『プライベート・ライアン』を映画館で観たよ

1998年公開の映画『プレイベート・ライアン』ですが、なぜかこの2011年の神戸:新開地の二番館でかかっておりますので、この機会にぜひともスクリーンで観たいと思って出かけましたよ。原題『Saving Private Ryan』のとおりライアン2等兵(wikiでは1等兵が正しいとの説も)を救う、というミッションを描いたものです。戦死を伝える電報を打つ現場で担当者が、ライアンさんにあてた電報が3通あることに気付く、ライアン4兄弟のうち3人が戦死してしまったのだ…軍の上層部は、ライアン家の末っ子だけは生きて帰らせるべく、行方不明のライアン二等兵を救う任務を命じ、トム・ハンクス演じるミラーをキャプテンとするチームがそのミッションに臨むこととなる。
冒頭のオマハビーチがとにかく有名ですが、その迫力は今さら言うに及ばず、ですね。イーストウッドの『父親たちの星条旗』も浜辺の上陸作戦を描いてたけれど、あきらかに『プライベート・ライアン』以降の作品だな、と思いました。近代戦争における戦闘シーンについてのある種のメルクマールな作品であって、今回大きいスクリーンで観られてよかった。オマハの後の中盤の展開、クライマックスのラメルの攻防戦、ダレることなく3時間弱見入ってました。
プライベート・ライアン』といえば自分がすぐ思い出すのは、黒田硫黄氏の『映画に毛が3本!』という映画エッセイマンガ集です。この本が好きで何回も読んだけれど、『プライベート・ライアン』についてのエッセイが印象深くて、このわずか見開き2ページのエッセイでもう十分な気がしてしまうほど。さて、硫黄氏はこう問います

☆クイズ 
スピルバーグ氏がこの映画で見せたいと思う、また、我々が金を払ってまで見たいと思うものは?
1 戦争の理不尽と悲惨
2 胸のすく冒険と友情
3 兵器・軍装・爆発
4 一言でゆーと感動?みたいな!

正解は、「5 死体、といいたいところですが」と続けて、最後に硫黄氏の“正解”を示すのですが、それは彼の本を読んでのおたのしみということにしといて。
オマハビーチのシーン。海中、浜辺、あちこちに死体が転がって、海水は血の色に染まり、肉片や肉体の一部が転がり、内臓が出ている者もいる、走ってた者の頭がふっとばされたり、弾がヘルメットを貫通して一瞬にして死体になったり、危うく生き残ったと思ったものが次の瞬間死体になったり、ドイツ兵が劣勢になって両手を挙げて投降してきても「なに言ってんのか分かんね」つって撃ち殺したり、まるで死体がモノのように無造作に増えていく。あのビーチに転がる死体のいっこと、自分に何の差があるんだろう、と観ながら思う。人間の命の重さに軽重が無いのなら、なんにも差は無いハズ。トムの部下が戦死する場面では、映画内で“人となり”を描かれたキャラクターだけに思い入れがあるから、その死は重いし、かけがえの無い存在を失った喪失感を感じる。けれど、それは敵方に言えるハズのこと。でも言語が違うために意思疎通が図れない相手は“エイリアン”のように、何を考えているのか分からない空恐ろしい存在に感じてしまうので、インベーダーゲームみたいに動いてる敵は全部殲滅せよ、という思考になる。ドイツ兵が必死に知っている限りの英単語を連発して命乞いをする場面に象徴的ですね、なんとか言語による意思疎通を図り*1、同情を買おうとするんだな。
ひとりのライアンを救うために、何人が犠牲にならなきゃならない?味方の命は重くて敵方の命は軽いの?あらゆる矛盾を含んだ問いに回答は無い。矛盾は矛盾として包摂したまま、どこかすっきりしない気持ち悪さを保ったまま映画は進む。ケドそれでいいと思う、回答に近いものは観た者それぞれの胸の中に抱けばいいのであって、劇中で示したらダメだ。現在進行形で世界の各地で戦争が起こり続けているのに、安易な回答なんてありえないものな。上にも書いたみたいに「劇中のあの死体と自分とどこが違うの」とか諸々考えるのは、この映画における即物的ともいえる生物の死体化プロセスの描かれ方や、感傷を排した戦闘シーンの演出などのせいだと思う。悲惨な戦場の即物的描写に脳がしびれたみたいになって、なにが正しくてなにが悪なのか、そんな単純に割り切れるはずがないんだ、と、もやもやしながら圧倒されてる。
ラストでミラーはライアンに言葉を遺して死ぬ。命を大切に…!うわぁ、陳腐きわまりない。でもこの陳腐ともいえるメッセージがないと物語的には収まりがつかないし、延々と続く戦闘シーンの後だけに、このドストレートなメッセージしかなかったかなぁ、って気もする。
戦闘シーンのリアリティ、カメラの撮りかた、演技、大画面で観るとやはりすごかったです。のちの『ミュンヘン』へと繋がる要素もあるな、と思った。そんな『プライベート・ライアン』『ミュンヘン』2作とも傑作だなぁ、うん。

プライベート・ライアン(1998/アメリカ)監督:スティーブン・スピルバーグ 出演:トム・ハンクストム・サイズモアマット・デイモンエドワード・バーンズバリー・ペッパーほか
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD3587/

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映画に毛が3本! (KCピース)

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《メモ》
※劇中にでてくる用語。FUBAR(フーバー)「Fucked Up Beyond All Recognition」の略
※『トゥルー・グリット』でも印象的だったバリー・ペッパーが若い。ユニークでかっこいいスナイパー。
※新開地の二番館のお客はいつもどおりでほっこり

*1:エイリアンじゃないよアピール