『トゥルー・グリット』

先週、ミント神戸へレイトショーで観にいってきましたよ。結構空いていました。観終わって、その空席がもったいなくて、もっと埋まったらいいのに、と思いました。オリジナルは未見。
復讐譚なのですが、その亡き父の姿は回想でも出てこない。抑えた演出で、いたずらな感傷要素は一切排して進んでいきます。全体に茶褐色、土色の色調も落ち着いており、古典的西部劇の風格みたいなのを感じる。父を亡くした少女マティの、賢しらな様子はすぐ理解される。薹のたった商人とのかけひき、弁護士や法を盾に進める論法。父なき後、論理に弱い母や幼いきょうだいを守るために肩肘張って、大人ぶってるわけです。ヘイリーちゃんのまゆげのお手入れをしてないルックスといい、ちょっと小賢しい感じとふと垣間見える子どもらしさといい、演出も演技もうまくて的確だと思いました。
ヒアアフター』の人で『インビクタス』の人だよな…と改めて思い起こそうとしたほどマット・デイモンもヒゲ面で頑張ってたけど、なにはともあれジェフ・ブリッジス。アイパッチ、ぼさぼさの髪。酔いどれ演技、表情、ガンアクション、乗馬姿、どれもちょっと過剰なくらいがはまっている。あの下着の汚らしそうなことったら、無いな!しかも途中で立ち寄った先で軒先に座っている先住のインディアンの少女をいちいち大げさに蹴っ飛ばすところとか、ほんと、おめー、最悪だよ。でも、西部の茶色い景色のなかで恰幅のいいジェフ・ブリッジスが酔っぱらってフラフラしてると、あぁ、こいつきっと心根はいいとこあるよな、と思うのですよね、うっすらと。その徴を感じるから、どんなトラブルや捨て鉢な展開などがあっても、観ている自分は、どこかで物語を信じている。これが、ジェフさんの“人間力”ってやつ な の か…?(でもチラ観した『アイアンマン』ではそんな人間力まったく感じなかったけど)
ロケーションや構図がまた素晴らしい。前半の山場である、悪党の小屋でのシーンでは、悪党どもを待ち伏せするルースター(ジェフ)と少女の視線の先の遠景で、小屋から漏れる明かりと星明りの下で攻防戦が繰り広げられる。一方終盤はコントラストをなすように白昼の只中、マティとラビーフ(マット)が遠くからルースターと悪党のバトルを見つめる。音すらはっきりと聞こえないほど遠い、という距離感。観客の見つめるスクリーンの中に、さらに遠くを観ているマティたちがいる、っていう入れ子構造の絵画みたいに美しいコントラストと構図。完璧すぎるような。
でも、そのあとに、(自分的)真のクライマックスがやってきた。少女を抱えて走るジェフ・ブリッジス。星明りの下ひたすら走る。馬を乗りつぶし(この馬もいいんだ)、馬を捨て、走る。悪党相手とはいえ不意打ちしたりして、何人も殺してきた保安官が、一人の少女のために限界を超えて走る様にヤラれた。うわぁ。『ラプンツェル』の日記に引き続き、今の時期にこういう描写っていうだけで、個人的にはもうダメで、涙もぬぐえずにガン観ですよ。ただのone of themであれば、なんとも思わないのに、かけがえのない人格や人生を持った大切な存在になったとたん、その生命を守るためならば全ての持てる力以上のものを振り絞って頑張ってしまう様。ただ荒野をひた走る様子だけを丁寧映せば、十分わかる、という。
マティは自分が復讐をやり遂げなければならないと心に決めている。理不尽に自分の父が殺されたのは不当なのだから、自分の賢さを使って、渡り合えば負けない、と思ってる。自分の力や法と弁護士と正当な理論や主張を貫けば、最後は勝つんだ、と。だから保安官とも交渉し、人の評価も下す(ラビーフとは組まない、とか)。川を渡り、野宿をし、死体と対峙し、銃も撃つ、と段々とハードルを乗り越えていくことで、すこしずつ自信を得て、不当さを是正できる状態に近づいている、と信じている。けれど、最終的に、自分の生命を救うために“他人”がその持てる力すべてを搾り出して救ってくれた、という経験を経て、後のマティの人生は続くことになる。すべて自分の力でどうにかなるわけじゃないんだということが少女に刻まれる。これがあるからエピローグが効いてくる。その後の彼女の人生と保安官との再会への思いは詳細に説明がなくとも分かるから、余韻がのこる。
コーエン兄弟らしい変な顔へのこだわりもすばらしいキャスティング(悪党どもナイス)も堪能できました。変な顔好きにはたまらんですよ、フフフ…
トゥルー・グリット(2010/アメリカ)監督:ジョエル&イーサン・コーエン 出演:ジェフ・ブリッジスマット・デイモン、ヘイリー・スタインフェル、ジョシュ・ブローリンバリー・ペッパー
http://www.truegritmovie.com/intl/jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17703/index.html

拳銃を撃つとその反動でふっとばされるマティ、悪党どもも小屋での尋問の様子、舌ちぎれかけのマット・デイモンも印象的でした。舌ちぎれかけはイヤだ。