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クロード・シャブロル未公開傑作選『悪の華』『最後の賭け』『甘い罠』を観たよ

クロード・シャブロルは名前を聞いたことあった程度で、唯一『パリところどころ』は観たことあったくらい。今回の未公開傑作選のチラシをもらって、1作品約100分という尺といい、作品紹介読んだだけで感じるフランス風のたたずまいといい、なかなかいい感じなんじゃない?と思って出かけました。3プロ券3,000円を買って、ナナゲイに一日居続け。『悪の華』→『最後の賭け』→『甘い罠』の順で観たのですが、一番おもしろかったのは『甘い罠』でしたね。ということで『甘い罠』から書いてみる。
『甘い罠』は50代くらいのカップルの結婚式からはじまる。高名なピアニストである男性とチョコレート会社経営の実業家の女性の結婚式。実はこの二人は若い頃に結婚し、離婚していた。男性は再婚し一子を設けるも再婚相手を事故で亡くして、また最初の妻とよりを戻した、という状態。人間関係の設定自体が結構入り組んでいて、微妙な設定や些細な会話、何気ない言動により心が乱れ波紋を広げ、影響を及ぼしていくさまの描かれ方が良い。イザベル・ユベール演じる実業家の女性は、ココアに睡眠薬を仕込んではかりごとをする。こんな遠まわしなはかりごと、実現するかどうかわからない。偶然に委ねつつ、そのうちなにかが起こるかもしれない、と待ってる。彼女が編み物をしているさまが蜘蛛が巣を張っているみたいに見える、罠をしかけてひたすら待つ…。まさに「心理サスペンス」の名にふさわしい物語だな、と思いました。こういった「偶然」に頼るサスペンスってありますよね*1。ある作為によりなにか(人の死にまで至るような)が起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。その一見消極的な手法にまとわりつく無気力と倦怠、さみしさ、嫉妬の入り混じった状態が観ててジリジリしてくるんだけど目が離せない、という感じ。それにしても登場する女性はみな魅力的なのに、男どもの吹けば飛ぶような有様ったら。ラスト、はかりごとが露見してしまい、養子だった自分、誰からも求められていない自分、居場所のない自分、という自分にまつわるダウンな気持ちが増幅し、自分の編んだ蜘蛛の巣上の編み物の上でまるで胎児のように丸まって絡めとられていくユベールの姿の印象的なカットといい、ロケーションといい、アナ・ムグラリスの素晴らしい肢体といい、よかったですよ。
次に印象的だったのは『最後の賭け』。これは美人局まではいかないけど男を誘惑して昏睡させ盗みを働く男女の歳の差詐欺師ペアのおはなし。ミシェル・セローとイザベル・ユベールの組み合わせなんですが、ユベールは次々ウィッグを変えてフジ子ちゃん的詐欺師っぷりをアピールします。冒頭はその鮮やかな仕事ぶりを2人の紹介がてら見せといて、さぁ、この映画の本題、となかなかいいペースで進みますよ。2人のコンビ、とりわけセローがかもし出すコミカルな感じから“これがウィットにとんだフランス的感じかしらん”などと思っていたところ、ユベールがリスクを伴う大きい仕事に手を出したことにより、段々と不穏な方に進んでいき、とうとう人まで死ぬ事態になる。これにはえぇっ?と驚きました。さらっと現れる恐ろしい黒社会の暗黒面の冷酷さ…でもシリアスなサスペンスというよりは、軽妙なコメディ的要素が濃い小品だと思う。ふたりはルパンとフジ子ちゃんぽくて、互いの深層はわかってるケド、でも表ではだましたり騙されたりしてる。危ない橋を渡ったのちの、最後の駆け引きは、どうなるか?うん、シャレてる。
悪の華』。韓国ドラマみたいに血縁だの義理のなんとかだの、複雑な人間関係図+甘美に描かれる近親相姦的要素+ヴィスコンティぽいイメージ(上流階級のただれた感)がミックスされてるみたい。ただし、映画の最初の方で主人公家族の家系についての中傷の手紙が届いて、それを読み上げる場面があるのですが、ここで昼ごはん食べたばかりの自分は眠くて眠くて意識が飛んだんですね。そして後々、この箇所を観てなかったことを後悔するはめになりました。この手紙で懇切丁寧に説明してた濃厚な血縁関係設定がポイントだったんですよ…。しかしまぁ、なんとなくわかる範囲で観てもおもしろかったですよ。どこかカリカチュアというか皮肉ぽい客観的視点を感じました。あと、この映画に出てくる父親がしょうもないことこの上ないヤツで、『甘い罠』の男どもなんかまだマシだったというほどに、しょうもないヤツ。こいつがベタにも義理の娘に襲い掛かり、ベタにもライトスタンドで頭を殴られベタに死亡。そういうベタな描写が結構あって、あえてのベタな表現こそ監督の皮肉なんじゃないかな、と思った。殺してしまった父親の死体を運ぶのに階段をずるずる引きずりあげようとして、ちょっと休憩→死体階段をずり落ちかける→あわてて押さえ→思わず笑う。のくだりとか、妙におかしみがあったし。パッと見の表層と、ちょっと穿って観るのとでいろいろ楽しめるのではないかな。あと、オレの妹最強!な人が観たらはまる…かも。
『引き裂かれた女』も観に行きたいな。

『甘い罠』(2000/フランス)監督:クロード・シャブロル 出演:イザベル・ユベール、ジャック・デュトロン、アナ・ムグラリス
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18530/
『最後の賭け』(1997/フランス) 監督:クロード・シャブロル 出演:イザベル・ユペール、ミシェル・セロー
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18531/
悪の華(2003/フランス) 監督:クロード・シャブロル 出演: ナタリー・バイ、ブノワ・マジメル、ジュザンヌ・フロン、メラニー・ドゥーテ、ベルナール・ル・コック
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18532/index.html
※『甘い罠』の予告
 

*1:道尾修介の『龍神の雨』はこんな偶然依頼要素あったな 。小川洋子の『妊娠カレンダー』もそうだったかな