野生の血が騒ぐのさ『ファンタスティックMr.FOX』

連日、日記を更新しております。というのも『カティンの森』からの『ショーン・オブ・ザ・デッド』で元気回復したので、同日3本目の映画ハシゴにのぞんだのと同じ流れで3本分連続で書いてみようと思ったもので。3本目はキツネの父さんの活躍を観に行きました。ストップモーションアニメです。
キツネの一家をはじめとする森の生き物たちが登場します。それぞれに人間社会と同じような職業を持っていて、人間みたいな服を着て、事務所を構えたり不動産のあっせんをしたり記者の仕事をしたり学校へ行ったりしています。でも野生の血には抗えない。ヴァンパイアが人間の生血を前にすると抑えがたい本性が現れるように、食べ物を前にすると、それまでいかに紳士的であろうと、食い散らかす(もったいない)。食べ物にかかわる問題は、生存に関わるレベルのコトだから、狩に関する野生の本能は完全には抑えられないのよ、という感じ。
キツネの父さんは家族がいるので、リスクの高い狩りへの欲求は抑えていたけれど、引っ越しをして目の前に食べ物工場がある環境に身をおくようになると、据え膳食わぬは…野生の血が廃るわ!と夜中にこっそり抜け出して狩に出かけるわけです。でも、父さんは、ヨメにウソついたり言い訳したりする。平穏な家庭生活の維持ができなくなるかもしれない不安要素だものな、心配かけたくないということか(あぁ、アニメ好きなのをカミングアウトできないオタ夫みたいなものか…レベルが違う?)。そういう意味では、父さんキツネはどこかで迎合、というか現実に折り合いをつけてる。
そんな父さんキツネにとって、畏怖/憧憬の対象となっているのは、オオカミ。父さんキツネは野生に生きる彼らに食われるかも、という恐れと表裏一体で大変な憧れの気持ちをオオカミに対して持っている。ラスト、人間との追いかけっこに勝利した帰途、オオカミとの邂逅を果たしたとき、父さんキツネは高揚して、ラテン語とかいろいろ駆使して呼びかける。結局コトバは通じなかったけど、最後に、同志よ!と呼びかけるよう手をあげた満足げな姿には、父さんキツネの「オレの中の野生の血に従って行動して、オレやったよ!」という嬉しさいっぱいの気持ちがあふれてた。でも、父さんキツネとオオカミは決定的に違う。オオカミは真の野生*1、孤独、ロンリーウルフなり。一方お父さんキツネは、家族が大事、仲間も大事だから、コミュニティに戻っていく。
人間の実社会でも映画の中のオオカミみたいになろうとすると、『イントゥ・ザ・ワイルド』みたいな結末になってしまうかもしれない、それは怖い。というわけで人間世界でも、父さんキツネと同じ道をほとんどの人は選択するでしょうな。でも、この人間世界にもオオカミたちはいて、世の男どもはそういう“真の野生を貫くオオカミ的存在”に憧れちゃうわけか。縄文人のマネしたり、山頭火もどきの生活したり、ログハウス建てようとしたりする人とかって、そんな感じなのかも?
音楽をふんだんにつかった楽しい作品、目がくるくるになったり、楽しげに踊ったりするところもかわいいし。あと、人間がヒドイやつしかいないってのも分かりやすい図式。これがジブリなら、森の生き物と人間の調和が描かれたかもしれないけど、ハーモニーに行きつかないところもいいじゃない。酒におぼれたネズミや父さんキツネの息子もすごいいいキャラでした。息子があんまりいいヤツじゃない偏屈だったりするところも含めて。あと、父さんの決めポーズ(チッチッと口を鳴らして指を顔にもってきてニカっと笑う)も途中で「そのポーズなに?」とか言われつつも、かっこつけてやってしまうところは、男の萌えポイントを十分に表現してましたね。というわけで、ヘヴィ⇒おバカ⇒ほんわか、という波がありつつ楽しい3本立てを楽しんだ一日だったのでした。でもこの翌日、急にのどが腫れ、熱が出た(健康しかとりえのない自分が)。…知恵熱みたいなもんだったのかも。3本立てはしばし自制しとこうかな。

ファンタスティックMr.FOX(2009/アメリカ=イギリス) 監督:ウェス・アンダーソン 声の出演:ジョージ・クルーニーメリル・ストリープほか
http://mrfox.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17725/

Fantastic Mr. Fox: The Making of the Motion Picture

Fantastic Mr. Fox: The Making of the Motion Picture

*1:服着てない