『ピザボーイ 史上最凶のご注文』

かなり楽しみにしていた分、ちょっと肩すかし、という感じでした。決して面白くないことはないし*1、「この題材で長尺やってもダメっしょ」とよくわかってらっしゃって、サクサク進んでテンポはいいし気も利いてるんだけど、おぉっ!と思わず身を乗り出すような盛り上がりに欠ける感じでした。サクサクすぎてタメが無い分ドキドキやスリルも薄いのです。問題発生⇒即行動⇒解決⇒でも次の問題発生、という感じにわりとあっさり問題をクリアしていくのでね。ジェシー・アイゼンバーグ演じるピザボーイが取り付けられる時限爆弾付ベストをどうやって外すか、という大きな物語の中に、ラブ的要素、爆弾ベストを取り付けることで強制されて行う銀行強盗のくだり、犯人たちが巻き起こす騒動、などが小規模に勃発し続けるわけですが、ラブもなんだかすんなりいい感じになるし(吊り橋効果でしょうけど)、銀行強盗も信じられないほどうまくいくし、なんだか全体にあっさりなのですよ。くわえて、同監督の『ゾンビランド』はラブ要素が主人公の成長に大きく関わってたけど今作はそうでもなくてヘテロのラブ要素は薄かったな。今作のヒロイン*2には『ゾンビランド』のエマ・ストーンほどの存在感やキャラ設定もなかった。そのかわりにジェシーと親友の男同士のイチャイチャ感が濃かったです。そういう意味では、結果として主役よりも印象深いキャラになってた、ジェシーにベストを取り付ける犯人2人組のイチャイチャ感もすごかったな。
この悪役コンビのホモソーシャル感は本当にアメリカっぽいなーと思った。オレ様タイプとどこまでも忠実な舎弟タイプの2人組。なぜだかいっつもツルんでて、家の3Dテレビで『13日の金曜日』観ては精神年齢中学生のバカ騒ぎっぷり。これを観て、つくづくと「男は男が好きだなぁ、本当は男だけの世界*3に生きたいんだろうなぁ」と改めて感じ入りましたです、はい。だって、ジェシーがインド系美人に告白する場面よりも、最後に火傷を負った舎弟が力を振り絞りつつも気丈に、オレ様野郎に向かって「行きな」というところの方が愛でいっぱいでしたよ、うん。とにかく、この2人が、銃で標的撃つマネして爆発させごっこをしたり、猿のマスクをかぶってるときの男のキャッキャッ感がすごかった。
今作は人種に基づくキャラ付けをされている人物が出てきていて、そのことも興味深かったです。たとえばジェシーの友人のインド系の男。早口、モテないけど女好き、ギョロ目、コミカル、自分勝手、という感じ。その妹ちゃんはうってかわってインド系美人、スマート、あたまよさそう*4。アメリカの白人はジェシーといい、犯人2人組といい、職業もはっきりしないし、ゆるくてちょっとやる気なくて、ダラっとしててお金がない(その一方、持てる者は超金持ちなんだけど、という格差社会)。2人組に成金の父親殺しを依頼されるヒスパニック系の男は、いかにも危険地帯で育ってきたようなタトゥー入れまくりのワイルドでワルでタフガイ…ぽいけど鏡を見て「オレ大丈夫、オレ、強いから」と自分に言い聞かせるような部分もあるヤツ。きっとこれらは人種に基づくある種ステレオタイプな描き方なんでしょうな。そのステレオタイプな造形を笑い、それらのキャラの展開するドタバタを笑う、という正統派な手法といい、手堅いけど、裏返して言えばステレイタイプから想定される範囲内に収まっちゃってるな、という感じ。
…映画内で、ピザボーイは結局一度も時間内のピザ配達に成功していないのな。せっかくピザボーイが主役なんだからピザ配達にからめた物語にしたらどうだったろ。キングの『痩せゆく男』的な“呪いのピザ”のようなアイテムにして、それを時間内に配達して食わせなければエライことになりまっせ、みたいにするとか…あ、それじゃ元ネタの事件と全然関係なくなるわなー。
『ピザボーイ史上最凶のご注文』(2011/アメリカ)監督:ルーベン・フライシャー 出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ダニー・マクブライド、アジズ・アンサリ、ニック・スウォードソンマイケル・ペーニャ
http://www.pizza-boy.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD19672/index.html

※焦って奮闘して汗だらだらのジェシーはかわいかったです。

*1:及第点、という感じ

*2:というほどでもないか

*3:男だけで生殖活動して男の子だけを産み続け男だけでイチャイチャする世界

*4:インド系美人といえば最近活躍のフリーダ・ピントさんを思い出しますね