『スリーデイズ』

リメイク元となった『すべて彼女のために』は未見なのですが、同監督の『この愛のために撃て』は先日観ました。『この愛〜』は尺が90分なかったし、『すべて彼女の〜』も96分という尺のうえ、あらすじを読むとなんだか2作似ている。クサいほどベタな“愛”を主題にタイトにアクションを畳み掛ける疾走感のあるイメージなのですよね。しかし、今作のランタイムは2時間20分…この時間が長くなっているところにポール・ハギスらしさが現れているのかな、と予想しつついざ鑑賞。
妻が上司殺しの疑いで逮捕されるが、状況証拠から裁判の判決において妻の罪が確定してしまう。妻の無実をあくまでも信じている夫は、刑が確定した妻が遠い刑務所へ3日後に送致されてしまうことを知り、それまでに準備してきた妻を脱獄させる計画を実施すべく最後のツメをしていくのだが…
印象としてはとにかく前半が長い。ひたすらにラッセル・クロウ演じる夫ジョンがいかに妻を愛し、信じ、脱獄計画を素人感まるだしでたどたどしく不器用に立てて準備していくか、という描写が丁寧かつ執拗になされるのであります。この描写の積み重ねこそ、きっとポール・ハギスがリメイクでやりたかったんだろうな、とオリジナル未見のくせに思いました。ラッセル・クロウはとにかく“泥臭い”*1やり方でなんとか突破しようとする。まったく洗練されていない。偽造パスポートを手に入れるのに、“とにかくヤバそうな連中なら裏世界とつながってそう”と予想してクスリの密売人のところに行き、クスリを購入しては「パスポートの偽造と実際につかえる社会保障番号を都合してくれる人知らない?」とやっていくのですよね、それでボコボコに殴られたりして。このあたりのリアリティは痛々しかった。多分、自分がジョンのような行動を取るなら、彼と同じようなことをするだろうな、と思って。普通に暮らしていた人間は、裏の世界とどうやってコンタクト取ったらいいかすらわからない。なんかヤバそうなイメージの連中に接触するしかないのかな、と思うわな。
このあたりの地を這うようなジョンの脱獄計画の準備こそが今作の見どころではあるのですが、観ている自分のもうひとつの関心は収監されているジョンの妻ララは真に冤罪なのか、というところにもありました。この部分をちょっとぼやかしたり、あいまいにしておくことで、観客としてはジョンにそこまで肩入れしないでちょっと客観視できるのですよね。途中で上告が棄却されたことを知った妻が、動揺のあまり「あなたは私が本当にやったかどうか一度も聞かないのね、私がしたかもしれないのに!」と揺らぐ場面があるので、観ている側としてはジョンが事実や現実を直視せずに、自分が信じたい真実*2を盲信しているようにも見えてくる。ジョディ・フォスターの『フライトプラン』ほどではありませんが、そういう点で、主人公なのに共感しにくい、というところが若干ありました。それも描写の丁寧さゆえなんだろうけれど。素人が脱獄計画を立てようとするところの不器用なリアリティがある一方、あまりに偏執狂的に執着しているように見えてくるという。
あとは、脱獄計画がリーアム・ニーソン演じる元脱獄囚の知識に頼りすぎやろ、と思わざるをえませんでした。リーアムさんがちょっと講義した情報だけであんなに計画ができあがっちまうとはよ…。ちょっとその設定は雑っちゃ雑ですが、いざ脱獄!といってドラマが動き出すところからは、テンポが一挙に速くなるので集中して観られましたよ。やっぱり緩急大事。とはいえ自分にとっては、ちょっと前半はゆっくりすぎましたが。
それにしても、妻への愛のためなら周囲へめちゃくちゃ迷惑かけたり、クスリの売人の金なら盗んでもいいや、といって結局、金の強奪のために人殺しまでしたり…このあたりはやっぱり全肯定できないな、と最後まで主人公には共感しきれなかった。最後のアレはハッピーエンドなんかな。異国の地に逃げて逃げて、親子3人で暮らせさえできれば、いいの?いろんなものを犠牲にしてもそれは代え難いの?自分には感覚的にまだわからない。たしかに愛する人と共に生きるのは、何にも代え難いことだし尊いことだと思うけども。…というわけで、単純にハッピーエンドとも思えなかった自分にとっては鑑賞後感はなんだかちょっと苦い感じもありました。それもポール・ハギス風味なんでしょうかね。

『スリーデイズ』(2010/アメリカ)監督:ポール・ハギス 出演:ラッセル・クロウエリザベス・バンクスブライアン・デネヒー、レニー・ジェームズ、オリビア・ワイルド
http://threedays.gaga.ne.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18239/

*1:イヤな言い回しですが…

*2:“愛する妻は冤罪だ”