読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

午前十時の映画祭 『卒業』 (1967年)

映画

『卒業』をあらためてきちんと映画館で観ましたよ。一般的には「花嫁を教会からさらう映画」というラスト(のみ)が有名ですが、この映画を最初から最後まで観たらそんなロマンティックさと無縁の映画とわかりましょう。今作は40年以上前に作られた映画なのだけど、主人公ベン(ダスティン・ホフマン)を観て「彼が抱えているような“若者のぼんやりした不安”って今もかわらずあるよなぁ」と思ってた。この古びない普遍性こそ名作の証かな、とも思う。あと、今作からはどこか現実離れした寓話っぽさも感じました。その寓話っぽさも普遍性に通じるのかもな、とぼんやりと。
裕福な家に生まれ育ち、優秀な大学生であったベンは、大学を卒業し飛行機で実家への帰途にいる。その彼の陰鬱な表情のアップから始まる。サイモン&ガーファンクルの音楽が流れ、タイトルが出る。PVのようでもあり、映画あってこそ音楽も引きたてられているような感じで、映像/演技と音楽が互いを緊張関係で支え合ってる。大学は出たけど自分の将来が見えず、未来へのぼんやりした不安でいっぱい。でも自分は“ほかとは違っていたい”。自分にとって自分は“唯一で特別”なんだから、世の中においてもそうありたい、ひとかどの人物、社会に絶対必要不可欠な存在でありたい、世の中に生きた証を残したい、と思うのは近現代社会においてはごく自然な欲求ともいえましょう。あぁ、やっかいな自意識。でも“オレ、近々本気出すから、きっとオレには何かがあるはずだから。この退屈な現実に妥協はできない”と思ってても“その日”はなかなか来ないようで、若者ゆえ無尽蔵にありそうに思える時間を無駄遣いするベン。しかも都合よく、かなり年上ながらも美人なロビンソン夫人に誘惑されて、状況や欲望に流されるまま肉体関係を持つわけです。逢引するのにぎこちなかったり*1、「はじめて?」と聞かれて、あからさまに動揺しつつ強がったり、いったん経験するとずるずる惰性で関係を続けたり…マジで浅はかすぎるな、ベン。夫人に手玉に取られるはずだ。しかも夫人に、娘エレインには絶対会わないで、と言われて「OK!会わない!だから寝よう」と安易に誓うくせに、エレインに会った途端夫人を捨ててエレインに夢中になったり。このふわふわした移り気も若者ゆえ…か。
夫人との関係がエレインに露見する。ショックを受けて大学に戻ったエレインに会いに行くベンは、ストーキングのあげく「結婚しよう」攻撃。これ、今なら通報されるレベルじゃ*2?ロビンソン夫人との肉体的な経験はあったけど、精神的な愛を感じたのはエレインが初めて、といいますが、結局、彼は目の前にほいっと出てきたものに飛びついてるだけのように見える。ただ、エレインについては、はじめて能動的に動いて彼女を追うのだけど、そんな“能動的に行動する自分”に陶酔してるだけかもしれないよ?エレインをゲットすれば刹那的にはそれで彼の中の空白は埋まったみたいに思えるだろうけど、それに飽きたら次は…?その場のノリも生きるのには大事だったり、なにかの原動力になったりもするけど、人生はほとんどルーティンで、日常が延々と続いていく。“なにか特別なもの”を漠然と求めているベンは、そのままじゃうまく生きてけそうにないよな。ラスト、教会から逃げ出してバスに乗った二人の微妙な表情が巧みすぎる。一つの制度の殻を破るような特別なことをして、さぁ次は…?際限のない不安。そして、この二人の表情を観て、あぁ、エレインもどこかベンに似た不安を抱えているのかもしれないな、ふたりは似てるから惹かれあったんだな、と思った。自分は人とは違っていたい、という思い。でも“なにか特別”を諦めて日常を生きるのは、退屈な人生へ折り合いをつけることかな?…そんなことはないと思うけど、若者はそんなふうに感じる傾向があるやもしれませぬな。
ベンが感じている俗世との隔たりを演出するプールでの潜水場面や音をわざとミュートにする演出、夫人との逢瀬を重ねる場面の巧みな描写*3などもよかったです。スピンアウトでロビンソン夫人視点の映画をつくってみたらおもしろそう。その場合はなにからの卒業?形式的な結婚生活から卒業してロビンソン夫人、じゃなくファーストネームで呼ばれるまでの物語かな?あ、そういやベンは冒頭で大学から卒業し、劇中で童貞から卒業し、ラストでモラトリアムから卒業した…のかな?いや、あいつはまだまだ卒業できてなさそうだなー。結局、エレインとも結婚せずに別れたりしてそう、そんな先の見えない道もふみ出せば その一足が道となり、その一足が道となる迷わず行けよ 行けばわかるさ…って感じじゃないかな、って気がするけど(アレ?)
『卒業』 (1967年/アメリカ)監督:マイク・ニコルズ 出演:ダスティン・ホフマンキャサリン・ロス、マーレイ・ハミルトン、ウィリアム・ダニエルズ
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17980/index.html

※何者にもなれない自分を自覚したときから人生始まるんだ、って説もありますよな。
※結局、ベンがエレインを追って引っ越ししたりした費用もなにもかも親の金じゃね…というのも思った。

*1:緊張ゆえの不審な行動でホテルの従業員に顔を覚えられたのに、いつも同じホテル使っちゃう

*2:体育の授業中も彼女から離れないし

*3:夫人との場面と家でダラダラしている場面を次々つないでみせていくところなど