『少女たちの羅針盤』

前回に続く、シネリーブルで1000円で観られる機会だから行ってみた映画第二弾は『少女たちの羅針盤』です。今調べたら、公開2週目で驚くほど回数が減ってるなぁ・・・、派手な宣伝もしていないしね。ミステリーだから謎解きの面白さで興味を持続させてくれるかな、という期待もあって行ってみました。
主演の成海璃子ちゃんについては、TVで『ハチミツとクローバー』を見たとき、役の合ってなさが痛々しくてたまらなかったのです。『ハチクロ』は映画の蒼井優ちゃんの印象があったものだから、成海さんの健康的というか、ガタイのいい感じ+森ガール(…)的ファッション、ほわほわした風に話す感じの無理くり感、すべてが観ていて苦しかった…。それだけに、本作でのちょっと男勝りなまっすぐキャラは合っていて生き生き演じてて、「あぁ、演技うまいんだ」と改めて思いましたよ。彼女が強引なくらいぐいぐいストーリーも引っ張っていきます。自分の好きなことに夢中で、周囲も見えてないような感じ。オトナを信頼しきれず敵視する…思春期の少女らしい青い感じが出ていて、まぶしいような、気恥ずかしいような気分になりました。ストーリーは次のような感じ。
同じ高校に通う少女3人が、成海さんを中心に学校の演劇部を退部し、自分たちのやりたい演劇をするべく独立する。別の高校に通う少女:蘭(忽那汐里)を誘って演劇ユニット「羅針盤」結成し、4人でストリートライブを始める。いやがらせや妨害を受けつつも、ライブは話題になり、大きなホールで開催される演劇バトルに出るチャンスを掴む。バトルを経て、一人の少女はオーディションを受けて更なる飛躍のチャンスを掴むのだが、その矢先に事件が起こるのであった…(単なる事実としてのネタバレは福本次郎先生のところにありますので、そちらをご参照ください。)
構成としては、現在と過去を行き来するカタチです。冒頭の現在パートは、過去に羅針盤のメンバーを(事件とは見せかけずに)殺した犯人が芸能界で女優として活動しはじめ、ネットムービーの撮影現場にやってくるところではじまる。しかし、彼女を犯人だと分かっている人物がめぐらせた仕掛けに、しだいに追い詰められていく。つまり観客は、劇中で「羅針盤」メンバーが殺されること、その犯人もまた「羅針盤」メンバーらしいことを冒頭で知らされる(当然、犯人の顔は巧妙に隠して撮影している)。ただ、この現在パートはミステリーという性質上やむを得ないかもしれないけど、ミスリードが過ぎる箇所があったかな。《ネタバレ→ネットムービーの監督が「演技は大丈夫だよね、だって羅針盤だったんだもんね」というようなセリフをわざわざ何回も言うけど、犯人は羅針盤のメンバーじゃない。》あと、セリフが説明的になっちゃってる箇所もあったのが気になったけど、まぁしようがないか。
冒頭で、殺人事件とその犯人の現在というフレームが示されることで、過去パートを観る時、観客にある種の緊張を強いる。殺人の芽や伏線があるのでは、という観方をしちゃうから、何気ない描写も気になるっていうね。その、過去パートこそがこの映画のキモでして。4人の少女たちががんばってました。成海さんは先に書いたように思春期の少女の青さ、まっすぐさが伝わってくる熱演でした。蘭を演じる忽那さんはちょっと固い感じだったけど、たまに輝くような自然な笑顔がのぞくとかわいかった。バタを演じる森田彩華さんは、ちょっと中性的キャラをその美少女っぷりでソツなく演じてたけど、劇中劇の箇所がよかったです。こういう演技する子、高校の演劇部にいそうだな、と思った。あと、かなめを演じる草刈麻有*1さんがよかったんですよ。観ながらずっと「この子、ジャンルで言えば“吉高*2さん系”だな」と思ってました。ちょっと舌足らずな甘えたような感じ。動物でいえば、“ネコ”。なんとも魅力的で、彼女がキーとなる役を演じているのは大きいなと思いましたよ。
羅針盤」というユニット名が決まるところの演劇的台詞回しとか、セリフにちょっと作り物感が・・・。あと、石黒賢のくだりとかね・・・アレは昭和の少女マンガっぽかったよ*3。有る意味邦画っぽい感じ、昭和のステレオタイプ、ちょっとダサイ感じっていうのかな、そういうのがちょこちょこ見えた。また、百合っぽい要素、リストカット、などちょっと「女子高生の群像を描くなら」のスレオタイプともいえる要素を盛り込みすぎて、タネまいて全部回収しきれてるか、っていうと、ちょっと中途半端というかなし崩しになっちゃてるようなところもあったかなぁ。でも、劇中劇パートと部活動的ノリのパートがよかったです、このあたりは自然だった。青春の一時期にしか放てないきらめき。キャストの彼女らが、今演じるからこそ表出できる青さ。
ラストの犯人判明の謎解き部分は、小道具とか伏線の描きこみ、トリックも含め、ちょっと強引かな、と思いましたが、ミステリーってこんなもんかな(普段あまりミステリー小説を読まないのでよくわかってない)。最後に犯人が犯行意図を告白するところって、2時間ドラマぽい。でも、犯行の回想場面で、突き落とされ地面に横たわる、かなめちゃんの画には映画的魅力がちゃんとあるような気がした。草刈さん魅力的だったなー。最後に4人で舞台に立っているところもよかったよ。

少女たちの羅針盤(2011/日本)監督:長崎俊一 出演:成海璃子忽那汐里森田彩華草刈麻有黒川智花
http://www.rashinban-movie.com/index.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18025/

※最近地域密着映画多いね。これもそうみたい(広島県福山市「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」が原作)。だけどセリフは完全に標準語だし、ロケ地は地元の人が観たら、あぁ!って思うんだろうけど、自分にはその地元密着性がちょっと伝わらなかったです。ま、しようがないのかな…全国配給してペイすることも考えると。

*1:草刈正雄の娘さんだそうで

*2:吉高由里子

*3:蘭の家は貧しい母子家庭だが、生物学上の父である石黒賢演じる事業家が正妻とその子を事故で失ったので、むかしのヨリを戻して蘭の母と再婚し、蘭を跡継ぎにする、っていう。またその場面がスノッブなフレンチレストランみたいなので…