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life goes on『パーフェクト・センス』

ユアン・マクレガーエヴァ・グリーン主演のSF映画です。
突如、人類から“感覚”が奪われていく。まず、これまでの悲しみの記憶が突如としてよみがえり、悲嘆の発作に襲われたのち、臭覚を失う。続いて食欲の暴発的発作に続く味覚の喪失、爆発的怒りの発作に続く聴覚の喪失、そしてとうとう…
あらすじは本当にシンプルです。ユアンは小じんまりとしながらもセンスがよく、こじゃれた客で賑わう街角のレストランの腕のいいシェフ。エヴァはそのレストランの裏口に面したアパートの住人で感染病学者。恋に深く溺れないようにしているプレイボーイのユアンと、恋人にフラれた痛手から立ち直り切れていないエヴァはタバコの貸し借りで交流を持つことになる。出会った2人の恋が急激に進展したり、お互いを求めあったり、傷つけあったり…2人の関係性が変わるターニングポイントは、すべて“感覚”が失われることがトリガーになって起こっています。劇中、怒りの暴発でふたりが疎遠になるのですが、その感情の暴発ののち涙ながらにユアンが電話でエヴァに「病気が思ってもないひどいことを言わせたんだ」と訴える。うん、そうだろうな、でも2人の愛情というものも“病気”ゆえに進展したり躓いたりでも不安だから互いを求めあったりしてる、ってことなのかな、という感じがどうしてもしてしまう。ラスト、人々が覚悟しながらも恐れいてた“視覚”を奪われる瞬間の前に訪れたのは、人を愛し、許すという慈愛の感情。その気持ちを愛する人と分かち合いたい、という“発作/衝動”でした。最後にあふれる感覚がそれ、ということは、人間の本質の根っこにあるのは“慈愛”ということを言いたいのかもしれないけれど、結局、どこまで“病気由来”の行動や感情なのか、というのがちょっとひっかかってしまいました。や、劇中の“病気”は、人間の本質を表出させて描きだすための物語上のツールなのかもしれないけれども。
むかしから人々がコミュニティを形成してきたのは、経済的理由や食糧的理由や精神的理由etc…総合して“一人では生きていけないから”ということだろうから、そういう意味では、人の根源的な存在のあり方を“病気*1”をダシにして(SFという体をとって)表現しているのやもしれぬですね。そして、コミュニティはさまざまな人や考え方の集団だから、感覚が奪われることで自棄になり刹那的に生きようとするもの(コミュニティを乱す者)と、あくまでも生ある限り生き続けねばならないと思うもの(コミュニティを維持しようとする者)に分かれるのだ、ということも描いてました。…監督は性善説に立っていると思う。日常を生きようと、続いていく生活を維持しようとする人の強さを信じたいと。…阪神淡路や東日本の大震災のときにも、強奪等の犯罪行為も一部あったけれど、残ったわずかの資源等を生かして助け合い、徐々に住むところや食糧確保と配分などおこなって、コミュニティが回復していく過程をみているので、映画内で感覚を失った後もなお日常を維持しようとする描写をみて、あぁ、そうかもなぁ、と腑に落ちる感じはありました。人は便利なモノに慣れすぎたという側面もあるけど、無ければないで、ある限りの環境に適応して、どうにかこうにか生ある限りは生きていく。…それでも、全人類が“視覚”を失ったらどうしようもなくなるだろうけど…
映画製作の予算がもっと大きいだろう『コンテイジョン』とは違って、小さい作品である今作では、時折挟まれる“世界同時多発”を強調するためのケニア、メキシコ、インド*2で撮影した映像がちょっと甘かったり、感覚と感情を結びつけている設定がぼんやり*3していたり…匂いが記憶に繋がっている、って言われればそれっぽいけど、それは味覚でも視覚でも同じこと言えるし…、全体にちょっと甘かった。ただ、人間の感情暴発描写のうち、食欲リミッターが外れた表現はおもしろかったので、もうこれだけでこの設定アリ、と言ってもいいような気がしました。食べ物はもちろん、調味料やソース、生魚、ひいては口紅とか“なんとか噛み砕いてのどに流し込めそうなもの”なら手当たり次第口に放り込むさまの派手さ。いわば『バイオハザード』におけるゾンビ状態みたい*4。まして、聴覚を失ったあたりからの街の荒廃っぷりは、『28日後…』とかの縮小版ぽかったし…と、このあたりの描写のおもしろさにフォーカスをあてるとなると、感染や発症の恐怖、それでもなお愛する人に愛を伝えたい…とか、ゾンビ映画になっちゃうな。でも監督は、あくまでゾンビ映画じゃなくて、最後に頬を伝う涙を感じながら抱きしめあう2人をラストに据えたヒューマン(?)な映画にしたいのかな?というわけで、こっちの要素を立てると、こっちのメッセージがぼやける…という状態でちょっと映画としてはぼやけてしまった*5ところはあるかもしれない。
でも、イギリスの遠浅の海岸、街中の雰囲気、終末感漂う画、ユアンのチャーミングさ、エヴァの肢体、貪り食う人々の画…などトータルで不思議に印象の残る画のある作品でしたよ。(ちょっと惜しい感じはするけど)。なんだかんだいって、ラストのエモーショナルなところも嫌いじゃないのです。
パーフェクト・センス』(2011/イギリス)監督:デイヴィッド・マッケンジー 出演:ユアン・マクレガーエヴァ・グリーン、ユエン・ブレンナー、ステファン・ディラーヌほか
http://gacchi.jp/movies/perfectsense/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20018/index.html

※きっと今作のラストの後に、“感覚”の回復なりの救いがある、という想定があるのかなぁ。さすがに全人類の視覚が失われたら、生きていけんです…
※『ゴーストライター』につづきユアンが自転車に乗る姿をみられる映画としてもよかったです。

*1:劇中ではウィルスの感染だかなんだか原因は結局曖昧なままだったし、あまねくすべての人が感染してるのかどうかもはっきりわからなかった。“健康な希望の地”があるのかどうかもよく分からない

*2:という西欧からみた外国ぽい国?中東やアジア、東欧はないというのがね。

*3:なんとなく雰囲気的な感じ

*4:知能とかはなく、根源的欲求である食欲だけが残った状態⇒生者の肉ほしい

*5:エヴァの学者設定もあまり生かされていないし