『メアリー&マックス』

予告は何回か観ていました。オーストラリアに住む少女とニューヨークに住む中年男性の20年にわたる文通による交流の物語だそうだってね…でも詳細は知らなかった。心の準備が無かっただけに余計に鑑賞後ズシンときました。クレイアニメのキャラクターのほのぼの感とは裏腹に、完全なる大人向け作品だったのです。
盗癖があったりこどもに無関心だったりする親の下に産まれたメアリー。なにより「ハプニングで産まれた子」と母に直接言われている時点で、彼女がしあわせな家庭ですくすく育ってるわけじゃないことは明らか。しかも、額にはシミがぺったりとあって容貌も冴えない。クラスメイトにはからかわれる。メアリーはきっと世界に受け入れられてる感覚を感じられないんだろな、それで自信もなくて、さみしくてたまらない。だから彼女は手紙をかくことにした、遠いところから自分を照らす光を照射してくれるような相手がいればいいな。たまたま住所と名前が目に付いたNYに住むマックス・ジェリー・ホロウィッツさんにあてて自分のことを書く、知りたい疑問を書く、そしてチョコレートを添える:自分と同じものを好きな人だったらいいな…!という贈与の一撃。
この設定だけでも自分の内側の痛いとこ撫ぜられるような感じ。こどものころから容貌とか諸々のコンプレックス抱えちゃって、気の利いた会話もできないし、内省しがち*1な自分は、メアリーに対して共感の想いが奥の方からじわじわ滲み出してくる。自分の中の極私的でナイーブ*2な内側に触れられると、とたんに心が驚くほど揺り動かされるようなことがある。この映画にはそんな感じがあったな。
一方のマックス。彼は人付き合いができない。甘いもの(チョコドッグ)大好きでぶくぶくと太って、医者やセミナーに通ってるケド痩せられない。最初はマックスがどんな人なのかよくわからない。ただ分かるのは、彼はさみしいと思ってるということ。付き合いがあるのは、古くからのイマジナリー・フレンドと隣のおばあさんぐらい。そんな彼のもとに同じようにさみしがってる少女からの手紙がやってきたら、それは心動かされるわな。おまけにチョコまでついてきた。この贈与は彼に響いたんだから、彼はこれにちゃんと応えなきゃならない。手紙というツールだからよかったよね。物語の中盤で明かされるように、マックスはアスペルガー症候群なので、対面だと思うことを伝えたり、相手の表情や意図を読み取ることが困難だから。マックスの抱えるさみしさと、そのさみしいという感情を上手く伝えることができず世界にコミットできない姿に、観てる自分は、また心がゆさぶられる。
2人のさみしい魂は響きあい、紆余曲折を経て月日は経過していく。マックスは相変わらず甘いものを食べ続け、大好きなTV番組を見続け、他人の感情は読めないままだし、世の中の曖昧さを受け入れることもできないでいつづけてる。でも、マックスは、メアリーとの文通+チョコのやりとりで世界・他者とつながってる感覚を得られてきたのかな。一方のメアリーはお金をかけてしみを取っても結局中身は変わってない*3。でもそんなメアリーを好きだと言ってくれる夫をついに得たメアリーは最強な気分。大学でも優秀な成績をおさめ、自分を承認してくれる伴侶を得て、有頂天。これで世界に受け入れられた、という感じ。でも、やっと得た土台は脆かった。研究成果(マックスを事例にしたアスペ治療の研究)はマックスの怒りを買い、彼女がいかに傲慢になってしまっていたかを悟らされてしまう。マックスは、アスペも含めてマックスなのに、それを治すって…!ふたりの信頼関係に決定的な亀裂が生じる。ショックを受けて荒れるメアリーを夫は受け止めきれず、メアリーを捨てて文通相手のオトコ(!)に走る。そんな最悪な状況でも、メアリーは乗り越えるんですが、そのメアリーの救済の決定的なキーは2つあって、一つはマックスからの承認、もうひとつは“自分の赤ちゃん”の存在です。おもわず『八日目の蝉』思い出したよ*4。うぅむ、じゃ、これ、メアリーが男だったらなにが救済のキーになるんだろう?ちょっと気になるな。男性であるマックスの孤独な魂はメアリーからの承認+…きっと“モノ”*5で救われた…のかな?マックスもフィギュア集めてたよね。や、でも、“こども”のかわりが“モノ”って、ないかなー。うむむ。
ラストのシークエンスは秀逸でしたよ。時間と気持ちがぎゅっと凝縮されたラストに気持ち持ってかれました。メアリーのおかげで苦しんだり心乱されたりもしたけれど、彼女と出会えてよかったのだよね、マックスは。そんな存在に出会えるって、なかなかない僥倖なのかな。

メアリー&マックス(2008/オーストラリア)監督:アダム・エリオット 声の出演:フィリップ・シーモア・ホフマントニ・コレット
http://maryandmax-movie.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17722/

Mary & Max

Mary & Max

*1:自己イメージなんで他の人から見たら、お前全然違うよ!十分ずうずうしいヤツだろ、という感じかもしれませんが

*2:いい意味じゃないよ

*3:化粧変えたり髪型を変えればなんか変わった感じがするマジック?よくあるような…ビューティコロシアム的な

*4:特に映画及び原作のラストあたり

*5:フィギュアとかなんとか…とにかく男はグッズ好きな人多いよね