『メランコリア』

ラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』を観てきましたよ。前作『アンチクライスト』の衝撃も冷めやらぬトリアーの新作が全国シネコンでかかるということでTOHOシネマズで鑑賞しました。事前情報はトリアー監督が今作にかかるカンヌでの記者会見でやらかしてしまった、というゴシップ情報と、一度予告を見た程度のもの。予告の惑星衝突のビジュアルをみて、「?」が頭に浮かびつつも、なんだかすごそうだな、と期待しておりました。
冒頭、iPhoneで写真をぺらぺらめくってみるように現れるスーパースローの映像。なんかティルト撮影ぽい質感のくっきりしながらも非現実な感じを帯びている不思議な明晰さが美しかったですな。『アンチクライスト』でもあった手法をさらにブラッシュアップして使ってるような感じ。ここで後の物語を暗示するようなイメージ画像集でしたね。一番うぉ、と思ったのは、どこかあらぬ方をみながら微笑むキルステンの両手指先からまるで青いプラズマみたいのが出てる画像で。そう、今作のキルスティンはコチラとアチラの間の両方の足をかけてる人でしたね。さ、キルステインが足をかけてるコチラとアチラってどういうことやねん…というと。
第一部のキルスティン演じるジャスティンのパート。ウエディングドレスを身にまとい、花婿とともに幸せそうなジャスティン。裕福な姉夫婦の屋敷で姉らが準備してくれた結婚パーティに向かうも、ジャスティンは気乗りのしない様子を見せ始め、段々と精神的にバランスを欠いていく。それは雪崩をうつようにあっという間に悪化していく。結婚式といえば『レイチェルの結婚』とか邦画で『おとうと』ってあったけど、とにかく危うい人物が交ってたりするもので。それは肉親や親類であるだけに拒めないのですよな。あの人あぶないかも、お酒でリミッター外れるかも、マイク握って離さないかも、スピーチ終わらないかもetc…etc。しかし今作では主役の花嫁がその危険人物だったのです!途中抜けて義理の兄自慢のゴルフ場の18番ホールのグリーンにおしっこしにいったり、帰ってきたと思ったら、フロに入りにいったり、あきらかにおかしくなってく。このおかしくなり方が絶妙で、さすがのトリアー監督やの、と思いました。鬱の在り様をわかってるな、と。全身の倦怠感で立ち上がることすらできなくなるとか、聞いたことあるもの。リアリティがあったです。
さて、姉を演じるシャルロット・ゲンズブール。『アンチクライスト』ではこの方がエラいことになってたのですが、今作ではふつうの人でした。常識人です。『アンチ〜』のシャルロットの役回りを今作ではキルスティンが演じてるわけですな。第二部のシャルロット演じるクレアのパートではそれまで出てこなかった惑星衝突のモチーフが段々全面に出てくる。惑星メランコリアと地球の死のダンス。不安を募らせる姉に比して、結婚式とはうってかわって泰然自若としはじめる妹。それは惑星衝突という運命を受け入れてるから?途中で超能力的なものを発揮する(結婚式での瓶の中の豆の数当てゲームをズバリ的中させるとか)、メランコリアに呼ばれたかのように夜歩くジャスティン。着いて行った姉がみたのはメランコリアの青い光を全裸で浴びる妹の姿だったのです!なんだそれ、という感じもあるけれど、メランコリーの気質を持つ彼女は惑星メランコリアと感応しておるのでしょうか…つまりそれが“アチラ”側。(※メランコリアといえばデューラーの有名な絵を思い出しますね、これまた憂鬱質を女性に具現化されてますな。示唆に富んだデューラーの絵:メランコリアについての解説をぜひどうぞ。
キーファー演じる義理の兄は落ち着いた風を装っていたのに、いざとなると家族を残して自分ひとり勝手に死んでしまう。怖気づいて、だろうね。しかし惑星メランコリアと一体化を図れるのを待っていたかのように妹はゆったりと構え、姉はおびえつづけ、それでもひとしなみに最後の時が訪れる。このビジュアルはひねりは無く直球!でもこれは一見の価値ありと思います。どこか美しくすらある。すこしでも興味のある人はぜひぜひ大スクリーンで味わってください。
観終えて、こんな最後を迎えるとして自分ならどうするだろう、とちょっと考えたりもして、これは人と話したくなる映画でもあるなーと思いました。『アンチクライスト』よりある意味親しみやすいのでは(て変な言い方ですかね)。観終えて「つかれたぁ」という声が近くの席から聞こえてきたりしたけれど、自分は、これは映画館で観て本当よかったよぉ、と感じながら劇場を後にしたのでした。
『メランコリア』(2011/デンマークスウェーデン ほか)監督:ラース・フォン・トリアー 出演:キルスティン・ダンストシャルロット・ゲンズブールキーファー・サザーランドシャーロット・ランプリングウド・キア
http://melancholia.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18735/index.html