しあわせ気分『宇宙人ポール』

事前の評判がすごくよかった上に、町山さんが年間ベストに選出したこともあって期待値は相当高かったのですが、期待にたがわぬ映画でした。脚本が〜、とか演出が〜というような細かいことはおいといて、観ていてしあわせになれるのですよね。ストーリーやシーンの詳細を語らずとも、観て、体感せよ!という感じ。このしあわせな感じはどこから感じるんだろうな、と考えるに、まず、サイモン・ペッグ(グレアム役)とニック・フロスト(クライヴ役)の二人に由来していて。この二人がコミ・コンにワクワクしながら向かう冒頭の場面だけでもうしあわせ。…つまりしあわせを感じさせる源泉は二人のまっすぐで深い“愛”なのです(キッパリ)。コミックや映画、SF、映画などに対して抱いている二人の愛は、他人よりも自分のほうがこの愛は優れてるぜ、とか外の連中より知識は上だぜ、とかこれわかんないヤツダメだよな、みたいな“他と比較しての愛”じゃないのが気持ちよいのです。自分の中に絶対的にある愛の素直な表現だからよいのよな。これが周りをキョロキョロしながらの相対的な愛だと、ほんと冷める*1
全編そんな心地よい愛で満たされているし、コメディ部分はしっかりしているし、映画内のみんながそれぞれの役を過不足なく演じているし、キリスト教原理主義とかへのちょっとしたピリッとした風刺とかもいいし、ロードムーヴィーとしても抑揚がついてていいし*2、みんながなにかを乗り越えて自分のしあわせをつかむところもすばらしい。
フロストがペッグに異性の恋人ができそうなところで嫉妬する場面もすこしキモいながらもかわいかったな。あの二人は仲良しだけど、ちゃんと異性も入ってくる余地があるのもステキですな*3。あと、ポールとペッグがいち早く仲良くなっちゃって、フロストが出遅れてちょっと疎外感を感じているところも、あぁ、そういうのあるなぁ、と。こういう細かい感情の動きって、絶対そういう気持ちを経験したことのある人じゃないと書けないですよ。さすがペッグ&フロストの脚本ですね。二人は絶対そういう気持ちわかるヤツらだと思ってたよ…。
あと、決してかわいい造形じゃないポール(しかも声はセス・ローゲンだし)が、段々かわいくてしようがないように見えてくる。こういう気持ち悪いような造形のものですら、映画がすすむうちにかわいく見えてきて愛着がわく、っていうのはいい映画になる絶対必要条件ですよね。今作はこの冬一番のハートウォーミングな映画といえるのじゃないかな。今作は主にSF映画への愛についての映画だけど、その対象がなんであれ、なにものかへの素直にあふれる愛にみちた映画は人の心もあたたかくしてくれるものですな(実際自分はSF映画そんなしらないけどラストは本当に胸熱でした)。
宇宙人ポール (2010/イギリス)監督:グレッグ・モットーラ 出演:サイモン・ペッグニック・フロストジェイソン・ベイトマンクリステン・ウィグビル・ヘイダー
http://www.paulthemovie.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD15641/index.html

※きっと自分にはわからないような小ネタや先行作品へのオマージュもたくさんあるのだろうけど、大ネタの『未知との遭遇』『E.T.』『エイリアン』ぐらいは知っていれば大丈夫かな。
※あと、自分もポールに宇宙の秘密を見せてほしいです。マジで。

*1:ネットの世界でもたまにある“知識競争”とか“狭いサークル内で閉じて他を見下げてる感じ”とか“なんとなくクラスタ内の主だった意見に迎合してる様子”とかを見かけるとちょっと残念な気持ちになる

*2:夜に屋外で酒のんでハッパやって盛り上がるところとかのお約束もちゃんとある

*3:ショーン・オブ・ザ・デッド』もそうでしたね