『ドラゴン・タトゥーの女』

昨年からずっと楽しみにしていました、D・フィンチャー監督の『ドラゴン・タトゥーの女』。ようやっと日本公開とのことでワクワクしながら足を運びました。原作未読・スウェーデン版オリジナルは未見(原作はこれから読みますが、とりあえずフィンチャー版映画だけ観ての感想を書きます)。
予告でも流れていた『移民の歌』が使われているOPの映像がすごい!との噂だったのでかなり期待していたのですが、それに十分応えている、というか更に上を行くようなものを見せられてゾクゾクした。自分はまったくもってクリエイティブな感じではない職種の者ですが、そんな自分でも脳の創作をつかさどる部分*1を刺激されるような感じだった。もし自分がクリエーターなら、こんなすごいのを自分も創りたい!と創作意欲を掻き立てられただろうな、と思ったのです。真似したくなるというか*2とにかく心を鷲掴みされました。
そんな黒のOPからスウェーデンの雪に覆われた白の世界へ反転し物語が始まります。ダニエル・クレイグ演じるジャーナリストのミカエルと特別優秀な調査員でありながらタトゥーとピアスだらけでゴスファッションを身にまとうルーニー・マーラ演じるリスベット。ふたりが由緒ある経済界の大物から、昔失踪した血縁の少女ハリエットを殺したのは誰か調べておくれ、との依頼を受けナゾを探求する…というのがストーリーライン。
ナゾの解明プロセス 
“調査”の醍醐味が味わえましたね。研究的なものにあっては一次資料にあたる、というのは大原則で、場合によってはゆかりの地にも実際に足を運んだりもする。なにか論証したい場合に、一見関係が薄そうな一次資料をアレコレ読み込んだり、実際に土地にいくと、自分が意図していたコトの補強材料が見つかったり、意図を超えたり、意図せざる何かが明らかになったりすることがある。今作でも当時の捜査資料やハリエットの残したモノ、膨大な図書室から資料を探し、丹念に手掛かりをさがし、引っかかった手掛かりをもとにさらに次のステップに進む…その先にひらめきが準備されている。先人がいくら探しても見つけられなかった手掛かりや関連性を、同じ資料を元にしながらも、情報探索能力や総合的分析力と明晰な頭脳のひらめきがあれば、ナゾを解明できるという過程がマック使いのふたりから流れるような手つき(+映像力)で見せられるというのがとても気持ちよかった。
リスベット
原作は未読ですがこのリスベットというキャラがすごく読者を惹きつけたことが大きいのだろうな、と思う。映画のリスベットはその外見の造形も文句なしにかっこいいし、セリフ回しも低めの声で必要最低限のコトバしか言わないところなども含め役作りはさすが、という感じでした。多くは語られなくとも、父殺しの過去、精神病院への入院歴や犯罪歴、後見人が必要な存在になってしまっている現在に至るまでにどんなことが彼女に起こったのか…なんとなく想像できるような*3。複雑な生い立ち、ルックス、天才的なハッカーとしての能力…。しかし、カリスマ的なオーラをまとったリスベットというキャラだけでは物語は成り立たないでしょう。必要不可欠なのは彼女の魅力をわかりやすく際立たせてくれるバディの存在。
ミカエル
リスベットはミカエルという“よき大人の男性”という媒介によって、いろいろな面を見せてくれる。彼女はその過去や生い立ちからある“理念”を持って行動しているのがわかってくる。女に暴力をふるう者は許さない。そしてそういう暴力をふるうのは“男性”だから、いきおい男性へは壁を高くして接しているようだし、新後見人のゲスきわまりない振る舞いにもいったんは従うのは、“男性”は所詮こういうコトをする輩が多いっていうリスベットの“諦念”すら感じるわけで*4。それだけにミカエルという存在はリスベットにとっても貴重な存在だと思う。暴力的でなく、穏やかで、対等であろうとし、理解しようとしてくれる“男性”。二人がファーストコンタクトから次第に距離を縮めていく様子がうまく描写されていたと思う。だから最後もミカエルがリスベットを捨てた風には見えなかったのです、自分はね。男女の恋愛じゃなくて、父親と同性であるのにミカエルは人として信頼できる、ということをリスベットは発見したかのように見えたので。信頼できる、自分の一部を預けられる、ということの貴重さ。
印象的な画
なんというても、すべてがスタイリッシュでかっこよい。そこでちょっとドジっ子な要素はミカエル担当という感じ。ダニエル・クレイグがよかったよ。彼が地下室で締め上げられるシーンがとにかく印象的!エンヤを流しつつのあのシーン。ビニール袋をかぶらせられてスーハーするところのアップ!いやはやたまらなかったです、ここのシークエンス。全体とおして画のスタイリッシュさと無駄のない編集っぷりにヤラれた感じ。観終えて本当にすごい充足感。あー映画観た、堪能した!という感じでね。今年の新作で来たコレ!という感じをやっと得て、2012年の映画ライフの幕が開いたかのようなすがすがしい気持ちで映画館を後にできました。
ドラゴン・タトゥーの女(2011/アメリカ)監督:デヴィッド・フィンチャー 出演:ダニエル・クレイグルーニー・マーラクリストファー・プラマースティーヴン・バーコフステラン・スカルスガルドロビン・ライト
http://www.dragontattoo.jp/site/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18849/index.html

超かっこよいOP

*1:そんなのがあるかどうか知りませんが

*2:自分がアメリカのコメディアンならあのOPですごい高度なパロディを創りたい!と思うだろうなーとか変な妄想をしてしまうくらい

*3:想像とは異なってるかもしれないけど

*4:けど後見人への報復の恐ろしさを見て、もうちょっと早めにどうにかしといたら、とも思ったけど