『八日目の蝉』

映画の日に観た二本目は『八日目の蝉』でした。原作もTVドラマも未読・未見でした。ストーリーは、こんな感じなのですが。印象的だったポイントごとに書いてみます。
・出てくる男は4人いるけど、うち2人はサイテーである。
おもに出てくる男性は4人います。1、永作さん演じる希和子の不倫相手、田中哲司。2、井上真央演じる恵理菜の不倫相手、劇団ひとり。3、希和子が逃れ逃れて辿り着く小豆島でお世話になるそうめん工場のお父さん、平田満。4、ヤバくなって小豆島を出ようとする希和子が覚悟を決めて最後になる家族写真を取りに行く写真館の主人、田中泯。1、2、の不倫ヤローは最低すぎて言葉も出まへん。あまりにステレオタイプすぎる描写なんですが(愛人への言い訳&言い訳)、実際の不倫ドロドロもこんな陳腐なもんなんだろうなぁ、と思ったりもします。まるでドラマみたいな類型的セリフが今日もどこかの屋根の下で発せられてそうだな。しかし、なんで子どもできないようにしないんだ、という実も蓋もないことを思う。そんな小心者でつまらないヤローなら、最初から用心すればいいじゃろうが。…でも、そんなとこまでだらしない、本当にどうしようもないヤローってことなんだな、はい。劇団ひとりさんは普段の彼のキャラがどうしてもノイズになっちゃって感じられました。「井上真央ちゃんとベッドシーン(というか布団だけど)あったんだぜ」とか後々ネタとして語られそうなのが脳裏に浮かんでしまう。こういうノイズはちょっとなぁと思ったのです*1田中哲司さんはよかったです。
・出てくる男は4人いるけど、うち1人は存在感ありすぎである。
田中泯ですよ。出てきた瞬間のたたずまいの田中泯度合が、半端じゃなく田中泯なのです。こんな丹精な舞踏家然としたすぅっと背筋の伸びた、オーラをまとった人が島の写真館にいるのかなぁ。成長した恵理菜の顔をじっと見ただけで、彼女のこどものころの写真をさくっと選び出してくるあたりもまるで呪術師のようでござった。
・うつぶせが不自然なような
不倫相手の劇団ひとり井上真央の部屋にやってくる。もう、この男、やりたいだけだな。というところはよく出てた。男の欲求の有りようだなー。そして、ことが終わったあと布団に寝ている二人をカメラが足元から映していくけれど、なんか不自然。井上真央ちゃん、完璧なるうつぶせ。胸は映しちゃだめなんだな。そのうつぶせ具合がなんだか不自然に感じてしまった。布団を胸まであげて横向きとか仰向けとかでいいと思うのですが、ちゃんと体当たり演技してて、脱いでるんだ、ということを強調すべくうつぶせにしてるみたいで、その後のキスシーンとかもやっぱりちょっとがんばってるように見えちゃう。もう一歩がんばって五社英雄夏目雅子を脱がせたように…て映画のジャンルが違いすぎますね。というかなんでこんなにうつぶせについて熱く語ってるんだ、自分。
・大阪のカルトはおしゃれすぎる
希和子と恵理菜が逃れてたどり着いた大阪のキリスト教的な感じのするカルト。ここにUAが混じっててもなんの不自然もなさそうだな、とぼんやり思ってました。『ソトコト』とか『リンカラン』とか、そういう雑誌ぽい綿とリネンの世界。頭に巻く布といい、スカートといい、オシャレすぎる。あと余貴美子演じるエンゼルさん(教祖みたいの)も、髪型が夏木マリがやってそうな“クールおしゃれナチュラル”な髪型な感じでした。エコ、ロハス、有機農業、現代の世俗は毒されてるという考え、産む性である女性性の優位、自然、前近代を目指すこと、オシャレ、レメディ的な…こんなような要素ってなんでリンクしやすいんだろう。エコ的なムーブメントを目にする度に自分が感じる違和感てなんだろうと映画を観ながら思う…劇中に出てきたカルトを見て、普段からこんなふうにぼんやり思っているもやもやを掘り起こされました。余貴美子さんは、すばらしいうさんくささでした。そしてエンゼルさんの横で意味不明言語で歌う口寄せみたいなのが、またたまらなくおかしかった。人間の原初のことばのようなモノとして歌ってるんだろうかね、あれは。言霊思想か。※ちなみにエコなどを否定しているわけではありません。ぼんやりしたイメージエコに違和感を感じることがままあって。はい、自分、現世に毒されてるんだろうから。
小池栄子はよい
ちょっと驚きました。彼女のほかの作も観たいと思いましたよ。身体の軸、喋り口調、視線。そして彼女の抱えている傷の明らかになる場面の切実さ。
永作博美はよい
熱演でした。夜鳴きする赤ちゃんと一緒に泣く場面よかった。彼女、ファム・ファタール顔ではあると思ってたけど役によっては、薄幸顔にもなれる感じかな。
こんな自分が生まれてきてよかったのか、という自分が生きている意味、家族ってなんなのか、家族の愛は無償のものか…という切実な問いに直面した主人公。この映画では最後に、親に愛された記憶がなかった主人公がそれを回復する契機を得、希望の一筋を掴んで終わるわけです。泣ける!的なこともいわれますが、自分はそんなボロボロ泣くことはなくって(小池さんの吐露シーンはちょっときたけど)、あぁ、再生への手がかりできてよかったな、と思うけれど、きっと井上真央ちゃん演じる恵理菜には、今後平坦な道はないだろうなって思った。でも幼少期の原体験としての“自分は愛されいた”という記憶を再生できたから、大丈夫ってことか。やはり三つ子の魂百まで伝説なのかな?幼少時の体験ってそこまで重要なんかな(砂の器とかもあったやね)。というか、親のフトコロの深さが重要なんだろうな。そんな体験をした子を受け入れ、愛で包み込む…て、なかなかできないよな。人は一人で育つこともできない、親子、互いの影響しあう力のバランスや気遣い思いやりが必要…て『キッズ・オールライト』と同じようなこと思ったな。
丁寧に描かれてました。もうすこし短かったらなおよかったけど、でも小説を読んだ人からしたらアレでも大分切ってる感じなんだろうな。過去と現在の行き来が結構あったけど、時系列の流れは巧みだと思いました。一番おもしろかったのは大阪のカルトの場面なので、あそこを拡大して小池さん演じるマロンちゃんを主役にした続編があれば観たいな。小池さんよかったよ。
・あ、ラストの歌はちょっと違う感じのがよかったな。でもあの歌謡曲ぽさが邦画ぽさでもあるけど。

『八日目の蝉』(2011/日本)監督:成島出 出演:永作博美井上真央小池栄子森口瑤子田中哲司ほか
http://www.youkame.com/index.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17814/

*1:ゴッドタンとかの劇団ひとりさんは好きですが