まさに佳品『キッズ・オールライト』

シネリーブルポイントカードの会員であれば金曜日は1,000円で観られるので、祝日の今日は『キッズ・オールライト』を観に行ってきましたよ。公開初日で金曜ということもあり結構入ってました。町山さんがラジオで紹介されていたのを聴いて以来気になっていたのですが、昨年の時点では日本公開も未定だったようです。アカデミー賞のノミネート効果か、ともあれ無事日本で公開されてよかった。
レズビアンのカップルであるアネット・ベニング演じるニックとジュリアン・ムーア演じるジュールス。それぞれ精子バンクから提供を受けて一人ずつの子どもを設け、4人家族をなしている。長女のジョニは18歳になり秋から大学に入学することになっている。18歳になったのを機に精子のドナーを知る権利を得たジョニは、弟の頼みもあって、生物学上の父にママ達に内緒でコンタクトをとる…
面白いのは、同性カップルで、父的/母的役割分担がなされていること。ニックは医療従事者で収入を得、家父長的な性質を帯びてる。彼女は、パートナーのジュールスにどこかしら専業主婦的な位置を求めていた。口ではそうは言わないし、ジュールスにも好きなようにしたら良いよ、と言いつつも、心のどこかで主婦的スタンスを求めている。だから、ジュールスが仕事をしはじめようとすると少し顔が苦い感じになり、わずかな言葉の淀みが生じ、あいづちに若干の間合いが空く。これらの演技がとても上手いのだな。生物学上の父:ポールを自分の家に招いてのファーストコンタクトのところでも、ジュールスとポールが意気投合して会話がぽんぽん弾んでいるところでみせるニックの表情がすばらしい。ちょっと置いてけぼりくらったような、さみしいような、苦いような、嫉妬の入り混じった表情。
上手いのはジュリアン・ムーアももちろんで。生物学上の父の介入により、家族の空気が波立ってきて、ニックとジュールスのパートナーシップにも影響が及ぶ。そうなると、二人の間でそれまでは抑えてきたぼんやりした不満や、思いが、この機に乗じてポンポン小爆発する。互いの本音が出て言い合う場面のリアリティったらね。親のケンカとかで見たような…既視感すら覚える。ここを乗り越えるかどうか、だよな。乗り越えられないと、箸の上げ下ろし(?)とかイチイチの些細な言動までムカつくようなことになるんだ。…これまで築き保ってきた関係に波が立って、ジュールスはついふらふらとポールと関係を持ってしまう。本当に、なんとなくの流れで、浮ついた気持ちでやっちゃったんだろうなーというのが分かる。人間そういうこともあろうさ、まして厳格さや論理を重視するニックじゃなく、ジュールスなら。ジュリアン・ムーアすばらしい演技。久々に男とだわ、っていう時のリアクションといいね。
必死に家族をつくってきたニックの思いは裏切られる。ニックがジュールスの浮気に気付く場面の切なさったらね。ニックは家父長的だけど、こういうところは完全に女性だな。女性は気付くんだよ、ああいう細いとこに…うん、ここの演出、うまい。浮気の事実に気付く直前まで、ニックがちょっと必死にテンションあげて、ムリくり自分を変え、家族の関係を良くしようとしている様がちょっと痛々しいくらいだった。それが浮気の事実に気付いたのち、音も遠くなり、目もよく見えない、自分がどこにいるのかなんのためにいるのか、分からなくなる。この描写もすばらしい、そして観ていて辛いほど痛々しい。
最後は、気持ちが満たされるような、ほの暖かい感じになれた。家族は最初からあるのじゃなく、作るもの。だらだらと安住していてはだめで、皆の少しずつの思いやりや努力が必要なんだな、と思いました。でも、女性同士のカップルでも、家族をなそうとすると、男性的/女性的役割分担が生じるっていうのがおもしろいなぁ。カップルだけならともかく、子どもを養い育てる家族となると、それぞれなにかの役割を負い、演じることで成り立つ面があるのだな。ふぅむ。テンポもよいし、画もキレイだし、なにより演技がいい、大変よかったです、まさに佳品。
キッズ・オールライト』(2010/アメリカ)監督:リサ・チェンデンコ 出演:アネット・ベニングジュリアン・ムーアマーク・ラファロミア・ワシコウスカジョシュ・ハッチャーソン
http://allright-movie.com/introduction.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17705/

アネット・ベニング男前でした。メガネ萌え要素もあり。ジュリアン・ムーアのそばかす全開もいい(『シングルマン』でもそばかす全開やったな)。
※ジョニ、かわいー。
レズビアンカップルが、性的に盛り上がる小道具にゲイのビデオ見るって。劇中でも説明はあるんだけど、ストレートの自分から見ると、不思議だよ、ほんと不思議だ。