アマンダ×ジュリアン『クロエ』

期せずして公開初日に観に行ったんでした。もう1週間も経ってしまいましたが、なんとなく持ち越していた感想です。というのも、すごいおもしろい!と大興奮するわけでもなく、ナニコレ訳分からん!ともやもやするわけでもなく、つまらないと嘆息するわけでもなく、自分の中のニュートラルゾーンに嵌っていたのでした。(以下感想、かなり内容に触れてます。)
氷の微笑』とか『危険な関係』など官能サスペンスといわれるジャンルムービー。幸せそうな家庭にしのびよる謎めいた女、幸せそうに見えた家族の隙間というか見えないほど小さな亀裂を出来心ってヤツを利用して、大きな亀裂に発展させるのがその女の役目(エロ的な誘いで男を陥れる)。起こるのは殺人、はたまたストーカー的な行動など、それらに翻弄される男、舞台は家・・・などなど。『クロエ』もそのジャンルムービー的な宣伝がなされておりました。
リーアム・ニーソンジュリアン・ムーアのダンナっていうキャスティングの時点でリーアムさんなら、なんか陥れられるようなことするだろうさ、と感じさせる。その上で冒頭からリーアムさんのモテぶりをさらっといれといて、その後もちょいちょいミスリード。この映画においてはリーアムさんは当て馬みたいなもんで、ぼんやりとモテそうなダンナ役として存在してるだけです。本作で振り回される大活躍をするのはジュリアン・ムーア演じるリーアムさんのヨメ:キャサリンです。
土曜朝に建物探訪されるんじゃないか、というようなガラス張りで生活感の薄い金持ちハウスがキャサリンとデビッド(リーアムさん)のお家です。いかにもミステリアスな女性が入り込む隙のありそうな家庭です、夫の浮気疑惑、息子の反抗期など。いろいろのタネが撒かれ、キャサリンは不安で不安でしようがなくなる、アレもコレも夫の浮気の証拠にしか思えない…!そこで、婦人科クリニックをやってるキャサリンのオフィスから見える道路で何度かみかけた高級コールガールのクロエさん(アマンダ・セイフライド)に夫を誘惑してくれ、と頼む…、おいおい、浮気の証拠を掴むために、誘惑させてエサに食らいつくかを試すって、ちょっとワケがわからん。しかも、浮気でどんなふうに夫がアレコレするのかを詳しく聞き出すっていう。そんで、その浮気のさまを聞かされて気持ちがピークになって、クロエさんとあんなこと(唐突過ぎるレズシーン)になるなんて、あれはちょっとびっくりした。その斬新な編集といい。
物語の流れはすごく不自然ですよ。共感とかそんなのは、かんじえない(キッパリ。この映画において、何を愛でるかというと、アマンダさん演じるクロエのあり方ですよね。彼女を映えさせるためにもジュリアン・ムーアは素晴らしい相手役だったと思う。クロエのしぐさ、服、体、大きいおめめ、白い肌、長いブロンドの髪、香水をつけて画面から匂い立つような感じ:顧客を満足させるためにすべてを整えるクロエの存在感。その彼女に振り回されるジュリアンの年季のいった感じと夫に愛されない年老いた自分という自己規定から感じる哀切さやさみしさ、それがクロエをひきつけるわけだな、と。互いに違うタイプの女性で、自分にないものを求め合ってるようです。
いや、でも映画の最初にクロエが道路にいるのをオフィスからじいぃっと見つめてるキャサリンは既に彼女に惹き付けられてるわけだし、レストランのパウダールームで出会ったばかりのキャサリンに髪留めを渡そうとするクロエさんは、すでにキャサリンに惹かれてる。おたがい一目惚れなんじゃん!キャサリンが、クロエに夫を誘惑させてその様を聞き出すっていうのも、ある種性欲を満たす代償行為のようですよ。最初にキャサリンがやってるクリニックにやってきたクライアントとの会話は、「セックスで本当の本気で感じられない」みたいなお悩みにお応えするくだりでした。キャサリンはそれに科学的生物学的に回答するけど、実際はキャサリンもそんな感覚を求めてるんだろうかね、そのための伏線だろうな。そして、この欲求を満たすのが、クロエさんとの絡みなんだ。
ふたりはお互いの気持ちを確かめ合う。相思相愛めでたしめでたし、なんですよね、本当は。でもキャサリンは、あくまで自分の欲求はコントロールして、体面を重視しようとすることを選択する。そこの壁を突破できなかったクロエさんはいかにも官能サスペンスな感じのラストを迎える。でも最後の最後のラストショットでクロエさんからの贈り物の髪留めをしているキャサリンのカットが映るところで、キャサリンにとっての真実の愛もコレだった、と見せて終わる。
ペラい感じのお家の舞台立てとか、結局物語のキーが“性的欲求”に収斂するなど、ちょっといかにもな官能サスペンス枠に収まってるところもあるけど、アマンダさんとジュリアンさんの脱ぎっぷりとか、アマンダさんがジュリアンを射止めようと見つめたりするしぐさ、コールガールとして自分の体を磨くところの描写などは薄っぺらさを回避してると思う。ぼやぁっとした感じで美しく肢体を撮ってるところなど、ふたりの女優さんが気になる人は観たらおぉっと思えるだろうし、リーアムさんのぬぼーっとした感じも楽しめるし、建物探訪っぽさも味わえる映画でしたよ。

『クロエ』(2009/カナダ=フランス=アメリカ)監督:アトム・エゴヤン 出演:ジュリアン・ムーアリーアム・ニーソンアマンダ・セイフライド
http://www.chloe-movie.jp/pc.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18164/

※アマンダさんはこれまでは「セイフライド」表記だったけど『赤ずきん』では原音にちかい「サイフリッド」みたいですね。どっちでいくんだろ。
※アマンダさんの爪が短かったのが気になった。コールガールってそうなんですかね。