ギレルモ・デル・トロが推す『ロスト・アイズ』を観たよ

『ロスト・アイズ』は事前にはまったくのノーチェックだったのですが、劇場でチラシをもらってみたらギレルモ・デル・トロの製作だっていうので、観たくなって足を運んでみました。作品に関する予備知識はほぼない状態でのぞみましたよ。簡単なあらすじはというと…
一人暮らしをしていた双子の姉(最近失明した)が首をくくって自殺してしまった。姉と同じくやがては失明する病に侵された妹はその死に不審を覚え、夫を巻き込んで真実を追うのだが、彼女の周辺にも怪しげな影がちらつきはじめる。そんな中、彼女にも失明の危機が迫っているのであった…
つっこみどころは相当多かったです。ラジオの映画評で、この伏線回収されてない、とか物語が矛盾してる、と指摘しているのを聴いて、「あぁなるほどそういわれれば」と思うくらいぼんやりな自分でも、アレ、あの伏線はほったらかし?とか双子だから片割れになにか生じればテレパシー的に感じてしまう古典的な神話設定?とか、あんまりご都合主義じゃない、とか、主人公はなんでそんな不自然な選択をするかね、とか、もろもろ思いましたよ。きっと物語の核心をなすネタが先にありきだったんだろうな。そのネタを使って一つのミステリー+ホラーに仕立てるのに、主人公や周辺の登場人物が配置されたような。それゆえ突っ込みどころがたくさんになったのではないかな。とりわけ主人公のとる行動にはまったく共感できず、「あー、こんな人いたら迷惑やの」という感じで、チャートでダメな方の答えをことごとく選択する困ったちゃんだなぁ、と思いましたよ(あ、でも映画だからこれでいいのか)。でも、ところどころキラっと光るところがあったと思いました。…以下ネタバレてます。
存在感が薄くて、誰にも気づかれない男が犯人なわけですが、彼が犯人になる素養は生い立ちにある。彼の母(自殺した姉の隣人)との親子関係が重要なポイントでして、母は目が見えなくなったために夫に捨てられるが、実はその後、彼女の目は実は見えるようになっていた*1。でも母は、目の見えない自分を介護してくれる息子との濃密な関係性を維持するために、息子には目が見えるという事実を隠し通して、家/自分に縛り付けていた。息子はやがて家と母を捨てて飛び出すわけだけど、結局“視覚障害者に頼りにされる自分”としてしかアイデンティティを確立できなくなってる。それゆえ彼は想う相手を失明させるようとしてしまう。そうすれば、自分の存在を必要とし感じてくれるはず…!主人公の双子の姉はその犠牲になり、また、彼の存在の不気味さに追い詰められ自殺してしまった。
つまり、彼は母の呪縛から逃れられていないんですよね。まるでノーマン・ベイツ…まだ母親が生きてるノーマン。ノーマンと同じく狂ってしまってる彼は母の目をぷすっと刺して再び盲の世界へかえす。自分という存在の、その正当性を担保するのは、目の見えない母の世話をして頼りにされてたという事実なんだから、母の目は見えちゃいけない。次は愛する主人公の番だ、失明、さもなくば死を。そこからのクライマックスの画的な効果は『エイリアン』の最後みたいに明滅する光と迫る敵の構図。コントラストの強い画が印象的でキレイでした。
この映画は、失明することに係る人間の持つ恐怖感に訴える物語というよりも、母の異常な愛情により狂わされてしまった男の物語に(結果として)なっていて、そのポイントに焦点があたる終盤近くはおもしろかったです。それまでの、主人公と夫との関係(夫の愛は本当だったの?)や、いろいろの思わせぶりな伏線はどうにもムリが目立って。ましてお隣の父娘にいたっては可哀想としかいいようがないよ。親父はセクハラ、娘はやっと顔が映ったと思ったら口に刃物ぶっさされてるし。もっと彼らの設定も生かしてほしかった。特に娘は実在の人間かわからなお曖昧な感じがある不思議な存在だったんで、そのあたりをね。舞台立てや小道具、設定にギレルモさん要素が漂っているような気がする。そこが彼の推しポイントなのかな。いろいろ盛り込まれてぎゅうぎゅうして、個々に気になる要素があるんだけど、と、ちょっと惜しい感じでした、自分的には。

『ロスト・アイズ』 (2010/スペイン)監督:ギリエム・モラレス 出演:ベレン・ルエダ、ルイス・オマールほか
http://www.facebook.com/losteyes.movie
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18411/

ロスト・アイズ - 映画ポスター - 11 x 17

ロスト・アイズ - 映画ポスター - 11 x 17

目への攻撃だけはやめてくれぇ、と言いたくなる箇所あり。ぷっすりいくとこ。
実はストーカーだった彼の秘密部屋に隠し撮り写真びっしり、って安定のステレオタイプ描写。

*1:このあたりの経緯はうろおぼえ…