『マイ・バック・ページ』

学生運動安保闘争)は1969年の東大安田講堂の陥落から後、衰退していき、全体の盛り上がりのパワーを失い、一部過激なセクトが潜行し、連合赤軍事件なんかにつながる、というのが歴史の位置づけのようです(うろおぼえ)。ルネサンス宗教改革も第二次大戦も、学生運動も、90年代のバブルも、おわってみれば「これが発端で、この辺りから盛り上がっていって、こんな要素が加わって、あのときピークを迎えて、そのあと衰退したよな」と位置づけ、分析・評価されてるわけであって、渦中にあったらそんなのわからない(あたりまえだけど)。2011年の現在の状況も、きっとなにか大きな流れの過渡期にあるんだろうけど、何に至る途中なんだろう…きっと10年後には名前がついてるのでしょうな。
映画は、学生運動が弱体化し且つ一部過激派が先鋭化していく時代が舞台になっており、なんだか“しょっぱい”感じが観る前からしてましたが、物語が進行するにしたがって、そのしょっぱさが増していく。松ケン演じる学生運動家:梅山が最初に登場するのは、大学の思想だか哲学だかの研究会の場面。この時点でもう、この梅山という人間のダメさが全部出揃ってます。運動のあり方を巡っての議論がなされているけれど、論理的に弱い点を突かれると、まったく反論できず、極論に走って(いわば逆ギレ)感情剥き出しの対応。この登場シーンだけで、こいつがいかにしょうもないヤツか分かるってもので、まったく感情移入できない/させないキャラクターでした。とにかくこの梅山が気持ち悪くて気持ち悪くてしようがなかった。女の子とセックスするために、「オレは今度こそやるよぉ、おまえのために世界を変えたいんだよ、だからぁ(させてよ)」とかいうくだりに、心底胸が悪くなる(また、後の場面で、過去に一回中絶させてるらしいことも分かりさらに最低野郎度アップ)。第一、闘争に憧れてるのは、なんかハデなことしたい、目立ちたい、女とヤリたい、人より優位に立ちたい(それも閉じた4人だけの人間関係)、というだけの理由で、浅い浅いぺらっぺらなヤツなのですよ*1。このキャラにムカムカして、胸をかきむしりたくなるほど気持ち悪かった。自分はデカイことできる、特別な人間だ、いつかやってやる…て、そのデカイいことってなんだよ、いつか、っていつだよ、ばーかばーか、うんざりだよ。
そんな松ケン:梅山にまんまと釣られるのが、妻夫木くん演じる新人記者沢田。先輩記者が「あの梅山ってやつはニセ者だよ」と当初に見抜いていたのに、経験の浅い彼は、まんまと引っかかってしまう。沢田は記者でありながらも、あまりにナイーブで青すぎて、彼にも感情移入できない。そんな映画の中でも一点、観てて感情移入してしまう箇所があった:それは自衛官が殺されるところ。セリフもほとんどない、顔すらはっきり映らない自衛官は、梅山の浅薄な計画の犠牲となり、殺されてしまう。格闘し、刺され、倒れ込み、ずるずると地面を這いつくばって進み、力尽きて動かなくなり、血がとろとろと流れる。もしも梅山に歴史察知能力があって、学生運動の弱体化を実感できていたら、きっとセクト(もどき)を自己顕示欲を満たすための舞台には選ばなかったろうな。でも梅山は、そんな能力あるはずもないから、ムーブメントに乗っかって、その波が弱体化しつつあると自覚できず、目的も思想も理想もないけど、ただ、単語や用語だけを借りて自分を飾りたてて、4人の仲間の王様になって、人を一人殺すに至る*2。そんな梅山の虚言・妄言の犠牲になった自衛官が不憫で。その不憫さは、死んでいくさま、死体がしっかり描かれているから感じられるのかな、と思いましたよ。死体演技重要だな。自衛官の死の重みがあるから、この映画がしっかり保たれてるような気がした。
思想家きどりの梅山は、たんなる自己顕示欲の強い、虚言癖の性向のある人間で、本当、なんかの病気なんじゃね?と思った。ここまで思わせる演技のできる松ケンはいい役者なんだな。妻夫木くんもギリギリで厭味になりかねないほど際どいナイーブさを持つキャラにはまってた。もうちょっと尺が短ければ…とは思っちゃうのですが、昭和の再現度(1:9分けみたいな髪型とか映画館とか)、画質もこだわりがあってよかった。ただ、気持ち悪いから、しばし観たくない。こういう気持ち悪さ、居心地悪さは同監督の『松ケ根乱射事件』でもちょっと感じたけど、本当に後を引くっていうか、残るんだよね(誉めてます)。たまには映画館でこういうのにも向き合わなきゃな、と思ったりもしました。昭和のドラマで他人事のようだけど、きっとこういうイヤさは、どの時代でも潜伏していて、今も変わらずちょこちょこ現れてるんだろうからな。
マイ・バック・ページ(2011/日本)監督:山下敦弘 出演:妻夫木聡松山ケンイチ石橋杏奈韓英恵
http://mbp-movie.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17654/

『マイ・バック・ページ 』OFFICIAL BOOK

『マイ・バック・ページ 』OFFICIAL BOOK

※新聞社の面々(三浦友一、あがた森魚とかもいた)、東大の学生運動のカリスマ(長塚圭史)、京大のほうのカリスマ(山内圭哉)とかいい顔そろってましたよ。
※神戸の有名洋食屋とかがロケに使われてて、おぉっと思ったりもしました。客席もエキストラ参加したらしい人たちがいたです(映ったら声出しちゃいそう、とか言ってたけど、映らなかったらしい。)
※当時、アメリカンニューシネマの影響がデカかったということもわかった。

*1:本人はそんな自分に酔ってるようだけども

*2:しかも梅山は手下に仕事をやらせて自らはのうのうとナポリタン食ってるっていう