『ルート・アイリッシュ』

ケン・ローチ監督の『ルート・アイリッシュ』を観ましたよ。ケン・ローチ作品らしく社会派でありつつ、すこしミステリの要素もある作品でした。そしてやっぱりイギリス的空気が横溢してた。彼の作品はどうしてここまで“いかにもイギリスっぽい”すこしざらついた、灰色がかったさみしいような、なんだか肌寒そうな空気をはらんでいるんだろう、と思う。
世界一危険な道と言われるルート・アイリッシュ*1での襲撃により親友であるフランキーを殺された男ファーガスが主人公。その襲撃の前からフランキーはシグナルを発していた−どうもヤバイことに巻き込まれていたらしい…紛争地域での民間の戦争請負会社で働いていたフランキーは仲間が罪のない民間人を誤って射殺した事件を告発しようとしていた…?フランキーがファーガスに託した携帯電話に保存された動画から、ファーガスは真実を探ろうとするのだが…
衝撃的な現実を描いており、ずぅんと重い映画。しかも主人公のファーガスは真実に迫り、人道的であろうとするかのように見えていたのに、“復讐”に囚われて、視野がどんどん狭くなっていくところが救いがない感じです。真実を追うのでなく、(意図はしていなかったのに)復讐心を満たすために、多様な視点を持つことをやめ、自分が思う真実像をつくりあげて信じ込んでいってしまう。そのために取る手段の非人道的なこと、拷問は本当にダメだ。「血が流れなければOKだろ?」といって、濡れタオルで顔を覆い、水をシャバシャバとかける。その拷問から逃れたくて、男は“ファーガスが望む、聞きたがっている真実”を語り、結局ファーガスは復讐心を満たすために力をふるってしまう。
でも、事実はやっぱりそんなに単純なハズもなく。金儲けしようとする連中や“直接手を下さない”つまり実行部隊じゃない上部層こそが元凶なのですよな。それはあらゆる事象について言えるだろう、ある意味ありふれた真実。結局ファーガスはなんのために行動したんだろ?フランキーが望んでいたことを成し遂げたわけでないのは明らかで…しかも、結局ファーガスはイギリス軍の軍人として戦争に従事したときに自分の中に根付いてしまっていた、“相手の立場に寄り添って考える手間をかけずに、力により暴力的に解決しようとしてしまう”という運命から逃れられないことを深く深く自覚してしまう。だからあのラストなんだろうな。重い。
あと今作は男の友情の深さが深すぎる映画でした。男が親友のためにならここまでやる、っていう、ある意味ホモ・ソーシャル的な映画かもしれないね。フランキーやファーガスを女性に置き換えてみるって想像もできないな、うん、あくまで男映画ですよ。フランキーのヨメも添え物のようでした。劇中でファーガスに対してフランキーのヨメが「ちょっと嫉妬してたのよ!いつもふたりでいて!」というセリフを言うところもあって…監督もわかっててやってるんだろうな、とは思いましたケド。
戦争アウトソーシングの現実と、紛争地域での非人道的行動の一端に触れられる点でも観てよかったと思いましたよ。実際にイラク戦争に従事して失明してしまった元軍人の人の演技もまさに真にリアルでした。硬質な映画です。あ、どうでもいいコトですが、ファーガスがクラブに行くシーンでプライマル・スクリームの『ROCKS』がかかっていた点でもイギリスっぽさを感じたのでした。それにしても『ROCKS』はベタすぎな気もしますがね。
『ルート・アイリッシュ(2010/イギリス、フランス、ベルギー、イタリア、スペイン)監督:ケン・ローチ 出演:マーク・ウォーマック、アンドレア・ロウ、ジョン・ビショップ
http://route-irish.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD21036/index.html

※あとなんでイギリス人はそんなにもゴルフ好きなんだ、ということも思ったな。やたらゴルフしにいくのな。

*1:バグダッド空港と市内の米軍管理地域グリーンゾーンを結ぶ