アジアン映画祭/『ジョニー・トーは戦場へ行った』『イエスタデイ、ワンスモア』

終わってしまいましたアジアン映画祭。仕事の様子しだいでは休みを取って観に行こうと思っていたのに、ムリでした。ジョニー・トーの世界初上映『単身男女』をいち早く観られた人々がうらやましい限り。そこで、悔しさまじりに、『単身男女』上映に絡めて上映されたトーの旧作およびドキュメンタリーを観たので、そのことをちょっと書いてみます。
まずは、フランス人のイブ・モンマユー監督が撮ったジョニー・トーのドキュメント『ジョニー・トーは戦場へ行った』です。内容は、ジョニー・トーへのインタビューとサイモン・ヤムやアンソニー・ウォン、トー組スタッフ陣らの語るトー映画の魅力について、などで構成されています。『PTU』の撮影現場の模様やサイモン・ヤムによる『エグザイル/絆』の撮影セットの丁寧な案内など、裏側も紹介しつつ過去の様々な作品も取り上げられます。トー映画は昨年日本公開の『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』をなんとなく観に行って、うわ、かっこいい!と思って以降、劇場公開されたものを観に行っている程度なのであまり観られていないのですが、それでもこのドキュメンタリーは魅力的でした。トーが葉巻の煙をたっぷりとくゆらせている様が絵になるんだわ、これが。あと、サイモン・ヤムがにこにこ笑顔を湛えつつたっぷりとセットや撮影の裏側について案内してくれるのですが、『エレクション』を観た者としては、どうにもこうにも、サイモン・ヤムこわい、そのニコニコ笑顔がどっかこわい、と思ってしまう。
役者陣は英語でインタビューに答えているのですが、トーは中国語(広東語?)でしたね。彼は映画を撮れるようになるまで、長年TV業界でたくさんドラマを撮っていて、その経験がとても貴重だったと言っていました。たくさん撮って失敗もたくさんできた、とか。TV屋、とバカにするんじゃなく、すべてを自分の経験として積み上げていくのが重要という姿勢に、なるほどな、と。良いも悪いもひっくるめてたくさん種類と数をこなしたことで、いいものを自分の血肉にするっていう…一般的な事象にも言えるライフハックみたいだけど。あと、彼はアメリカなどの80年代までの映画に影響を受けていて、90年代以降は全然、との発言にも、へぇ、と思った。香港の映画界もいい時期があったけど、同じようなものばかり作られて停滞したとき、オリジナルなものをクリエイトしようとして制作会社ミルキー・ウェイを立ち上げたそうで。資金は潤沢にないけれど、彼はオリジナル性で勝負した。創作においてはそういう“オリジナルであること”というのが(当たり前だけど)肝なんだな、と感じました。ドキュメントでは主にトー映画の一番魅力的なフィールド、黒社会やアクション、バイオレンス等の映画を取り上げてて、それが大層魅力的。59分あっという間でした。自分は家で映画を観る習慣がないけれど、ちゃんとしたプレーヤーを買って過去作含めてブルーレイで観るしかないな、と思わせられました。銃器の扱いや描写もぞんざいにしない、との発言にさすがトー監督と思いつつも、『エレクション』の刀が本気でこわかったな、と思い出した。…でもまた観たい『エレクション1』と『2』。
別日にはアンディ・ラウ主演の『イエスタデイ、ワンスモア』も鑑賞。『ジョニー・トーは戦場へ行った』は満席だったのですが、こちらは遅い時間だったのもあるけれど、結構な余裕でした。恋の駆け引き、コメディ要素など、展開は読めるとこもあるけれど、かわいらしい映画でした。しかし最後の展開にはマジかよー、と。アンディ・ラウの健康すぎる体格でその展開はないって、いやはやびっくり。でも、サミー・チェンのツンデレぶりとか、サミーにふられるスティーヴ役のマツケンぽい顔+オーバーアクトとか、そのスティーヴのママのデヴィ夫人ぽさとか、ありえねー非現実感とか含めて軽い小品という感じで楽しめました。しかし、香港でも『ルパン三世』ってメジャーなのかな?どう考えてもルパンと不二子ちゃんなぞってるとこあるでしょ、と思いました。ルパン=不二子設定は、詐欺師映画とか、ドロボー映画の古典的フレームなんでしょうかね。この映画はルパン+不二子+韓国ドラマ+『ナイト&デイ』+『アマルフィ』みたいな映画でした(『ナイト&デイ』要素は“カップルの観光地巡り感”、『アマルフィ』要素は“イタリアの異国情緒感”です)。どこか憎みきれない映画なんですが、それはラム・カートンがちょこっと出てるからかもしれないな、なんてこともちょっと思ったりもしたのでした。

ジョニー・トーは戦場へ行った(原題:JOHNNIE GOT HIS GUN! )』(2010/フランス・香港・中国) 監督:イブ・モンマユー
http://www.oaff.jp/program/screening/08.html

※上映前にモンマユー監督のゆうばり映画祭出席時にアジアン映画祭観客向けにインタビューした映像が流れたのですが、とにかく寒そうだった。
『イエスタデイ、ワンスモア』(2004/香港)監督:ジョニー・トー 出演:アンディ・ラウ、サミー・チェン
http://210.150.25.65/contents/movies/MOVCSTD7558/index.html