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人生のプロなんていない『人生はビギナーズ』

ユアン・マクレガーメラニー・ロランクリストファー・プラマー出演の『人生はビギナーズ』を観ましたよ。
作品のテーマやストーリーの描かれ方がうまいかどうか、というよりも、雰囲気を味わうというか、相変わらず美しいメラニー・ロランの美しさ*1にため息ついて、ユアンがうじうじキャラを演じるうじうじ演技をあたたかく見守って、クリストファー・プラマーのステキなおじいさんっぷりを堪能する映画でした。もう老い先短いぞ、という段階になってゲイだとカミングアウトする父と、戸惑いつつもそれを受け入れ、余命宣告された父を見送る息子の物語。一番印象的だったのは、クリストファー・プラマー演じるハルが恋人募集をするのに、ボタンをあけて胸元まではだけたニコリ顔で映った写真。じいさん、本気だな!って思いましたよ。
老いたプラマー父さんは恋人募集に応じてつきあいはじめた若い恋人とキスしたり、ゲイの仲間とわいわいしたり…カミングアウトすることで、それまで抑圧してきた自分を解放しようと行動します。悔いの無いように生きる、ということは、自分を解放するとともに、周囲も解放するようです。悔いを残した様子で父さんが亡くなってしまったとしたらユアン演じる主人公オリヴァーはもっと大きな喪失感にとらわれたかもしれない。だから、プラマー父さんはいい生きざま死にざまを息子に見せたんじゃないかな。それゆえ、うじうじオリヴァーも、最後の最後で思うことを実行することができたのかな。それにしてもオリヴァーはうじうじしすぎ、というか最初から諦めているというか、全体に気力が見えなさすぎなのだけど・・・
オリヴァーとメラニー・ロラン演じるアナとの最初の接触がアイコンタクト+筆談だった*2のは、オリヴァーの閉じた心を開かせるために必要な要素だったろうな。コトバで語ることのできない喪失感や徒労感で自分のなかに閉じこもって、いろいろと面倒になってしまっているかのようなオリヴァー。父の飼っていたかわいいかわいい(本当にかわいい!)犬となら会話ができるのに、人間とはダメなのな。コトバでなくとも目で語りあえる相手と出会えてやっとユアンはある種面倒だけど、得難い充足感も得られる「恋愛的なこと」に足を踏み入れるのだけど、どこかで自分をさらけ出したりしきれないオリヴァーとアナは、面倒は隠して心地よく付き合うところに留めておこうか、踏み込もうか、というところで迷いがあり、やっぱりオリヴァーがどこかうじうじしててダメになっちゃう。でもラストは彼が一歩踏み出す勇気を出してハッピーエンドを迎えるのだけどね。ただ、人生にはいろいろの困難や幸福があるだろうし、それらに対処する自分たちは、いつだって初心者。人生のプロなんておりませぬ。そういう意味ではこれも人生のある瞬間でむかえた“とりあえずの”ハッピーエンドなのでしょう。
あと、プラマー父さんもそうだけど、母さんの存在もオリヴァーにとっては大きかったんじゃないかな。ちょっとエキセントリックで、プラマー父さんがゲイとわかったうえで夫婦になった母さん。そんな夫婦のありようもあるのな。どこまで受け入れるか、どこまでわかりあえるか。ちがうと認めたうえで受け入れることを面倒とおもわないこと。この母さんと父さん夫婦について描いてほしかったな、これこそがなかなかいい題材だと思うのだけど。・・・ちょっと雰囲気映画なところはあるけれど、主要3人の雰囲気はよかったし、あと犬!犬がとにかくかわいかったですよ。あんなふうに心通わせることができる相手がいたらいいよなぁ(種族を超える友人よな)。そしてプラマーおじいちゃん、アカデミー助演男優賞おめでとう!
人生はビギナーズ(2010/アメリカ)監督:マイク・ミルズ 出演:ユアン・マクレガーメラニー・ロランクリストファー・プラマー、ゴラン・ヴィシュニック
http://www.jinsei-beginners.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD19980/index.html

*1:重複表現もいとわぬ美しさ

*2:アナが気管を痛めて話せなかったため