荒唐無稽な物語こそがいい、映画らしい映画『ナイト&デイ』

心がざわざわして焦燥にかられるような感じ。昨夜、はてなポイント募金をして、ちょっと焦燥を抑えて眠りについたものの、朝方に見た夢は、原発の被害についてものすごい心配している夢。被災された地域への思いを持ちつつも、自分の健康と日常を保つことも大事。被災していない土地で経済活動を通常通り保つことで企業や個人も募金ができるんだから、と心を立て直し、日常の掃除などの用事を片付けて、映画を観にいって来ました。今日は新し目の旧作をやる映画館で観てきた二本立てのうち一本『ナイト&デイ』について書きます。
トム・クルーズ無双のこの映画。キャメロン・ディアスとのコンビは、ちょっとフレッシュさに欠けるかもしれないけれど、それは一方では抜群の安定感ということを湛えてるってことでもあって、冒頭からトップスピードで駆け抜けるあっという間の110分。トムは万能スーパーマンで、相手を思いやって嘘をついて自分を悪者っぽく偽装もするし、戸籍上死亡したことになってる、一般市民をやむを得ず撃つときは血管や筋肉を避けて肉だけを狙って撃つテクニックがある…ってシティ・ハンター冴羽獠と共通しているキャラだな。そう、本当にマンガやん*1。やたら注射や薬でキャメロンを眠らせるけど、その間に信じられないくらい大活躍したり大移動、飛行機だって操縦できるし隠れ家(孤島)もあって魚を取ったりするサバイバル適性もあるし、女性や一般市民にはジェントルで、悪人には容赦ないけど、親思い。ゆめみがち女性の夢物語とか寝る前の妄想とかのレベルでしかあり得ないようなヒーロー像で、ハーレクインの読者でも“こんなんありえないわな”と言いそうなくらいの完璧さ。あぁ、だってKnightだもんな、トム。一方ヒロインのキャメロンは、きゃぁきゃぁ言っててちょっと単純だけど、ロマンティックなことへの憧れもあって、スタイル抜群で素直でヴィンテージカーの修理できるし、って男性の思い描くアクション&ロマンス映画において“こうあってほしいorこういうのありがち”な女性らしさ満点のキャラ…あ、シティーハンターの香に共通してるかも。少し感情に流されやすくて、怒りやすくて素直だったり、すねたり、嫉妬したり、恋に夢中になったり。少女マンガかハーレクインのヒロインか?*2
このヒーロー&ヒロインコンビでアクションやトムの笑顔やらキャメロンのビキニサービスショットなども盛り込みつつ進みます。冒頭のカーアクションとか無茶苦茶で、『デス・プルーフ』かい!っていうくらいトム無双*3。「飛行機」「アクション」「妹の結婚式に出席するためのタイムリミット設定」、「ビキニ」「無人島できゃっきゃ」「オーストリア」「ヨーロッパの電車」「スペイン」「闘牛」「マシンガン」「裏切り」「バイク」etc… とか入れたい要素を全部ぶちこんだ!という感じですが、これが大層おもしろいのです。観終わって大満足、おなかいっぱい、続編あったら観たいと思うほどに。しかし眠らせて場面移動ってすごい方法で、それを連発ってのがまた、いさぎよすぎる。永久電池とか、天才青年発明家のあからさまなギーク設定(ほんとこれ偏見じゃね?というほど)とか、この映画には“典型的”“ステレオタイプ”しかない。第一、トムの役柄の本名の苗字がKnightですから。
でも、この映画では、安定感のある見知った顔の“スター”が主演してて、夢物語を演じてくれるって、別世界に連れてかれるっていう映画の効用の重要なポイントが抑えられているのが、満足感のモトでして。牛のCGだってきちんとしたクオリティ*4だし、きちんとお金をかけて、アクションとロマンスの娯楽をみせて、2時間ほど別世界に没頭させてくれるって素晴らしい。バリバリのフィクションで、ばかばかしいかもしれないけど、こういうのって必要だ。昔観た『ライフ・イズ・ビューティフル』でもナチの強制収容所に連れて行かれた男は、こどもに嘘を語り、夢物語を演じ信じさせて鼓舞し続けてたよな、たしか(うろおぼえ)。逃避かもしれない、でも、フィクションの持つ力は人間を支えてくれることがある。阪神淡路大震災を経験したときも、しばらくはニュースもTV番組もなにも嘘ごとというか、自分と関係ない世界が通常に回ってるんだなー、という感じを持ってたこともあったけれど、まず音楽が聴きたくなって、つづいてしばらくすると、TVのバラエティなどが見たくなったり読書がしたくなった。苦しい、いつまで続くかわからない不安とともに生きるには、フィクションがとっても大切だと思うのです。生きているものは日常を生きなければならないから。こういうタイミングで『ナイト&デイ』を観られて良かったですよ、本当に。しかしね、昨年用事があって乗った移動車のなかで関西が誇るラジオパーソナリティ浜村淳氏が「ありがとう浜村淳です」の土曜の映画紹介コーナーでこの映画を取り上げてたのを聴いちゃってたのですよ。観るかもしれないから、と聴かないようにうたた寝していたつもりだったけれど、ぼんやり聴こえてた記憶が蘇ってきて…淳ってば、ラストまできっちり語ってたよ、そういえば!って思い出した。ラストの場面観ながら淳の語りが副音声のように耳に蘇ってきたよ!ま、それも一興か。

『ナイト&デイ』(2010/アメリカ)監督:ジェームズ・マンゴールド 主演:トム・クルーズキャメロン・ディアス
http://movies.foxjapan.com/knightandday/#
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD16647/index.html

*1:中川家

*2:すみませんハーレクイン読んだことないのでイメージです

*3:CGとかスタントだけど無問題

*4:十三人の刺客』はこれが残念すぎた