『イップ・マン 葉問』 

はい、クンフー映画もほとんど知らない私でございますが、感想を書き留めますよ。
本日『イップ・マン 葉問』を観てきました。神戸での初日です。シネコンでは一番小さいスクリーンと思いますが、それでもミニシアターとは比べ物にならない大きい画面で観られてよかったです。『イップ・マン 序章』では日本兵のあれこれの酷い様が描かれ、敵対する対象は日本と設定されているようですね。一方『葉問』における悪者は“西洋人”(=イギリス人)ということで、“西洋人”をすばらしく悪く描いています。酷すぎて、お前なんか死んでしまえ!と思われてもしようがないほどに悪者です。
いくつかの見せ場があるなかで、イギリス人ボクサーとの試合が2試合あるわけですが、このあたりのフレームは『ロッキー4炎の友情』を思い出したわけで。ロシアが生んだボクシングロボット(つまり、感情もなくやたら強いヤツみたいな)ドラゴは第一バトルではアポロをマットに沈めたうえ、殺しちゃうわけですが、その後の第二バトルでロッキーと闘って、ロッキーが死闘の末ドラゴを倒す。でも、アポロを殺されたからっていって、ロッキーはドラゴを殺すことはせず(ていうか当たり前だな、殺人はダメ絶対)、ロボットみたいなドラゴも人の子だよな、と肩組んで終わり!みたいな話だったような気がする(以上相当のうろおぼえ)。『葉問』の中では、ホン師匠(サモ・ハン超かっこいい役)が中国武術の誇りをかけて戦い挑み破れ、マット上で死ぬ。人殺しといて、ヒャッホーイと叫ぶイギリス人ボクサー:ツイスターは人に非ず、最高の悪役ですな、あぁ憎憎しい。そうして、第二試合に、ホン師匠への追悼と中国武術の誇りをかけてイップが臨むわけです。『ロッキー4』では“共産/社会主義:ソビエトVS資本/民主主義:アメリカ”という政治的対立フレームやナショナリズム色も大分色濃く出ていたわけですが、『葉問』も“西洋人/支配する側VS中国人/支配される側”とか“イギリスVS中国”というナショナリズム的フレームもあるわけです。しかし、ラストに至ると、敵も見方もない、もっとリベラル、もっと高次のレベルで平等とか友情とか平和とか…大事!という主張がなされて大団円:“西洋人”の側も皆ゆっくり拍手をしながら立ち上がり、ほかの人々もその拍手に賛同しはじめて大きな拍手に…という描写。次の展開は読めるし、こうなるはずだよ、という観客の期待は裏切られず、絶大な安定感を基盤にしたエンターテイメントとして楽しめて、大満足。
このメインイベントの以前に、イップはいくつものイニシエーションを経ているのもポイントですね。イニシエーションのポイントは1、弟子が集まらない 2、香港で武館を開くのに、先人の了承を得る儀式(バトル)あり 3、儀式終わっても大ボスと金のことで折り合わない 4、武館を開いてた場所追い出される など。ひとつひとつは着実に乗り越えるわけですが、とりわけ最高なのは、2の武館を開くために先人の師匠どもとバトルするところ。大ボス:サモ・ハンとのバトルは、まるで家で観てるかのように、「うわー」「おぉー」と声が思わず出ましたよ(客が少なくてよかった)。ラストの異種格闘技より、正直興奮しました。ぐらんぐらんのテーブルでのバトルはすごい!両者とも素晴らしくすばやい動き、キレまくってました、肉体や所作の説得力を感じた。あと、サモ・ハンが最初は悪いやつっぽくて、段々わかり合う、そしてマット上での死…。アポロとロッキーの関係に重なるとこあるような気がする。元々分かり合えないかも、という敵対勢力だったものが分かり合うっていうのが、最強ポイントです。元々嫌いな人を好きになるって、いう伏線が後の展開に効いてくるような気がする。
しかし、イップ・マンは若くして老成しすぎてる。なにもかも分かってるように見える。この人に任せてればなにもかも大丈夫なように思える。だって、最後にツイスターを殴打し続けるイップを観てても、観客は分かる、イップは100%の悪役であるツイスターであっても、絶対に殺さない、って。そこまで理性的に抑制がきいた人間にどうして彼がなったのか?その理由はわからない。その安定感の由来は、『序章』を観ればかわるってことかな、はい。『葉問』では鶏を貪り食う役でしか登場しなかったサイモン・ヤムもちゃんとセリフを喋る役で登場するのでしょうし、とても50年以上前に存在したと思えないほどのモデル体型で美人過ぎる若妻との馴れ初めも分かるんでしょうかね、はい。期待しますよ。今度は神戸まで来ないような気がするので大阪遠征しますかね。
イップ・マン 葉問』(2010/香港)監督:ウィルソン・イップ 出演:ドニー・イェンサモ・ハン・キンポー
http://www.ip-man-movie.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17451/
 目が涼やかすぎ。そして目がきらきらしすぎ。

《その他追記》
※あの刑事さん、銭形のとっつぁん的な感じでしたね。その辺も含めて安定したストーリー。
サモ・ハンの弟子を演じてた帽子の彼が、EXILEDJ MAKIDAIに見えてしようがなかった。
※最後イップの勝利で画面上の皆イエーってところで、思わずイエーって自分の手もあがりそうだった。危険。