしかやらない。大好きだから音楽もやり続ける。レミーは好きなことをして、それを支持するひとやフォロワーがたくさんいて、それで彼は迷いなく自分の道を歩んでこられたんだな、と。どこに行くにも黒のキメキメの服装で歩いて、どこまでもレミー、剥いても剥いてもレミー、なにしてもレミー。そういう人はスターです、カリスマです。迷えるものを導いてくれる偉大なロックのゴッドファーザー。ますますアンヴィルとは違うな。でも、映画としてはアンヴィルのほうが面白かったのですよ。というのも、“浮き沈み”⇒“ストーリー”があるもの。まるでものすごく自然にみえる脚本が存在したみたいにドラマティックなストーリーがね。レミーは生ける伝説という趣だから、ひたすらその凄さエピソードなどを積み上げていくというのが映画の性質になるわけです。いや、それで正解ですよ、この映画は。だって、レミーは画面に出てきただけでものすごい存在感:キャラクターだものな。…とここで、ちょっと思う。よくTVCMでひねりや演出のほとんどないCMがありますよね、例えば最近だと嵐の人たちが出てるやつとか。いわゆる“旬”な、売れてる人が出てるCM。シンプルにゲームをやらせてその素(に見える)様子をそのまま15秒切り取ってCMに仕立てているもの。あれは、出てるタレントの人気、人間力やキャラクターに頼ってるといえましょう。じゃあ、レミーはそんな人間力頼りのCMにはぴったりじゃない、とちょっと思った。レミーにWiiを持たせてゲームをプレーさせて、一言「exciting」とか言わせたらもう演出不要、説得力十分のような気がしたりもするのでした。

極悪レミー』(2010/アメリカ)
http://www.lemmymovie.jp/
http://www.lemmymovie.jp/cast.html⇒映画内でコメントしてるアーティスト等一覧
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD16713/story.html

参考)『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD15238/index.html
《その他追記》
※レミーがベースをギターのように弾くのは結構びっくりした。本当にメロディアス。
※女性ファンが胸にサインを書いてもらい、即、タトゥーを入れる機械でなぞって消えないようにしてた場面に驚きましたよ、すごいなアメリカ人。
※最後に監修で伊藤政則の名が。うん、これで映画のラストが締まった。

*1:タモさんに顔似てた

*2:モトリー・クルー

*3:この人は『アンヴィル!』にも出てた