最近映画館で観た旧作ブレッソン『スリ』『ラルジャン』、ワイズマン『基礎訓練』

ブレッソンの芸術としてニュープリント版で上映された2本の映画を観に行きましたよ。芸術の薫り高い…というか猥雑な街のかおりが馥郁たる感じの十三:第七藝術劇場での上映でした。
『スリ』
予備知識なしに行きましたので、スリの実際の手法(グループでやったり、その手技の鮮やかさを見せたり)をじっくり描きつつ、なんと最後にはラブストーリーに落ち着く、という展開に驚きましたよ。犯罪を正当化し、かつ少し露悪的な主人公の論理は『罪と罰』ぽいな(あれも大学生の話だし)と思いましたね。そんなふうに犯罪を行ってしまうのは貧しさゆえなんだけれど、その実、金を得るのに労働より安易な方法でかつ一定の技術や修練が必要に思えるスリという行為に魅せられているところがあるわけです。いくら習熟してもすべて上手くいくことはあるはずなくて結局網にかかって捕まってしまう。しかし最後に主人公が救われるのはラブっていうのが、えらくロマンティックでびっくりしました。いろいろいろいろあったけど、最後に帰るのは君の胸でござったよ、と。
『ラルジャン』
先の読めない展開にハラハラしました。原作はトルストイ*1らしいですが未読。冒頭、高校生が父親に金を無心するところ⇒偽札利用⇒店がだまされ…まではともかくそこから先の展開ですよ。今作を未見で、これから観ようという人は予備知識なしでの鑑賞を絶対オススメします。本来なら細々と小市民的生活を送ったであろう男が、偶然にも偽札をつかまされてしまったことから、玉突き式に不幸の連鎖に巻き込まれ、そして理由なく“触れるものみな皆殺し”するに至る。金は世の中をぐるぐる回るもので、それにともなって金が巻き起こす人間のどろどろや犯罪や不運も巡る。いつ誰にこんなことが起こらないといえる?…いや本当にある意味真に恐ろしい映画と言えましょう。
○神戸のKAVCであったワイズマンの特集上映。観たいものはほかにもいくつかあったのですが、都合があわずに結局一本だけしか観られませんでした。
『基礎訓練』
キューブリックの『フルメタル・ジャケット』の元ネタらしいとのことですが、たしかに観てみて納得。ベトナムへの派兵のための新兵訓練のドキュメントでこれは貴重な記録だな!と思いましたね。アタマを坊主にする。軍隊の上下関係を教える、トイレ掃除の仕方を丁寧に教え(指でさわってみろ、ぬるぬるするだろ、洗剤がのこってるんだ、あ、この隅っこもちゃんと洗え)、歯磨きの仕方をフィルムをみながらみんなで練習(歯の健康がかなり重視されてるのがおもしろいな、と思った)したり、精神的に弱い者へのケア、遅れがちなものへの訓練など、映画でぼんやり観たような光景が繰り広げられます。ドキュメントなんだけど、人が集まるところにはドラマや人間関係が生まれてて、それをドラマ仕立てにしようとすればできるのに、あえてそんなドラマチックな構成にせず観察記録にしているところがよかったです、うん、興味深かった。行軍の際に歌う歌もおもしろいな。リズムに乗せることで足が止まらないようにする効果があるんだろうな。指揮官と掛け合いで歌うその内容が結構ヒドイ*2けど笑えるっていう、これは国民性でしょうかね?

スリ [DVD]

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ラルジャン [DVD]

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*1:「にせ利札」

*2:下ネタとか