美しいものだけ観ていたい『永遠の僕たち』

久しぶりに若さや美しさ、ナイーブさなどのキレイなものだけで満たされた映画を観たなぁ、と思いました。冬の設定で、画面から伝わる身を切るような痛いほどの寒さと、登場人物の瑞々しい青春の痛さがリンクするかのようです。監督の故郷ポートランドが舞台らしいのですが、アメリカの郊外で自然がたくさんあり、芝生があり、列車が走り…というロケーションも今作にぴったり。それらキレイなものだけを取捨選択した画をみて、どこか『かもめ食堂』と共通した感じを覚えました。『かもめ』は自分はそうまでキライではなくて、そりゃ現実感もないし、スローライフとかロハスとかそんな雰囲気映画か…とか思うところはあるけど、美しさだけじゃない、人生の苦さとか皮肉がちょっと入ってたと思う。そのあたりも含めて、なんか映画の雰囲気がちょっと似てるか…な?と。ただ、登場人物やストーリーは全然違いまして。末期の病人とはおもえないほどツヤツヤして血色のいいほっぺたが丸くてかわいくて輝くばかりの美しさのミア・ワシコウスカ演じるアナベルと、ヘンリー・ホッパー演じるイーノックが主人公です。名作『ハロルドとモード』オマージュといえる他人の葬式に勝手に出席する、というエピソードからはじまり、物語は進んでいきます(今作は大いに『ハロルドとモード』の影響がありますね。ミアちゃんが死ぬシーンを演じるところとかもかなり『ハロルド〜』ぽかった)。
主人公イーノックは叔母の論文の受賞パーティに出席するために両親とともに車ででかけて、酒酔い運転の車との事故に遭い両親を失い、自分は臨死体験、こん睡を経て生き返った。つまりすごい喪失感の中にいて、生きる気力がわかないよ、という状態*1。そんな彼は、叔母に「両親の死はあんたのせいだ」とあたったり、死が近いアナベルに「死なんて無だ」と叫んだり、そうかと思えば担当医のところに押しかけて「彼女を治せ!給料もらってんだろ!」と叫んだり、無茶苦茶にあたりちらす。イーノックの“とても傷ついたかわいそうな僕→特別だ”、という有り様にイライラしてしまった。そんな彼が“僕かわいそうモード”から反転して、反省し、関係各所と和解をはかるところが当然この映画での重要なポイントのはずなんですが、そこは、なんでそんな急にものわかりがよくなったのか、ちょっとついていけなかった。一応彼だけに見える幽霊で神風特攻隊員だったヒロシからの一喝があり、あらためて生の尊さに気付いた、という体なんだけどイーノックの気持ちの変化の描写がちょっと足りなかったような。
そのヒロシを演じた加瀬くんはよかったですよ。主人公二人が一夜を過ごした様子を聞き出そうとするところとかもかわいらしくて。彼もあの二人と一緒の画面にいても遜色ないほどキレイに撮られていました。あと、イーノックが死を軽んじる気持ちを更生し、現実に向き合わせるために最後の必殺アイテムとして取り出した、彼が特攻に赴く直前に書いた手紙の内容が実はもっとも自分の心に響いたな(死はたやすく、愛のほうが困難でつらい、というようなくだり…生き続け、その思いを伝えることの方がとても重いことなんだ、というのが)。そういう意味で彼の存在があったので、映画が軽くなりすぎずにすんだかも。
この映画には「死者を敬え」というテーマがあって、つまり“死を恐れたり死者を敬う心がなかった*2→生をも軽んじている状態”、から“死者を敬うことを学ぶ→生あることの貴重さに気付き感謝する”、というある種ベタなストーリー展開なのです。また、美しい主人公たちが場面が変わるたびに異なるステキな衣装をまとって現れてくるところも含め、画面を構成するものがキレイすぎるし、ところどころご都合だなーというところ(ハロウィンでの旧友との再会からの…ってところとか)もありましたが、最後の最後でわかりました。どうしてこんなに美しいものばかりで構成されてきたのかが。アナベルと二人で過ごした美しい一瞬一瞬がフラッシュバックするその光景を脳裏に浮かべながら、微笑むイーノック。このフラッシュバックする美しいシークエンスとそれを想起するイーノックを撮りたかったんだな。余命ものと思えぬほどミアちゃんが生の美しさにあふれてたりするけど、今作はそこのリアリティとかの問題じゃないのだな、と。うん。
むかしはこういう映画が好きだったけど、今はもっと生についてもがいたりするさまを描くようなものに惹かれるようになってます。今作はよくある物語のテーマや定型を超えるものじゃない。けどたまにこういうひたすら美しくて、サラサラと流れる透明な小川に映る夢のような映画を観るのもいいな、と思いましたよ。主人公の彼らの若さの輝く一瞬を切り取る映画。きっとふとした瞬間に絵のように彼らの美しい姿が自分の脳裏にも浮かびそうな気がします。
『永遠の僕たち』 (2011/アメリカ)監督:ガス・ヴァン・サント 出演:ヘンリー・ホッパー、ミア・ワシコウスカ加瀬亮ほか
http://www.eien-bokutachi.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD19597/index.html

※余命モノといえる『50/50』でヤな女を演じてたブライス・ダラス・ハワードが今作のプロデューサーというのも、へぇ、と思いました。
※加瀬くんの役は「ヒロシ」じゃなくて「フィロシ」ですけどね、映画内での発音は。
※ホッパーの息子も繊細でよかったです。
※きっと今作について語る文章には「繊細」「みずみずしい」とかが頻出ワードになりそうな気がする…。この映画はワカモノが観たらより響くのかもな、と思いました。

*1:それであんな寝グセ設定なのかも

*2:他人の葬式に勝手に出ちゃうほど…