『おとなのけんか』

これはきっと幅広い世代の人が観ても、かなりの人がおもしろいと思う映画じゃないかな。心底笑った。登場人物がとる危うい行動やセリフに思わず「ひゃぁ」と声にならない声が出るほどに集中して観ていると、そのあとにバーストする笑いが控えているという。
ワンシチュエーションの会話劇で、いかにも元が舞台劇だな!という感じなんだけれども、とにかく4人の演技合戦がすばらしいのです。ジョディ・フォスター&J・C・ライリー、ケイト・ウィンスレットクリストフ・ヴァルツの二組の夫婦。出だしではともに“都会的なリベラルな夫婦”を装っていたのに、フトした会話のワンフレーズがひっかかり、段々雲行きが怪しくなる。観てる側も、夫婦の当事者も、二組とも本音を装ってる危うさがあるのをわかっている。だからたとえばJ・C・ライリーが「ハムスターを捨てた」と言った瞬間のケイトの反応で、「あ、これフラグが立ったよ」と思うと、この伏線がちゃんとかなり後々までも生きてくる。舞台劇もそれはそれはうまく出来ているだろうな、と思います。じゃ、舞台だけでいいじゃんと言いたくなりそうなものなのですが…今作はこの4人のキャスティングが素晴らしいので、それだけでも映画化の意味はあるし、撮影の仕方も大変凝っていてその工夫だけでも十分楽しめる。狭い部屋に配置されたモノ、窓、鏡、画集に花瓶を生かしているのですよね。意味があってそこにそのモノがあり、意味があってカメラのカットが切り替わる、という感じ。
こどものけんかを巡る“議論”のはずが、段々“口論”になっていくさま。しまいには、男性と女性の対立のようになっていく始末。青筋たてて、必死で理性的であろうと歯を食いしばって絞り出すように言葉を発するジョディ・フォスターにも笑わされたし、ケイト・ウィンスレットの素晴らしいリバースっぷりは映画史上に残るのでは…!と思うほど。J・C・ライリーのいかにもありがちなその場その場で取り繕って、場を収束しようとする(けど失敗する)ダンナっぷり。そしてこれまた素晴らしすぎるクリストフ・ヴァルツ演じる、斜に構えてインテリぽくふるまうも厚かましく他人の家のお菓子を貪り食い、ブヒ笑いをする弁護士の夫の態度。最高。余裕かましていけすかないヴァルツ夫が、スマートフォンを水チャポされた瞬間のへなへなっぷりも最高。
タイトルロールとエンドロールも秀逸で、センスのかたまりのような小品。本当にオススメですよ。
おとなのけんか(フランス=ドイツ=ポーランド=スペイン)監督:ロマン・ポランスキー 出演:ジョディ・フォスターケイト・ウィンスレットクリストフ・ヴァルツジョン・C・ライリー
http://www.otonanokenka.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20577/index.html

※キャストの衣装もナイスセレクトでした。
※リアルタイムで進む点も舞台劇っぽいのですが、カットが切り替わっても前のテンションの延長でちゃんとつながった演技がなされていて*1、この流れのスムーズさもとても気持ちよかったです。

*1:あたりまえっちゃあたりまえだけど