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『恋の罪』

冷たい熱帯魚』の上映時のティーチインで園監督が「もう次作は撮ってて、東電OL殺人事件がモチーフなんです」と言ってたので楽しみにしていました。
今作について感想を書こうとするとなぜか前作を引き合いに出したくなる…『冷たい熱帯魚』では映画全体から発する“過剰さ”がドストエフスキー*1に感じられて、畳み掛けるセリフや過剰な演出、オーバーアクトなど総合して生まれてた、どこか祝祭的な躁状態にノセられたのですが、今作の“過剰さ”にはちょっとノレなかったです。極端に形式化/類型化してキャラを立てることで、物語内でキャラが独り立ちしてのびのびと自在に動きだすことにつながり、やがては戯画化されて笑えてくる、という点では『冷たい〜』と似てるところもあります。ただ、『冷たい〜』で描かれていたのは人間の中に潜む欲望とか狂気で、今作は女性の性的衝動(?)が描かれているようなんだけど、その描かれ方にノレなかった。単純にいうと、“男が思っている女の性”について描いているという感じを受けたのですな。数多あるアダルトビデオとか成人漫画の中で、きわめて単純化/類型化されて描かれた女性像と変わらぬレベルのようなものが気がしましてね…*2。や、実際女性も性的にアレだよな、みたいな男のアタマの中で妄想したのを具現化したみたいにね。結局女もこう乱暴にされるの好きでしょ、とか、こういうのなんだかんだいってイイと思ってるんでしょ、とか、結局女性ってこんなの心の奥底では望んでるんでしょ、とか(なんか書いてて滅入る…)。
単純に言えば、女の欲求不満と性的抑圧、ファザコン、娘と母との関係、幼いころのトラウマ感などがミックスされた“女性の心の闇”みたいな問題設定がされており、そういったトラウマ克服や、夫*3との淡泊な生活に物足りなさを感じる妻の満ち足りない不安な気持ちも、自分の中の性的衝動を解き放つ=不特定多数と性交渉を持つことで解決の糸口がつかめる、というように描かれているのが受け入れがたかった。それって単純にセックス依存症みたいなものじゃ…。劇中でコトバには肉体が伴っている、という言い回しがたくさん出てくるけど、今作のセリフが肉体性を伴って感じられなかったのです…自分にはあまり響かなかったというだけかな。自分の場合は、『悪人』の深津さんが女性性の奥深くから痛みを伴って吐き出したセリフのほうが、肉体性を持ってるように感じた*4
恋の罪』はテーマをあえて抽象的・観念的に描こうとしていて*5、そんな観念的なセリフや田村隆一の詩で幻惑するんだけど、自分の深いところには響かずに上滑りするように感じられた。そんな抽象的な議論がいかになされていても、何度もセリフで「好きじゃない男とやるときは、金をもらうんだよ!」というのが出てくるので、結局は恋愛で気持ちが満たされるか否かの恋愛至上主義に落ち着くの?と思ってしまって。それは至って普通というかありがちな価値観のように思うのです。
描写の細部はおもしろくて特に冨樫真演じる大学助教授:美津子の母親が出てくる場面は全部おもしろかった。俳優陣の演技は気合入りまくっててとりわけ神楽坂恵さんは、この役に全身全霊をかけている感じが伝わりましたよ。スーパーでのウィンナーの実演販売がどんどんブラッシュアップされていくところとか面白かった!その過程で家で全裸で練習したり…訳わからんけどその熱に押し切られるみたいな感じでした。デリヘルの山高帽の人もよかったよ。あとは、少しだけ出演してた岩松了さんの身体からにじみ出るヤラしい感じがさすがで、彼と神楽坂さんの絡みをもっと観たかったな。そんなディテールや役者陣の演技の熱量はすばらしかったです。色彩の毒々しさとか、渋谷のラブホテル街っていう場所の描かれ方とかに惹かれるものはあったし、ごちゃっとぎゅうぎゅうと詰め込まれていて、2時間超えるけど飽きずに観られました(というかあまりの過剰さに結構声出して笑って観てました)。ただ、自分は女性性の描き方にどうにもひっかかって物語の深いところに入れなかったのでしたが、人によって今作にどの深さまで嵌れるかはかなり違うだろうなぁ、と思った次第なのでした。
恋の罪 (2011/日本)監督:園子温 出演:水野美紀冨樫真神楽坂恵ほか
http://www.koi-tumi.com/index.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18010/index.html

※自分は『愛のむきだし』を観てないのですが、あれを観れば、今作についてなにか違う見え方したり、捉え方が変わってくるのかもしれない?
※神楽坂さんの豊満さと富樫さんのまるで男性のような体の対比がすごかったな。とりわけ、神楽坂さんの肉体あってのこの映画かも。水野さんは脱いだり、不倫とかいろいろあるけど、あまり印象に…

*1:適当に言ってます

*2:AVとかはよく知らないので勝手にイメージしてこんな風に書いてる、なんか矛盾しとるみたいですが…もやもや

*3:W氏を思い起こさせるような小説家

*4:「女にもそういうことしたいと思うと時もあるとよ」みたいなセリフだっけ

*5:カフカの『城』を引き合いに出すところとかも