『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』

前評判の高かった今作をたのしみにしていました。観て、かっちりと出来上がっており、すでにクラシックの風格を持っているのだけど、きちんと現代のレベルの高い製作陣による成果物になっているな、と思いました。
観ている間はじつはもやもやと思うところもありました。エマ・ストーン演じるスキーターは50年前のアメリカ南部の状況においては、リベラルだし、女性の自立についても自覚的であり、その当時の常識に左右されるところない人間像として描かれているんだけれども、そんな彼女も結局は実家に住まいだし*1、その実家には黒人のメイドたちがおり…という差別的社会構造の枠組み中に居続けているんだよな…。しかし最後にいたって、NYへ行くチャンスを得た彼女が「自分の本のせいで、黒人メイドたちが苦境に置かれるかもしれないのに自分がこの土地を出て行くわけにはいかない」と危惧するところで、彼女は彼女なりにいろいろの矛盾にひきさかれ、困難な現実を認識し、わが問題として引き受ける覚悟ができてきたのだな、と感じました。そんな彼女をNYへ送り出すメイドたちの応援があって、彼女は実家を出て、自立して自分の文章や仕事に伴う責任を引き受けていく決意をするわけです。
人種を理由に差別するなんておかしい、という人道的に疑義の余地ないほどの“正論”をもってしたとしても、社会構造の矛盾のような複雑な問題は単純に解決されないのですよな。正論や二元論はとても“わかりやすい”のでたいそう人を魅了するけれど、危険。何かを“絶対に”正しい、と思いこむようなことはある種の“偏見”かもしれない。ブライス・ダラス・ハワード演じるヒリーは、それはそれは偏見に満ちた差別主義者だよ。だけど、彼女は既存の黒人差別の社会構造を守ることこそ正しい、と純粋に信じ込んでいるだけなのよな。それにたとえば日本の戦時中に熱心な愛国主義者と同じことで。日本というお国が決めた方針は正しいんだから、と盲信するのと同じようなものじゃない?でもそんなふうに夫を立派に戦地に送り出して戦死することこそ名誉、とか軍国主義万歳とかだった人が、戦後、民主主義万歳!に右から左へ急激に針が振れることが多々あっただろうことからも、やっぱり極端、というのは怖い。白か黒、正義か悪魔、って、そんな二元論じゃこの世界は割り切れない。
ブライス・ダラス・ハワード演じるヒリーのような極端なキャラは当然二元論に囚われてしまったがゆえのキャラなんだけど、今作における黒人メイドたちにしても搾取する側、される側という二元論に囚われた表現になってしまってるのかもしれない。黒人メイドたちのなかにもはぐれ者もいたろうに、それらが描かれなかったのがちょっとキレイごとぽく見えたかな。でも映画としてのまとまりをもたせるにはこういうすっきりした構成にする必要はあったかな、このほうが登場する魅力的な黒人メイドたちに感情移入できるから。そうして、それだけにラストが生きてくるからね。(当然、黒人差別の過酷な歴史は『マンディンゴ』のように厳然と存在していたわけですしね)
今作は黒人メイドのエイビリーンが、最後にメイドをやめ、自分のいいたかったことを言い、面倒をみてきた愛しいこどもに別れを告げ、文章を書くことを決意して進むところで幕を閉じる。このエンディングがとにかくすばらしいと思いました。きっとこれから彼女の中からわきあふれるように“文学”がうまれるんだ、という胸が震えるような感動。彼女がずっと歩いていき小さくなっていく背中から感じる強い意志に満ちた力強さは言葉がなくとも十分なメッセージを発していますよ。うん、とても素晴らしかった。
あとジェシカ・チャステインも『ツリー・オブ・ライフ』とはうってかわった天然な女性をいきいきと演じていてたいへんステキでした。胸の谷間も魅力的でしたね。途中で明らかになる彼女のバックグラウンドを知って、彼女の魅力にさらにひきこまれました。なんとかわいらしい女性なのだ…。しかしなんといっても出色はブライス・ダラス・ハワードじゃないかな。やー、本当によかった。エマ・ストーンもかわいらしいしよかったけど、あるいみ主役はヒリー夫人だったんじゃないかな。彼女の抱える嫉妬や高慢、ズタズタにされたプライドやそれでも守ろうとするもの、そして最後に憐れまれて思わず嗚咽する彼女…ヒリーというキャラクターが本当に魅力的でした。こういうキャラがいてこそ、ヒロイン側が生き生きするのよな。
『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』(2011/アメリカ)監督:テイト・テイラー 出演:エマ・ストーンヴィオラ・デイヴィスオクタヴィア・スペンサージェシカ・チャステインブライス・ダラス・ハワードシシー・スペイセク
http://disney-studio.jp/movies/help/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20151/index.html

*1:NYの女性編集者には「とりあえずまずは一人暮らししなさい」と言われてもいましたね