『ハウスメイド』は『下女』のリメイクか?

今年の大阪アジアン映画祭で上映されたのに見逃していました。そのかわりに、そのリメイク元となったキム・ギヨンの『下女』を映画祭で観たのですが、とても印象に残る衝撃の作品だったので、『ハウスメイド』の一般公開を楽しみにしていました。そして早速観に行ってみたのですが・・・
観終わって思ったのは、『下女』のリメイクだという先入観があったことがいけなかったな、ということ。『下女』のリメイクだと思って勝手に期待していた挙句、観てちょっとカクッときてしまった。『ハウスメイド』を観ながらオリジナルを思い出しては比較してしまって、今作の薄いところが自分の中でさらに際立ってくる感じでして。オリジナルの『下女』の主人は愚かです。ただ、彼は愚かだけど、下女と一回だけ寝てしまう流れや、その後二人の女(妻と下女)の間でふらふらしてしまう心の動きもわかるような脚本になっている。また、主人の仕事が順調になってきて夢の大きなマイホームを手に入れ、妻も妊娠し、下女まで雇い入れ、いい感じの中産階級へステップアップしたばかりである、というバックグラウンドがちゃんと描写されているので、その後の展開の必然性もわかるのですが、今作は…。あと、キム・ギヨンの作品においては下女の純粋さ*1とその暴走、奥さんの保身と家族を守る意識、子どもが感じる家庭崩壊の原因である下女への恐怖、といったそれぞれの立場や心の動きがきちんと描写されているので、各人の行動の必然性が映画内でちゃんと成立している。そして、強烈なキャラと演技によるホラー的な怖さもあったのですよね。あぁ怖かった。この調子で書くと『下女』のことだけ書いて終わりそう…。そもそも今作は『下女』の要素を元ネタにした全然別物だ*2、とわかったうえで観られればまた違ったとは思いますが、なにせオリジナルが強烈なものでどうしてもそちらに引っ張られてしまった。
ともあれ『ハウスメイド』です。舞台となるのは、絵に描いたような豪邸に住んでる金持ちの家庭なんですが、それはデフォルトの設定でして、まるで昭和の少女マンガみたいにファンタジーっぽいです*3。そこに夫婦と子どもひとり+先輩家政婦がおります。そこの妻が双子を妊娠中で、その産まれ来る子供の面倒を見るのも含めての家政婦としてやってくるのが主人公ウニです。とにかく夫婦の造形が薄っぺらすぎて、単なる人間性が低い/倫理的にダメな連中にしか見えない。とくに主人はひどいな…。R-15+表現のところの主人のアレコレは笑わせにかかってるのかと思うほどで、思わず苦笑い…。エロにまつわる表現は映画によっては必須だと思うけど、今作におけるそれは必然的表現といようりも、ただただ過激ぽく見せようとしている感じでね。ただ、ちょっといい描写もあって、それは主人に手をつけられたウニが、次に主人が来るのを自分のベッドで裸で(!)待ってるとこ、とか、ちょっと色気だして濃い化粧をして朝食を運ぶところ、とか。そういう心の動きがわかる演出をちゃんとした演技で見せるだけでいいと思うのです。
『下女』は教訓譚の体をとったサスペンスや人間の悲哀などを描くドラマだったのですが、一方『ハウスメイド』は全然違う“情痴話”でして、つまり物語の質が全然別だったのです。今作を観ながら昼ドラっぽさを思い起こしたのはそのせいかな。オリジナル『下女』とは違う面にフォーカスをあててリメイクしようが、“良いもの”になっていれば、それはそれでいいのですが、本当に昼ドラっぽい突飛さや薄さが目立ってしまって…
以下ネタバレて思い出すままに書いてみます。
アバンタイトルが思わせぶりなんだけど本編との関わりはよくわからない/ストーリーにはまったく無関係な若い女性が歓楽街で飛び降り自殺するところから始まります。なにか不穏さをかもしだす効果+ラストの主人公の死の暗示効果ですかね…。『下女』でも最初のほうで女性が自殺するという要素があります。それは妻子ある主人に一方的に惚れた女性が、その思いを拒絶された挙句、会社に告げ口されて解雇されたことを悲観して、というトリガーがちゃんとあった上での自殺だし、彼女の死は『下女』の映画本編にもふかく関与していく要素になってたんだけど今作は本当に無関係でして…
・ウニの下着は真っ白だし、水着はスクール水着みたいだ/まるで小学生の子みたいな下着と水着でした。これは現代においてないじゃろ…主人公が世間ずれしてない証左?うむむ
・主人公の行動がよくわからない/『下女』では人にやさしさを示されたことのない下女がはじめて*4異性に肉体的に触れられる機会を得て、その接触が彼女のすべてになってしまい、そこに執着する、っていう流れになるのはわかるのだけど、今作の場合、なにがウニにとって大事なのか、よくわからないのですよね。どうして主人からの行為を受け入れようと思ったのか?その後、彼女は妊娠した子どもをどうしたいと思ってるのかもよくわからない。子どもをどうするか、それが決まれば彼女の行動は迷いが生じるはずがないのに、うろうろしてるから無理やり堕胎させられるんだよ…、あまりに考えが足りないなぁ、って。また最後、どうしてあの手法で復讐するに至ったか?というか、あれ復讐なのかなぁ?
・とにかく夫婦の造形が薄い/夫も妻も気取って、変なシルクみたいなガウンとか、あごしゃくって話したり、やたらとえらそうとか、ワインを通ぶって飲むとか、ピアノを弾くとか、クラシックかけるとか、人形みたいな妻がマタニティヨガばっかりしてるとか…はい。スノッブさを出そうとしたんでしょうけども、あまりに表層的で。
・不必要にエロい/家の家政婦の制服がぴたっとした白シャツ+タイトスカートに黒ストッキングでヒールのある靴でカツカツいわせながら歩くのですね。それは家政婦ぽくないぞ!風呂掃除をする主人公のパンチラもサービスショットなんだろうな。いや、しかし…。
・最後のアレは燃えすぎだ/子どもを強制的に中絶させられ、もうめちゃめちゃに復讐してやる、と豪邸に乗り込む主人公。奥さんに生まれた双子ちゃんに手をかけるのか(『八日目の蝉』展開か…?)と思わせといて、なんとシャンデリアによる首吊り自殺とは!それはいいんですが、人体発火ですよ。まるで油を染み込ませた可燃物質のように燃えます。人の体ってそんなに原型も見えないほど炎に包まれるんかなぁ。ちょっとCG盛りすぎじゃ…
自分にとって気になった箇所をあげてみると、けなしてばかりのようですね…でも、いいところもあったんですよ。ウニが化粧して色気づくところかね。こまかい心の動きをつみかさねる演出でやってくれたらよかったのに。そういう意味では一番そういう面が描かれていたのは家政婦の先輩おばさんだったと思います。映画の中で必然性をもって成長…というか変化を遂げていたのは彼女だけだったような気がする。彼女の描写や演技はよかったですよ。

『ハウスメイド』(2010/韓国)監督:イム・サンス 出演:チョン・ドヨンイ・ジョンジェ、ソウ、ユン・ヨジョン
http://housemaid.gaga.ne.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18233/

※自分の脳内記憶との連携の関係で、主役=いとうあさこ、主人=坂東三津五郎、先輩=ガキの使いのおばさん、に見えてしようがなくて、それもかなりのノイズだったです。これは観た自分の個人的問題ですが…

*1:言い換えると、ちょっと足らん感じ

*2:たしかにリメイクというよりは原案、なんですよね

*3:金持ちったら金持ち、理由なんてない

*4:だと思う