愛おしくて多幸感あふれるラブコメ『ステイ・フレンズ』

ジャスティン・ティンバーレイクミラ・クニス主演のこの映画。予告を観るかぎり、よくあるタイプのラブコメで、ミラ版『抱きたいカンケイ*1 なのかな、と思ってました。なぜなら予告はあまりにもありきたりな描写の切り取りだったものな。体の関係だけと割り切って付き合ってたつもりがいつの間にか…みたいなアレか、という感じ。たしかにお話の軸はそのとおりなんだけれども、今作はありがちなプロットながら、そのディテールやキャラのキュートさゆえに愛おしくてたまらなくなる作品だったのです。
冒頭の“出会う前の二人”の並列して進行するテンポのよいシークエンスでそれぞれのキャラがうまく描かれていて、観客はこの二人がどんな性格なのかなんとなく分かるようになっています。ミーハーで自己中な彼女(エマ・ストーン)と付き合っていたディラン(ティンバーレイク)とザッカーバーグばりのギークぽい彼氏と付き合っていたジェイミー(ミラ)は、それぞれ性格を非難されてフラれてしまう。そんな二人は人材ハンティングする側(ジェイミー)とハントされた側(ディラン)という関係で出会う。二人ともバリバリ働いてて、いわば社会の成功者という設定です。その二人が失恋の痛手ゆえ恋愛では傷つきたくないから、セックスをテニスやスポーツに例えて割り切った関係でいこうぜ!というのは…これだけじゃ本当につまらないありきたりなお話みたいですな。
気の合う友達ではあったけど、恋の感情に先んじてカラダの関係になってしまったこの二人が、あらためてどんな風に近づいて恋をしていくのかというここからが本番。まずはディランのターン。ジェイミーが“ちゃんとデートできる相手がほしい”、とたまたま逆ナンした相手とうまくいきはじめると、ディランは「あれ、ちょっと、え、うまくいっちゃうの?」と内心穏やかでない(結局その逆ナン男にはジェイミーはあっさりフラれるのだけど)。続いてジェイミーのターンで、たまたま彼と姉が話しているところに遭遇し、ディランが「彼女はあくまで友達で、情緒不安定だし、付き合うなんてありえない」というのを聞いてしまって、ジェイミーの内心は穏やかでない。こうやって互いに割り切った関係のトモダチという思い込みが変容していきだんだん互いに恋の対象として惹かれあっていく、という正統派のプロットでしたね。それぞれのターンを盛り上げたり、お膳立てしたりする脇役キャラがまたいい。ジェイミーのお母さん、ディランの父、姉、甥っ子、ゲイの同僚編集者*2。本当に愛おしくなるようなキャラばかり!とりわけマジック大好き甥っ子は本当にかわいかったな。
ミラ演じるジェイミーも最初はえ?と思うキャラだけど、古典的なラブストーリーに素直に憧れるさま*3もかわいらしいな、と思えてくるし、ティンバーレイク演じるディランの造形もよかったです。尊敬する老いた父の厳しい現実と自分の抱える学習障害吃音、高所恐怖症といういわば隠したいような部分、姉もまた離婚して子連れで実家に戻っているようだし…。それらを深刻な暗いトーンじゃなくてこの映画の明るいトーンで自然に描いてるのがいい。また、ディランにまつわるそれらの状況をどのようにジェイミーが受け止めるかの様子を見れば、ジェイミーこそがディランの運命の人なんだ!と分かるし、この二人はくっついてほしいなー…と観客としては願わずにはおれないのです*4。社会的には成功している二人だけど個のレベルではそれぞれにいろいろ抱えていて、弱いところもある、そのふたりが互いを支え合うために必要としていく描写がやさしさにあふれていていいな、と感じましたよ。
ジェイミーの母親が娘にその愛情を伝える場面もすごくよかった、あなたにそばにいてほしい、あなたが生きてることがうれしい、という気持ちを素直に伝えられるお母さんの言葉はよかったな。そんなジェイミー母娘の場面を踏まえた上で繰り広げられる、ディランが尊敬する父の病の現状や父の思いをうけとめる空港の場面も結構感動的でしたよ。「運命の人を離しちゃいけない、後悔することになるぞ」という父の言葉を受け止めた彼は、自分の中にあった壁をクリアして次のステージに行く。素直に自分の想いを伝えること、自分の体面とか意地とかで止まってちゃダメだということに気付き、素直に気持ちを伝えるのに使う手段!あの幸福な場面に「うわー、この画面の中に入りたい!あのモブの中に混じりたい」って思いましたよ(ちょっと感動して泣いてしまった)。主役の二人をいつまでも観ていたいというしあわせな鑑賞後感に浸りながら、エンドロールも最後まで観てくださいね。

ステイ・フレンズ(2011/アメリカ)監督:ウィル・グラック 出演:ジャスティン・ティンバーレイクミラ・クニスパトリシア・クラークソンジェナ・エルフマンウディ・ハレルソン
http://stay-friends.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD19470/

※ラブコメといえば会話劇の要素も強いから、主役の二人のキャラがしっかりと立っていて、そのキャラ設定に基づく会話がテンポよく描かれるとものすごく気持ちいいんですが、この映画はそれがちゃんと成功している。噛みあったり、行き違ったり、素直に思いを伝えられずちょっといさかいしたり…
ソニーピクチャーズお馴染みの電化製品全部ソニー製攻撃もだんだん気にならなくなってきた、かな。
※細かいギャグもたくさんちりばめられてますが、全部は理解できてないような感じ。また観なおして確認したいです。
※ティンバーレイクのあの役は冒頭の感じでショーン・パーカーを思い出したよ、なんとなく。
ジェシカ・アルバには負けるけど、ミラのちち隠しも冴えてました。すごい技術じゃよ…

*1:奇しくもミラが『ブラックスワン』で共演していたナタリーの映画

*2:ウディ・ハレルソン

*3:ラブストーリーのクサいセリフを暗唱しちゃうほどうっとり観てる

*4:くっつくのはわかってるけど