『SUPER8/スーパー8』

公開前からかなり話題だった『SUPER8』を初日に観ましたよ。観た人の感想はさまざまのようですが、エル・ファニングがキラキラしすぎてたとか、少年たちのルックスが最適すぎる、とか、歯の矯正姿いいよね、とか、ゲロの吐き方最高とか、音楽いいよな、とか、列車事故のシーンすごいなとか、エンドロールが一番の見せ場じゃない、とか…っていうのは多くの人が思ったんじゃないでしょうか。それらを踏まえ、ある程度のクオリティをクリアした作品であることを認めた上で賛否もろもろ語られてるのかな、と思う。特にエンドロールについては、2時間ほどの物語はこの最後の8ミリフィルムのための壮大な伏線だったのか、と思うほどすばらしい。最後にゆずシャーベットで余韻を味わいつつお口さっぱりするんじゃなく、誕生日のスペシャルな手作りケーキが最後の最後で出てきたような感じだったな。あと、とりわけ自分が好きだったのは、少年たちのステレオタイプともいえるキャラやルックス、物語でありまして、その少年たちのなかで起こるヒロインをめぐるやりとりの、恥ずかしながら“きゅんとくる”としか書けないような描写が良かったです。ふとっちょが主人公に言った「おまえがアリスを好きなのがムカつくんじゃない、おまえとアリスが相思相愛っていうのがムカつくんだ」というセリフは自分の胸に深く刻まれました、お前の気持ちわかるぜ、ふとっちょ。
この映画には2本の軸がある。こどもたち(と父親)の物語と、宇宙からきたナゾの生物(宇宙人て言っちゃっていい?)の物語、ですよね。今作ではそのふたつがクロスする度合が低い。『E.T.』はクロス度合が相当高くって、宇宙人と人間の親和度100に近いとすると、『クローバーフィールド』とか『宇宙戦争』では宇宙人は人間の敵でまったく交感できない存在なわけで親和度0といえましょう。では『SUPER8』ではどうかというと、親和度5くらい?かなぁ。今作に出てくる“彼”はE.T.とかエビ宇宙人*1と同じように「おうちへ帰りたいよう」といって大変な騒ぎを起こすわけなんだけど、E.T.とかクリストファーみたいに帰郷したがってる、っていう思いは観ている側にはわからないんですよね、内面が垣間見える場面がまったくないから。あくまで不気味な存在です。一部の人々が“彼”を利用しようとするけれど、人間が結局制御しきれずに暴れだし人々に恐れられる存在となるあたりはキングコングみたい。彼の心を感じられる人間が少数ながら存在している点もキングコングぽい。今作における“彼”のその思いは、一部の人間には触れた瞬間にテレパシーのように伝わる。けど、これは伝わる人と伝わらない人がいる、しかも最悪捕食されてしまう人もいる。その差は?“彼”に対する偏見があるかないか、同情心があるかないか、もしくは無垢なこどもかオトナか?
未知との遭遇』は、大人のなりをしているけれど中身はこどもの男が、高度に進化した宇宙人とともに“ここではないどこか”へ旅立つお話でした。こどもの心を持ち続けているがゆえ進化した宇宙人と交感できるというファンタジー。でも、今作ではそんなファンタジーはなくって、ただ、人間を捕食してしまうほど乱暴なアイツでもなんとなく純真な子どもが思いをぶつければ、説得できたりしちゃうようだ(ぼんやり)、という感じ。人慣れしないキツネリスでもナウシカには慣れちゃう、というのは一応ウラがあるわけだけど、今作ではそこはわかりにくいからクライマックスの少年×宇宙人のタイマン場面でのあの流れは唐突かもなぁ。そこにノレるか、ひっかかりを感じるかどうかで、評価はわかれそうな気がする。あと、“彼”の造形の、動きの早い巨神兵というかエヴァのとろとろした感じというか、猫背っていうか、クローバーフィールドっていうか…でもそこは期待してなかったから、別にいいよ。観てすぐ「宇宙人的!」と思わせられる異物感であればいいのかな、くらい*2
いろいろ書きましたが、いい作品だと思ったし、特に冒頭の夜に抜け出す→マイ・シャローナ→列車のあたりはとてもよかったな。なにより、これは夏休み期間中にこどもたちに絶対観てほしいな!と思いましたよ。ふとっちょ、メガネ、ガリ勉、歯矯正中の火薬マニアら仲間たちと過ごす夏とヒロインとの出会い、夏の夜にこっそり家を抜け出して行う特別な秘密ミッション、夜の窓をノックする美少女、ひとつのモノを夢中になってつくるきもち、ゾンビサイコー、ほか、みずみずしい思いが詰まってる。それに人間をもりもり食べる不気味なアイツでも、じぶんたちこどもは選ばれし存在だから、大丈夫なんだ!食べられないぞ!という“選ばれてある者”というちょっと特別な感じって、こどもにとって大きいと思う。その思いを吸って胸ふくらませると元気いっぱい生きていけるんじゃないかな。だからこどもたちにこそ観てほしい映画だな、と思う。列車事故のスペクタクル感にも大スクリーンで触れてほしいし、気持ち悪いクリーチャーにもおびえてほしい、そして全小中学生男子はエル・ファニングに惚れるがよい。
最後に。夜の町や夜の空気の美しさもスクリーンでたっぷり観られて、満足でしたよ。

SUPER8/スーパー8』 (2011/アメリカ)監督:J・J・エイブラムス 出演:ジョエル・コートニー、カイル・チャンドラーエル・ファニング、ライリー・グリフィスasふとっちょ ほか
http://www.super8-movie.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17855/

こういう物語をつくってるのは大のオトナなわけで、彼らのノスタルジーもあって79年という設定になってるんだろうな。デジカメとかケータイとかネットとかがあると、こういう物語は成立しにくいというのもあるだろうけど。
スリーマイル島の事故が劇中ニュースででてきてた。ある意味タイムリー感が。
エルのかわいさは、『somewhere』のときも相当なもんですが、今作もいわずもがなのかわいさです。

*1:第9地区

*2:それにしてももうちょっと造形がんばってほしかった感じはするけれど