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『アーティスト』

これまた前評判の高かった『アーティスト』を観ました。ここのところアカデミー賞絡みの作品が次々と上映されているので、前評判が高く、それだけに期待値のあがってしまっている状態で観る作品が続いています。そして、これは正しくアカデミー賞作品賞らしい作品でした。昨年度のアカデミー賞作品賞受賞の『英国王のスピーチ』と同じように正しく良い作品です。
今作のようにサイレンス映画で映画的表現の可能性をはたと気づかせる、というのは現代において貴重な気がする。説明セリフの嵐+ぬいぐるみ演技*1に慣れた人でもサイレントなのに絶対にわかる演技や演出、そこに映画や役者の可能性を見いだせるでしょう。それは(自分は観てなかったけど)朝ドラの『カーネーション』が説明を省いても、や、省くからこそ人々の想像力をかきたてる効果がある、と示したのと同じような効果があるような気がする。つまり、物語に正解はない、ということやある程度、観た者それぞれに解釈の幅を持たせるという余白があるほうが魅力的である、ということですよな。同じ人でも観る時の状態や年齢、人生経験によっては解釈も変わるようなものほどいいと思う。表情だけで観る者の想像をかきたてるような、ね。
そういう意味では『アーティスト』は案外(自分にとっては)解釈の幅はあまりなくて、観たままそのまま素直な表現が多かったな、と(それはほぼ完全サイレントの映画ゆえの宿命でしょうか)。それが、ちょっと「あぁ、期待値あげすぎちゃってたかな」という感じが鑑賞後生じてしまった所以かと思いました。あとは犬ちゃん(アギー)が素晴らしかったのですが、素晴らしすぎるがゆえに人間が求めているとおりに演技しすぎてるように見えてしまって、犬の自然らしさの残っているような感じだった『人生はビギナーズ』の犬ちゃんの方に自分としては惹かれたのでした。でも、アギーは映画内でも役者犬でしたから、そういう意味では自然なのかもしれませぬが。
ペピーに惹かれて奥さんにつれなくなってしまうあたりは、主人公ジョージってどうよ?と思ったり、というつっこみどころはありましたが、たとえば、トーキーに移行してしまいトボトボと映画会社を後にしようとするジョージに、すでにトーキー映画の新星として華々しく活躍しはじめていたペピーが声をかける場面で、行き交う人の中でも二人は変わらない、ということを示していて、二人がいかに心の奥底で通じ合っていたのかを伏線としてわかりやすく丁寧に描いてると思いました。
『サンセット大通り』を思い出しましたが、あのブラックさや爛れた感じがなんとも好きです。一方でこうもベタでハッピーエンディングな物語も必要だと思う。でも幸せなラストを観ながらも「でもペピーだって飽きられて、彼女自身が古いスターの後に座ったように、新人に後を譲るべき、なんて時が来るんじゃ」と危惧してしまう自分はつくづく心配性なのでしょうかね。
サイレント映画にあって音が鳴る瞬間はとても効果的でしたよ(あのジョージの悪夢のシーン!)。そしてミュージカル映画をちょっと観たくもなりました。劇場内が『愛の涙』*2くらいの客の入りでかなりの臨場感が増したことも記しておきます。よりによって一番大きいスクリーンだったものな…
『アーティスト』(2011/フランス)監督:ミシェル・アザナヴィシウス 出演:ジャン・デュジャルダンベレニス・ベジョジョン・グッドマンジェームズ・クロムウェル
http://artist.gaga.ne.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20645/index.html

※主演のジャン・デュジャルダンの表情は本当にすばらしかったです

サンセット大通り スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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*1:かなしいときは哀しそうにしょげる、というようなぬいぐるみみたいなパターン演技

*2:映画内映画でジョージがサイレントの起死回生をはかって撮ったもののさんざんな興業だったもの