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鍵掛け屋、仕立屋、兵隊、スパイ『裏切りのサーカス』

書店でみかけた原作小説『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の分厚さに、これをどうやって2時間ほどの映画にするのだろう、と思っていましたが、原作のエッセンスをうまく映画にしているんだろうなぁ(原作未読)と感じました。なにより70年代イギリスの空気をすばらしいクオリティで再現していて、その世界にとっぷり浸れる、という点で同監督の『ぼくのエリ、200歳の少女』と似た肌触りを感じたのでした。『ぼくのエリ』では80年代初頭のストックホルムの時代や空気感やひんやりとした肌寒さの描写にぞくぞくしたのでした。ものすごく完成されていて、ある意味箱庭のように完璧な静的世界なのです。
英国諜報部員たち(そう、なぜか「イギリス」ではなく「英国」と書きたくなる)のたたずまい、スーツ、メガネ、部屋の装飾(とくに壁紙!)、スパイグッズ(とりわけ電文?の機械)、イチイチが隙がなく、つくりあげた映画内世界が完結しているのですよね。つっこみどころがない、というか、このつくりあげてる感がトーマス・アルフレッドソン監督の力量だな、と思いました。
そしてこのつくりあげた映画内世界を充実させるための俳優の演技ももちろんだけれども、とりわけ、音がいいなぁ、と感じました。人によって異なる足音、人の気配、人の死体を予感させるハエの飛ぶ音、電文のタイピングの音、etc。カメラで切り取る構図や遠景、クローズアップもいいし、サーカス内部で文書を移動させるエレベーターを追うカメラも印象的。差し挟まれる死体の容赦ない残酷描写すら、静かな画のようです。
正直これらの雰囲気に浸れるだけでかなり満足でしたね。折々で挟まれる“古き良き時代のサーカス”のパーティーシーンの祝祭感もより回顧モードで、どこかあまやかな気持ちが湧いてくる。…けれど映画が進むにつれ、祝祭だったはずのパーティーにすでに不穏な予兆がいくつも含まれていたことが明らかになってくる、というのうまいなぁ、と思いました。あと、ソ連国歌を歌い始めて、会場が一気にわいて、でもスマイリーが窓の外に目を遣ると…というところとかすごくいいんですよね、なんだろ。うまく言えないけど、こういうシークエンスがたまらない。
お話は結構複雑だし、映画は思い切って原作のアレコレを大胆に切ったりしているんだろうな、と感じたけれど、映画はこれで十分成功しているな、と思った。本当にセンスのかたまりのような映画!それだけに邦題はやっぱりちょっとアレだな、と思いました。原作そのままに『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』にしたら語感がよくてマザーグースみたいに唱えたくなる感じでいいと思うけど、いっそ『鍵掛け屋、仕立屋、兵隊、スパイ』でもよかったかもね(いやよくないか)。
裏切りのサーカス(2011/イギリス=フランス)監督:トーマス・アルフレッドソン 出演:ゲイリー・オールドマンジョン・ハートコリン・ファーストム・ハーディベネディクト・カンバーバッチマーク・ストロング、キーラン・ハインズ、トビー・ジョーンズデヴィッド・デンシック
http://uragiri.gaga.ne.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20647/index.html

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