『ザ・ライト エクソシストの真実』

『ザ・ライト』を観に行ってきましたよ。10日は近所の109シネマズが1000円の日だったので、これはこの映画を観よとのなにかの思し召しのような気もしたので、いそいそと出かけたのでしたが、上映2日目ながら結構空いてました。たしかにCMとかもやってないよな。震災のため?そういや最近映画のCMってあまり観ないような気がする…なんて思ったりもした。
さて映画。冒頭はエンバーミングらしきシーンから始まる。葬儀屋なんですね。遺体の目にコンタクトを入れたり、口を縫い合わせたり、下着を履かせたり、アクセサリーをつける。さすがエンバーミングの本場だな、と感心しながら観ました。こういうシーンを丁寧に描いているのを観た記憶があまりないから尚更興味をそそられた(や、まてよ、『おくりびと』…。アレは違うか)。このシーンは後々までの伏線がしっかり登場している、という役目もあるけれど、この場面における主人公:マイケルの死んだような生気の無いまなざしは“神を信じない”という彼の心の有り様をよく表しているような気もしました。死体って“モノ”だものな。かつて人であったけれど、いまやモノとなった“それ”を扱う環境(家業)に置かれてきたことが彼の無神論のバックグラウンドにあるようだということがわかる。ただし、彼の無神論のもっと大きな原因であるらしいマイケルの過去/親とのあまり幸せではない記憶、がどうにもぼんやりしていたんです。自分の読み取り能力の欠如が大いにあるせいかもしれませんが、過去に母を亡くし、父との関係が上手く行かなくなった理由、ひいてはマイケルが無神論に傾いてしまう素因はどうやって培われたんだろ…?
ともあれ、この映画の魅力はスットコな設定と、ディテールにこだわった演出と、大味なイタリア感*1、そして、ホプキンスだなぁと思いましたよ。映画冒頭は、ローマ教皇が「いまも悪魔はいるのだ」と言ったというテロップから始まる。そして劇中、大真面目に神学校の進路担当の先生がマイケルに言う。………現代でも悪魔憑きって、あってさぁ、エクソシストも足りないわけぇ。で、キミさぁ、ちょっと才能あるじゃん、ちょ、バチカンエクソシスト養成講座あるから行ってみてよ。行かないつったら、奨学金一括返還…いやいや、脅しじゃないけどさぁ。………主人公はバチカンに向かう。かの地では、PCを使って、完全に大学の講義形式で講義。主人公はあくまで悪魔憑きに懐疑的なんで、先生が、異端だけどヤリ手のエクソシストのとこ行きな、と勧める。現代の悪魔憑きの実態を目撃せよ、というわけですね。そこでホプキンス演じるルーカス神父のところへ赴く。大真面目なだけに、どこか奇妙なエクソシスト講座という設定が繰り広げられる舞台が、イタリア。イタリアにいったらどうしても空撮したくなるみたいですね…あれ、なぜか『アマルフィ』を思い出すよ。外国人がイメージしている“イタリア異国情緒”のある種ステレオタイプな表現なんだろうな。この点が『アマルフィ』を連想した所以だ。ホプキンス演じるルーカス神父が住まう住居も異国人から見てイタリアっぽさ満点の箱庭みたいな石造りの家。イタリア語をとつとつと話すも英語ペラペラのルーカス神父*2。そこにネコがにゃぁにゃぁたくさん住んでる。ネコ設定は、後に悪魔に憑かれたところで生きるのかな、と思ったけれどそこまででもなく(ちょっとよける程度)。映画の半分は妊娠女子の悪魔祓いで、いつになったらルーカスに強烈な悪魔が憑くのかなーと思ってたら、案外あっさり憑いちゃって、案外あっさり終わるんですよね。もっと悪魔に憑かれる様をネチネチやって盛り上げていくと思ってただけに意外でした。悪魔が周囲を騙して、憑いてないフリしたりしつつ、じわじわと責めたりするのを期待してた。
でも、ルーカスに悪魔が憑く付近の種々の描写はいいんですよ。カエル。ラバの目。病院への電話のくだり。いきなりビンタ。雪の幻視。これらで外堀を埋めるようにじわっと盛り上げての、ホプキンス炸裂。いやぁ、よかった。憑かれたメイクも怖い、ホプキンスだから余計こわい。やっぱりホプキンスの半笑いのあのポスター、あれで正解。ただ、案外あっさり終了するのがなー。しかも前半の妊娠女子のくだりで、老練なルーカスですらダメだった悪魔に青二才のマイケルがなぜだか立ち向かえちゃうっていう。それには彼の過去の因縁と、それを乗り越えるイニシエーションを通過できたから、ということがあるんだろうけど、そこらが前述もしたように自分にはちょっとぼんやりして腑に落ちがたかった。それとラストも、えぇっ?となったな、ちょっと、アレは映画的にはつまらんです。でも「これは、実話」というベースを崩さないようにするためだったんだろうな。この「これは、実際におこった現実の出来事なのです」というストーリーラインと、「ラバの目、光るよね」という映画の描写にこだわった部分との相克の結果、こういう作品になったんだな、と思いましたよ。

『ザ・ライト エクソシストの真実』(2011/アメリカ) 監督:ミカエル・ハフストローム 出演:アンソニー・ホプキンス、コリン・オドナヒュー、アリシー・ブラガ
http://wwws.warnerbros.co.jp/therite/index.html#/home
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17917/
ホプキンスの顔面力

※講義受講中に、国や文化によって、悪魔憑き扱いになったり、そうじゃなかったりするの、ヘンじゃない!て至極まっとうなことをいうマイケルのあっさりとした転向っぷりったら…実は昔から心の底では神様に拠ってたって、ことかいな。
※悪魔に憑かれたら、古式ゆかしい釘を吐き出す、なんて時代がかった演出の一方、ヘルプを呼ぼうとしてバチカン神父のケータイに電話するところとかもおもしろかったです。
※地味に前半の交通事故シーンもよかった。

*1:「ボンジョルノ!」

*2:アマルフィでもオダ氏がとつとつと英語を…