命ある限り未来へ生きろ!『127時間』

先週末は話題の映画がたくさん封切りされました。映画のハシゴをすることにして土曜日にまず観たのが『127時間』。ダニー・ボイル監督作品で、アカデミー賞作品賞にノミネートされたものです。それも納得の作品でしたよ。ポスターのとおり、一人の男が岩の壁で腕を岩に挟まれて身動き取れなくなってしまったが、果たして彼はどうなるのか、というワンシチュエーションの映画です。
アヴァンタイトルはダニー・ボイルっぽさが全開。編集のテンポ、リズム、画面分割、そしてなによりタイトルの出るタイミングが完璧すぎでしたね(ああ、なるほどこのタイミングだわな、って感じ)。本編はストレートに対象(主人公と岩)に焦点をあててます、シチュエーションがシチュエーションなんで凝りようがないという気もするけど。劇中はほぼジェームズ・フランコの一人芝居状態。彼がダメだったら、必定、作品はダメになってしまうけれど、肉体的精神的に追い詰められていくありさまを、役にがっちり向き合って演じてました。冒頭のフランコ演じるアーロンの軽薄な感じも絶妙。ちょっと調子乗ってるな、こいつ、と誰しも思うでしょう。それだけに、あまりに些細なきっかけで唐突に災難がふりかかるところに虚を突かれつつも、軽薄で自信家な彼だから、こんなに災難に見舞われたんじゃないかな、となんだかよくわからないけど腑に落ちる。ほんのちょっとのタイミング、ほんのちょっとの力の掛け具合の問題。このふとバランスが崩れた一瞬の些細なきっかけで予想もしえない災難が起こり、本編がスタートするくだりが秀逸だと思った。日常に危険は潜んでる、いわんや大自然においては、ですよ。
時間が経過し、衰弱していくアーロン。途中のモーニングショー風に弾けているシーンはダニー・ボイル節だなぁ、と思いましたが、単調に陥らないための抑揚になってた。ここはまさに映画的な表現だな(ただ、観る側によってかなり好悪が別れそうな微妙なところだと思う)。自分はおもしろいな、と思いました。ただ、一般人の素人にしてはすごい演技力長けすぎ、と思いましたけどね。…ともあれ、極限状態に追い詰められると人の意識は混濁し、現実ではないヴィジョンを幻視する。『プレシャス』ではあまりに苛烈な現実から逃れようと主人公プレシャスが妄想の世界に生きるシーンがあったけれど、妄想や幻視は生存本能というか、なんとか苛烈な現実をサバイブしようとする人間の最後の能力なのかもしれませんね。フランコ演じるアーロンは過去のつながりと未来を幻視する。過去に張り巡らされてきた関係性の網目のなかに生きてきた自分と、その網目を未来へと紡ぎつないでいく自分を見る。それが「なにがどうあっても生き延びる」という覚悟を芽生えさせる。
たまたま『127時間』を観た翌日に午前十時の映画祭で『素晴らしき哉、人生!』を観たのですが、共通点をかなり感じました。世界と自分のリンクを想像できていなかった男は、極限状態において、自分が生かされ、自分が生かしてきた命や世界があったことに気づく。世界のぐにゃぐにゃした関係性の網目はちょっとのバランスで崩れる。その網目のなかに自分もいて、なにかとなにかを繋ぐ役目を負ってる、ってこと。『八日目の蝉』とかでもあったけど、“こどもという未来””や“人は人によって救われるる”、というようなポイントに「希望」を求めるっていうのは、ありきたりというか陳腐で手垢がつきまくってるみたいだけど、ある種の真理なんだろうな。人間も生物であるからには、種を繋ぐ未来への連なる世の大きな流れの一部だという感覚を感じた瞬間、充足感を得る、というような感じかな。
あと劇中で、カメラにたまたま録画されてた女性の胸の谷間をみてむらむらと催すところがあって、ここまでの極限なのに?と思ったけど、こういう状況だからこそそういうこともあるかなぁ、と思った。食欲や性欲といった、根源的な生物学的欲求が研ぎ澄まされるんだろうか。水の一滴、人の柔肌に触れること、誰かと会話を交わすこと、太陽の光を感じること、なにもかも尊いと感じ、切望する。
渓谷の岩肌、太陽の光の温度まで感じられるような日向と日陰のコントラストの描写などで開放感があるロケーションなのに、身動きのとれない閉塞感に囚われているのがつらいな。精神的・肉体的に追い詰められたアーロンが取る決断は、目を背けずに観ました。うぐぐぅっ、て声にならない声が出そうでしたが、でもあの描写は必要不可欠だったと思う。岩にはさまれたのは運命としか思えない*1、けれど、その苦境を生き延びるためにアーロンは、自ら過酷な手段を選び取り、それにより未来を生きる運命を彼はわが手で切り拓いた。あのシーンは気合のはいった特殊効果、音響、画、演技の結晶でしたよ。そして、生き延びたアーロンがその喜びで満たされている場面は、『素晴らしき哉、人生!』の主人公ジョージのラストの生の喜びの爆発と通じるような気もしました。自分は生きてる!生きてるんだ!それだけで素晴らしいじゃないか!っていうね。

『127時間』(2010/アメリカ=イギリス)監督:ダニー・ボイル 出演:ジェームズ・フランコほか
http://127movie.gaga.ne.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17919/

127時間 (小学館文庫)

127時間 (小学館文庫)

シネマトゥデイの記事↓※モデルとなった人の画像もあり
http://www.cinematoday.jp/page/N0033162
Festival - Sigur Rós 127 Hours Soundtrack (for movie edit: check description)

*1:あたかもそれまでの彼の軽薄さが招いたかのような…