読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

大阪アジアン映画祭 ジョニー・トー最新作!『高海抜の恋』を観たよ

待ちに待った大阪アジアン映画祭2012。今年は4本観ましたがどれも素晴らしい作品で大満足でした。どれから書こうかな、と思ったのですがやはりジョニー・トー最新作で!トーさんといえば『エグザイル』な路線もありますが、今年は男女の恋愛をベースにした映画で、これが映画愛にあふれる本当に素晴らしい作品でした。まさかここまで泣かされるとは思いもよらなかった、という感じ。ルイス・クーとサミー・チェンというトー作品ではお馴染みのキャストが主役を演じますよ。
ルイス・クー演じる映画スターのマイケルは共演した女優に映画賞受賞の晴れやかな舞台上でプロポーズする。ドラマティックなプロポーズ劇と美男美女カップルに世間は沸くが、なんと『卒業』よろしく彼女の故郷にいたかつての恋人*1が彼女をさらいにやってきて、彼女もその男を選び芸能界を引退してしまうのであった。傷心のマイケルは酒浸りの日々。追うマスコミから逃れるためフラフラと駅につけてあったトラックの荷台に乗ったところ、樹海で行方不明になった夫の帰りを待ち続けるサウ(サミー・チェン)が営むシャングリラの宿泊施設にたどり着くのだが…
以下内容に触れつつ感想を記してみます(これから観たいと思っている方はネタばれ含みますのでご注意を)。
どこかおとぎ話のようなお話なんだけど遠い夢物語じゃなくて、観ている者の胸に響く作品になってます。個々のエピソードも巧みで笑わせられたり、泣かされたりするのですが、それらが響きあい、ひとつの物語を創っていきます。やたら壊れるボロボロの車やピアノは、最初は単なるボロい道具でしかなかったものが、物語が進みエピソードが重なってストーリーが厚みを増していくと、車やドレミの鳴らないピアノを観るだけで泣けてくる*2状態になる。物語冒頭からサミー演じるサウの夫の不在、というのが明るい彼女にどこか影を落としているのは分かるのですが、夫の不在のディテールについてはなかなか語られない。サウがボロボロの車などを如何に大事にし、それらに執着しているかについて描写を丁寧に積み重ねていった上で、サウと夫ティエンとのなれ初めのエピソードや夫の行方不明の経緯が描かれるので、ベタながらものすごく泣かされます(ティエンがいいヤツすぎ)。
サウとの交流を通じて痛手から立ち直るマイケルは、やがて自然にサウに惹かれていく。彼女の過去を知ってなお彼女の過去ごと受け入れたいと思い、彼女も彼に対して惹かれはじめ…ってココでハッピーエンドで終わっても不思議じゃないよね。でもここからの展開が素晴らしいのです。そもそも実はサウはマイケルのファンクラブ会員番号033番という古参ファンだった*3のですが、マイケルの人間性にも惹かれはじめ、勇気を出してマイケルの元へ行こうとする。しかし彼のいる華やかな世界の一端に触れ、住む世界のギャップをふと感じたタイミングで、ティエンの遺体発見の報を受け、再び彼女は“夫の不在”に囚われてしまう。自分の写真を握りしめて何年も樹海の中で希望を捨てずに耐え続けた夫のことを思うと前に踏み出せなくなってしまい、心を閉ざしてしまう。
その彼女を癒すのが、映画なんですよね。フィクションのもつ力、映画のマジックを感じさせる入れ子構造にすっかり参ってしまいました。マイケルは心を閉ざしたサウを無理に追いかけず、自分たちをモデルにした映画『高海抜の恋』を製作監督する*4。現実のサウ、ティエン、マイケルをベースにしたストーリーを描きながらも、マイケルは映画だからできることをするのです。彼が監督した『高海抜の恋』には現実とは違う結末を用意していた:映画の中ではサウの夫は死なないで、生きて彼女の元に還る。現実には成し遂げられなかったことを映画という創作において描くことで、彼女は救われる。そして、あんなに彼女を愛していたティエンが死してなお彼女を縛り付けるはずがない、ということをやっと彼女は実感して自由になれるのですよね。過去は無くならないし忘れられやしないけれど、生きている者は悲しみを抱えながらも過去に囚われず前に進まなきゃならない。それに気づかかせる契機をあたえたマイケルはフラれた腹いせでヤケになってた頃から成長したということよな。だからこそかつて自分を振った彼女のもとに行き、ふたりの男性に挟まれて苦渋の決断をした彼女だからこそ、サウの気持ちも理解できよう、と映画出演を依頼できるわけだ。そんなマイケルの大きなやさしい気持ちを映画から受け取ったから、サウもすこし前を向けるようになった。劇的なラブシーンはないけれど、しずかに優しい視線を交わす2人の姿にまた涙ですよ(いままでのところ今年一番泣いた映画になってしまった)。
巧みな脚本に主役の2人及び脇の役者陣すべての相乗効果がこの優しさにつながっていると思う。切に切に日本公開を望みます!
『高海抜の恋』(2012/香港) 監督:ジョニー・トー 出演:ルイス・クー、サミー・チェン、カオ・ユアンユアン、ホァン・イー、ウィルフレッド・ラウ、ワン・バオチアン

*1:田舎な感じの絶妙な不細工加減

*2:思い出している今もすでにヤバい

*3:というのも途中でわかるのですがここも楽しくてステキなシーンですよ

*4:ここでなぜ今作の原題が『高海抜之戀II』なのかも分かるという仕掛け!