恋人が夫婦になったら…『ブルーバレンタイン』

連休最後の今日、梅田のブルク7へ『ブルーバレンタイン』を観に行ってきました。内容は事前に町山さんの激推し紹介などで見聞きしていたのでなんとなくの予想をしていましたが、観た感想としては、まぁ、概ねのラインで、予想してた感じだな、と思いました。自分の感想を書くまでほかのブログでの感想はあまり見ないようにしているのですが、この映画について語るときにどうも『レボリューショナリー・ロード』が引き合いに出されているようですね。事前情報をそんなに入れずに軽い気持ちで行ったからかもしれないしれないけれど、『レボリューショナリー・ロード』は、そのヘヴィな内容に胸を圧迫されて息苦しいような気持ちになり、ディカプリオとケイトの演技には本当に圧倒されました。『ブルーバレンタイン』は有る意味、そこまでの衝撃ではなかったかな(自分的には)。殺傷能力は『レボリューショナリー・ロード』のほうが高い、というかケイト演じる妻の“本当の自分”幻想の殺傷能力がすごかった。でも、『ブルーバレンタイン』も痛い映画でしたよ。こちらはなにが痛いかというと、
・シンディ
13歳で初体験。大学生の時点で20〜25人の経験人数。勉強熱心で、地味に見える彼女が、そうなのかぁ…という衝撃*1ミシェル・ウィリアムズの役作りは、大学時代は、大学生に見え、現在の彼女は、経年変化があったように見える(体や肩のラインの丸さ加減など)、その一方、大学生時代の彼女のタップダンスの場面のキュートな若々しい感じったら。
産婦人科のリアリティ
あの診療模様のリアリティ、相当に現場をリサーチしたに違いない。観てて血の気が引きそうになる*2。ここも含め、リアリティ重視がすごかった。
・ディーンのトレーナー
ディーンは若かりし頃は、タイトな革ジャンみたいなのを着ていたのに、現在のディーンは若干ゆったりシルエットのトレーナーを着ており、その前面にはイーグルのプリント。そしてあのメガネ。ブリッジが二本あるメガネって昔風だよね(今は、両目のレンズを真ん中で繋いで支えるブリッジが一本しかないのが主流です)。メガネの微妙な茶色レンズのティアドロップ的フォルムといい…アメリカのおっさんぽい。ジャンルと国が違うけれど『ブリジット・ジョーンズの日記』でコリン・ファースが犬かなにかのキャラがどーんと真ん中にあるセーター着ているの見て、ヒロインが引いてしまう、っていう場面思い出したよ。あと、ライアン・ゴズリングの役作りも頭髪抜いたり、太ったり痩せたり、観る者に文句言わせないような入れ込み具合でした。
・ラブホテルの寒々しさ
『未来の部屋』て何?一昔前のフューチャリズムみたいな、安い未来イメージの部屋。やたら銀色、鉄かアルミ、幾何学模様、ベッドは回るし照明は青い。ちょっと“チャチな感じ”がする部屋…盛り上がってるカップルなら、それをネタにより盛り上がるかもしれないけど、冷めかかってるカップルなら、より一層さめざめとしそう。…ディーンは、シンディとの間の雰囲気を盛り上げようとするけれど、シンディはまったく気分が乗らない様。あぁイタイ。気分とか波長を合わせる作業があって、というのが大きいよな、きっと。少々気分が乗らなくても、少しづつ努力するとか、相手にあわせてみるとか、多少演じてみるとか。でも、冷めちゃってたら、そんな努力すら億劫なんだろうな。酷薄なまでに素っ気無い、だって気持ちが乗らないんだもの、という感じ。この場面の前に、シンディの元カレに偶然再会したエピソードを盛り込んでるのも巧み。
・現在、過去の行き来
映画中盤の現在・過去の交錯も十分な破壊力ですが、ラストは殊更。結婚式と離婚を決意する決定的な決裂場面を交互にカットバックするっていう。二人の取る行動(抱き合ったり、見つめたり)はよく似たアクションなのに、そのあまりの落差に光と闇を交互に映してるような、悪意すら感じる。人は変わる、永遠なんてない、ってことを焼き付ける。
・“恋人”が“夫婦”になったらどうなるの
“愛のない夫婦の行く末”が描かれているのが、観ていて痛かった。シンディの家族は決して幸せ家族ではない。彼女の両親の間に愛だの恋だのという感情はなく、ただ、家族だから同じ家にいて、それぞれの役目をやむなく引き受けて、惰性的に続けている。夫は妻を罵倒し、妻は反論すらせず気力無さげに家事を続ける。そんな両親を見ていて、シンディはあんな夫婦みたいになるのはいやだという強い気持ちがあるわけです。“恋人が夫婦になったら愛はなくなってしまうのか?それでもなお関係を継続しうるのか”という命題。“恋”を経た後に到達する“愛”は“尊敬”の感情とも言えるかもしれない、かな。互いを尊重し、敬う、思いやる気持ちがなければ、夫婦の関係は続かないのではないかなぁ。現在のシンディは、ディーンを敬う気持ちを失ってしまっている。そこが決定的にダメ、というかどうしようもない断裂を生んでいると思う。何かの部品がいったん取れちゃったら、もいっかい接着剤をつけてもはがれやすくなり、それを繰り返せばいつかくっつかなくなってしまう。そんな感じ。すこしずつ離れたり行き違う気持ち、互いの言葉に耳を貸さずに自分の言いたいことを言い募るようになってしまい、もう修復はしきれない。過去の場面を見れば、ディーンの優しさ、大きさが分かる(また、ネタバレ→生物学的に血の繋がらない子どもを心底かわいがってるところも、ね)けど、現在のディーンを見れば、やはりちょっとダメだろうとも思う。シンディの今の気持ちも分からなくも無い。二人のどちらが正しい、とは言い切れないし、ディーンとシンディの気持ちも、もうダメだという思いと何とかならないか、という気持ちで揺れ動いている様を繊細に映し出しているこの映画は、ラストの解釈も含め、誰かと語り合いたくなるようなそんな余韻があるな、と思いましたよ。

ブルーバレンタイン(2010/アメリカ)監督:デレク・シアンフランス 出演:ライアン・ゴズリングミシェル・ウィリアムズ
http://www.b-valentine.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17924/

*1:こういう女性って結構いるのかな?

*2:一応書いとくと、自分はあんな経験無いですよ